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日曜は憧れの国 [読書・ミステリ]


日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/05/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主役は中学2年生の女子4人組。

暮志田千鶴(くれしだ・ちづる)は、カトリックの女子校に通う。
やや引っ込み思案な自分の性格に悩んでいる。
先崎桃(せんざき・もも)は、地元である四谷の公立中学校に通う。
気さくで誰とでも話ができ、明るいムードメーカー。
神原真紀(かんばら・まき)は、私立大学の附属女子中に通う。
何事もゲーム感覚で要領が良くこなしてしまう。
三方公子(みかた・きみこ)は超難関中高一貫女子校に通う。
読書家で博識だが、堅物すぎていささか融通が利かない面も。

そんな彼女たちが、それぞれの抱えた理由から
四谷のカルチャーセンターで体験講座を受けることになり、
たまたま同じテーブルに就いたところから物語は始まる。
タイトルの「憧れの国」とは、舞台となるカルチャーセンターの
キャッチコピーから来ている。

彼女たちが様々な講座で出会う ”事件” を描く、連作短編集。
いわゆる ”日常の謎” 系ミステリだ。


「レフトオーバーズ」
人気講師が指導する料理教室に参加した千鶴たち4人は
中学生同士と言うことで一つのテーブルに集められてしまう。
初対面の挨拶もそこそこに、彼女らは慣れない料理に大苦戦。
そのさなか、参加者の女性の財布が盗まれるという事件が起こる・・・
ちなみに ”レフトオーバーズ” とは、”余り物” という意味だそうな。

「一歩千金二歩厳禁」
将棋教室に参加した4人組。講師は元棋士の恩田、
アシスタントは彼の孫の駒子、ちなみに小学5年生。
基本的な解説の後に、対戦に入ったのだが
将棋にいささか心得のある桃は、ある ”企て” を試みるのだが・・

「維新伝心」
歴史講座に参加した4人組。講師は因幡(いなば)という老紳士。
関ヶ原から始まり、江戸時代の終わりまでが語られるはずだったのだが
維新の直前にまできたところで突然、因幡が倒れてしまう。
命に別状は無かったものの講座は途中で終了。そんな中、
真紀は講座の最後の内容を当てようというゲームを他の3人に提案する。

「幾度もリグレット」
20年のキャリアを持つ人気作家・奥石衣(おくいし・ころも)。しかし
ここ数年、新作の発表は無く、公式の場への露出も減ってきていた。
そんな奥石が講師を務める創作講座に参加した4人。
与えられた課題は、提示された物語の ”続き” を考えること。
千鶴も桃も真紀もそれぞれの結末をまとめるが、
公子だけは悩みに悩んでしまう・・・

「いきなりは描けない」
四ツ谷駅に近い公園で、最後の講座は何にしようか考える4人。
そのとき、風に吹かれて千鶴の足下に転がってきたのは
スケッチブックから破り取られ、丸められた切れ端。
しかしそれには、素晴らしい出来映えの鉛筆画と「助けて」の文字が。
千鶴→桃→真紀と、リレー形式で情報を集めて絵の描き手を探し出し、
公子が最後の締めを担当する。4人の見事な連携が描かれる。


4人のお嬢さんそれぞれが葛藤を抱えている。
それは自らの性格だったり、家庭環境だったり、
今の生き方への不満だったり、将来への不安だったり。

でもそれは、彼女たちが本質的に真面目だから。
目先の損得や快楽よりも大事なものがあるはずだと気づいているから。
充実した人生を生きていきたいと欲しているから。

事件と関わっていく中で、4人それぞれが
自分と対話して、悩みの出口を探していく。
そんな少女たちの成長も本書の読みどころだろう。

本書には続編があって、それも手元にあるので近々読む予定。

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