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カツベン! [映画]


いろいろな意味で ”残念” な映画でした。

ネットの評判をみてみると、案外高評価している人が多いみたい。
まあ、人の好みはそれぞれですからねぇ。
私の好みの範囲には収まってくれなかったということで。

katsuben.jpg
時代は100年前、というと大正時代か。

当時の映画には音声がなく、「サイレント映画」と呼ばれていた。
日本では、映画の上映中に楽士が音楽をつけ、
カツベン(活動弁士)が映画の配役のすべての声を担当し、
さらには解説を蕩々と語るというスタイルで大衆に提供されていた。
人気の活動弁士を抱えることが、映画館の浮沈にもつながる時代だった。

主人公の染谷俊太郎は、活動弁士を夢見る少年だったが
成長した彼は、なぜか窃盗団に所属する偽弁士となっていた。

 映画の上映中は、住民が映画館に集まってしまうので
 近隣一帯が無人になってしまい、その間は盗み放題。
 まさに映画は、当時最大最強のエンターテインメントだったんだね。

ある日、逃亡中に窃盗団とはぐれてしまった俊太郎は
盗んだ金を抱えて小さな町の映画館・青木館に流れ着き、
そこで働き始める。

折しも青木館は新興のタチバナ館に押され、経営難に陥っていた。
雑用係として働いていた俊太郎だったが、
ある切っ掛けで弁士を務めることになる。
彼の ”語り” は人気を呼び、青木館には客が押し寄せるが
それを黙って見ているタチバナ館ではなかった・・・


封切り前に映画館で見た予告編では、コメディ色が前面に出ていて
てっきり喜劇映画なのだと思って足を運んだのだけど、
その期待はいささか外れたように思う。

まず主役二人の設定が笑えない。

タチバナ館のオーナーが、実は窃盗団の親玉で
盗んだ金を持って逃げた俊太郎を未だに追い続けているし
警察もまた、窃盗団検挙を諦めていない。

ヒロインとなる沢井松子は、俊太郎の幼なじみにして初恋の相手。
彼女のほうは「女優になる」という夢を実現していたが
その代償として、人気弁士・茂木の愛人となっている。

主役二人が犯罪者と愛人という組み合わせでの登場で、
観客の身からすると、感情移入するにはハードルが高いなあと感じた。


では他の登場人物はどうか。

青木館で働く弁士や楽士、映写技師なども個性豊かな面々なのだが
彼らの行動には、可笑しさよりも自我の強さのほうを多く感じて
なかなか笑いにつながらない。
経営者役の竹中直人が出てくると、やっと喜劇っぽくなるんだけど
その彼が浮いて見えるのはいかがなものか。

タチバナ館側の悪党たちのキャラも極めてマンガ的なんだが
親玉役の小日向文世が意外に強面の演技で、こちらも気楽に笑えない。


全体として感じたのは、喜劇としてもシリアスなストーリーとしても
中途半端じゃないかなぁ、ってこと。
観客を笑わせたいのか、しんみりさせたいのか・・・
このあたりの戸惑いは、映画が終わるまで消えなかった。


終盤、タチバナ館の乱暴狼藉によって
閉館の危機に追い込まれた青木館が繰り出す起死回生の一手も、
事前の伏線で「たぶんアレを使うんだろうなぁ」とは予想がつくが
それが効果的かと問われたら、素直にYESとは答えられない。
あまりにも苦し紛れで、あれで観客が満足するとは到底思えないんだけど
100年前の観客なんだからあれでいいんだ、ってことなの・・・?


その後に起こる俊太郎と窃盗団との追いかけっこも、
登場人物たちがスクリーン狭しとドタバタ走り回るのはいいんだけど、
なんともテンポが悪くてスピード感も緊張感も乏しいように感じたし。
おそらくここが最大の ”笑わせ” ポイントなのだろうけど・・・


更にこの映画には、”サイレントの時代を描く”、という側面もある。

映画の冒頭では、サイレント映画を撮影している様子が描かれるのだが
これはなかなか興味深い。
曇ると撮影が中断したり(晴れてないと撮影ができない)、
トラブルが発生してもそのまま撮影を続け、編集で何とかしたり。

さらに上映にあたっては、弁士の説明ひとつで
映画の解釈が180度変わってしまう、というシーンが描かれる。
これには驚かされた。いやはや弁士の力、恐るべし。


とまあこんな具合に、2時間の映画の中に欲張って
いろいろ盛り込み過ぎたせいで、かえって
どれにもなりきれない映画になってしまったような気がする。


ラストもすんなり腑に落ちるというものではなかったように感じた。
俊太郎が持ち逃げした金の扱いも疑問だし
主人公二人の落とし所は、ああいう形で良かったのかなあ・・・
すっきり割り切れる大団円がほしかった、って感じたのは私だけかな。


120分の映画なのだけど、要素を整理して90~100分くらいに収めて
喜劇なら喜劇に、シリアスならシリアスに徹していたら
すっきりして見やすい映画になったんじゃないかなあ・・・


いろいろ書いてきてしまったけど、役者さんはとても頑張っている。

成田凌くんは初主演らしいけど、堂々と弁士を演じていてたいしたもの。
ヒロインの黒島結菜さんも、かわいらしく清楚な中に
凜として意思の強さを感じさせる女性を好演している。

主役二人の幼少期を演じた子役たちも素晴らしい。
男の子は長台詞を達者にこなし、女の子の哀歓の表情も豊か。
ただ、映画冒頭のこの幼少期の部分がいささか長すぎるのは気になった。
あ、これはこの子たちのせいではないよ。もちろん。

対照的な二人の人気弁士を演じた永瀬正敏と高良健吾。
タチバナ館のオーナーの娘を演じた井上真央の蓮っ葉ぶり。
窃盗団を追う、コミカルで熱血な刑事の竹野内豊。
そして端役の役者さんに至るまで、
みんなが実に強烈な個性を放っているのはスゴいと思う。ただそれが、
映画の面白さにはつながっていないように思えるのがねぇ・・・

あと、本編終了後のエンドタイトルを観ていて驚いたのが
上白石萌音、城田優、草刈民代、そして
シャーロット・ケイト・フォックスという名前があったこと。

いったいどこに出てたんだろうってwikiを見たら分かった。
映画の中で上映されるサイレント映画のなかに映っていたんだね。

こういうところをみると、手間暇かけて作ったんだろうなあって思うし
俳優陣も豪華だし熱演しているし。
なんとももったいなくて、いろいろ残念な感じがして仕方がない。


最後にひとこと。
映画のラストカットで、スクリーンに文章が映し出されるんだけど、
これは映画の最初に出した方がよかったと思うなぁ。

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