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黒涙 [読書・冒険/サスペンス]


黒涙 (朝日文庫)

黒涙 (朝日文庫)

  • 作者: 月村了衛
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2019/09/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

前作「黒警(こくけい)」の続編。
ちなみに本作のタイトルは「こくるい」と読む。

前作において、警視庁組織犯罪対策第二課所属の
警部補・沢渡(さわたり)は、日本の暗部に潜む
 ”黒社会” 組織「義水盟」の大幹部・沈(シェン)と
義兄弟の契りを結ぶことになった。

二人の共通の友人であった男の死を契機に、彼らは
国や人種を越えて自分たちの〈信義〉を貫くことを決意したのだ。

昼行灯な刑事が、実は裏社会とつながる顔を持っていて
法で裁けぬ悪を、自らの手で闇に葬る・・・
なぁんて書くと、まんま「必殺仕事人」だが、
実際、前作「黒警」は現代版 ”必殺” って評もあった。
もちろん主人公・沢渡の造形は中村主水がモデルだろう。

しかし、内容としては ”必殺” よりは ”ハングマン” の方に近いかな、
なんて感想を前巻の記事では書いた記憶がある。
”敵” の命を奪うのではなく、悪行を世間にさらして
社会的な制裁を与える、って展開だったからね。

では、本書はどうか。
前作を踏襲して安易にパターン化することなく、
新たな局面を描いていく。事件のスケールも大きくなって。


政府要人の個人情報が中国側に筒抜けになっていることが明らかになり、
警視総監の判断で部署を超えた特別捜査チームが編成される。
目的は、政府内から中国への情報漏洩ルートを摘発すること。

警視庁公安部、警備部、刑事部、組織犯罪対策課から
エース級の捜査員が集められたが、なぜかその中に沢渡も選ばれる。
卓越した才能と実績をもつ滝口警視正の指揮のもと、
チームは中国スパイ網摘発の捜査を開始する。

やがて、在日華人の親睦団体である
「宝石(パオシー)日籍華人連誼(れんぎ)会」が
中国諜報部の隠れ蓑になっている可能性が浮上するが
懸命の捜査にもかかわらず、そこから先への突破口が開けない。

そんなとき、沈はインドネシアの青年実業家・ラウタンを引き込む。
中国の強引な海洋進出に反発するラウタンは、
日本における中国スパイ摘発に自発的に協力を申し出たのだ。

沈の手引きで、親中派の国会議員主催の日中経済交流会に参加した
ラウタンは、新進気鋭の実業家として名前を売り込むことに成功する。

順調に日中の政財界に食い込んでいくラウタンだが、
彼の前にシンシア・ユンと名乗る謎の女が出現する。
やがて彼女を愛するようになったラウタンは、逢瀬を重ねていく。

それと並行して、ラウタンは沢渡を通じて警視庁の特捜チームに接触、
滝口はラウタンを使っての ”囮捜査” を立案するのだが・・・


本作も、基本フォーマットは ”必殺” なのだろう、と思っていたので
物語の流れを予想しながら読んでいた。
「ラウタンは死んじゃうんだろうなぁ」とか
「シンシアは絶対に敵の回し者だろ」とか。そんなら、
××が実行犯で××が黒幕で××が裏切り者かなあ・・・とか。

その予想は当たるところもあり、外れるところもあり。
さすがに簡単に見破られるような展開にはしないよねぇ。
実際、明かされてみるとちょっと意外である。

ラストも前作みたいな決着の仕方をするのかと思っていたのだが、
そんな ”甘い” ことでは収まらないだろうと思うようになった。
なにせ今作の敵は前作以上に巨大かつ冷酷非情だったから。

終盤の展開は、前作とはうって変わって重苦しく、やるせない。
沢渡も、前作以上に警官としての一線を越えた行動を強いられる。

てっきり、長く続くシリーズになるかと思ってたんだが、
ここで完結してもおかしくない幕引きを迎える。

もうちょっと沢渡と沈のコンビを見たかったんだけど
第3作はもうない・・・のかなぁ?

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