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うまや怪談 神田紅梅亭寄席物帳 [読書・ミステリ]


うまや怪談 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

うまや怪談 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/10/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

寄席には30代の頃に一回だけ行ったことがある。
場所は浅草だったかなあ。
たくさん芸人さんが出たはずなんだけどほとんど覚えてない。
唯一、記憶にあるのは林家木久蔵(現・木久扇)師匠の
ものまねだけだったりする(おいおい笑)。

本書を読んでたら、また行きたくなったよ。

閑話休題。


二つ目の噺家・寿笑亭(じゅしょうてい)福の助とその妻・亮子を
主人公とした、落語絡みの ”日常の謎” 系ミステリ連作。
本書で3巻目となる。

福の助は最初、山桜亭馬春(さんおうてい・ばしゅん)に
弟子入りしたのだが、馬春が脳溢血を患い、
後遺症のため高座に上がれなくなってしまった。
そのため、福の助は他門に移り、芸名も変えた。

しかし馬春が病気療養のために千葉県館山市に転居した後も、
福の助はしばしば元師匠のもとを訪れる。
彼や亮子が、近況や身の回りで起こった出来事を語っていくと
馬春はその話の中から,意外な解釈を引き出してみせる。
という、いわゆる安楽椅子探偵ものである。


「ねずみととらとねこ」
紅梅亭で『若手落語家競演会』が開かれることになった。
落語協会が有望な若手噺家を5人選び、競わせようというもの。
賞金こそ少額だが、ここで注目を集めれば真打ち昇進が近づく。
その競演会に福の助も選ばれた。しかも兄弟子二人を飛び越して。
心躍る亮子をよそに、福の助は自宅で演目の稽古を始める。
そこへ、弟弟子の桃家福神漬(ももや・ふくじんづけ)が訪ねてきて
亮子に意外なことを告げる。参加者のひとりが怪我で出られなくなり、
その代わりに福の助の兄弟子で、陰険な性格で有名な
福太夫(ふくだゆう)が参加することになったという・・・

「うまや怪談」
毎月第二水曜日に行われる『二水会』は、寿笑亭一門の勉強会だ。
福の助は次の『二水会』での演目を「厩(うまや)火事」に決めた。
一方、私立高校の事務員として働く亮子の回りでトラブルが発生する。
短大の入試に合格していた女生徒が、大学には行かないと言い出した。
理由は、「水商売で働いて男を養うため」
その男として名が上がったのが26歳の社会科講師の只野。
しか女生徒と只野は付き合ってはいないのだという。
さらに、国語教師の野村鮎美(あゆみ)と
数学教師・矢萩の間にストーカー騒ぎが起こる・・・
鮎美とは大学時代の同級生だった福の助が、
事態の背後に隠れた事情を解き明かす。

「宮戸川四丁目」
前回の騒ぎで、蚊帳の外に置かれた馬春師匠はご機嫌斜め。
理不尽にも、福の助に対して ”出入り止め” を申し渡す。
福の助は師匠の怒りを解くべく、”あるもの” を作り上げる。
下座(寄席での出囃子などの演奏者)で三味線弾きの雅美姐さんから
軽自動車を借り、亮子と二人で ”あるもの” を
師匠の療養先の館山まで運んだのだが・・・
いやあ、古い芸人さんは遊びもスゴかったんだねえ・・・
って、ちょっと驚かされる一編。


”事件” と ”寄席での噺” の二つの発端から始まるんだけど
両者が乖離しないで、最終的に一つの物語にまとまっていくのは流石。
ミステリと落語と両方に精通していないとできない技だろう。

私は落語そのものには詳しくないし、だから
古典落語の演目を出されても皆目見当が付かない。
じゃあ本作は楽しめないか、というとそんなことは全くない。
(詳しい人はより楽しめるんだろうけど)
作中で懇切丁寧に解説が入るので落語初心者でも大丈夫。

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