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憂国のアカツキ [読書・その他]

憂国のアカツキ (双葉文庫)

憂国のアカツキ (双葉文庫)

  • 作者: 大原 省吾
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

前にもこのブログのどこかに書いたと思うんだが、
私は潜水艦ものが好きだ。
小学校の頃に「サブマリン707」や「青の6号」の
洗礼を受けた身だからねぇ。
中学校の頃にTVで見た映画「眼下の敵」にもシビれたし。
「雷撃深度十九・五」も面白かったし、
「終戦のローレライ」なんて好きな小説の五本指に入る。

ただ、潜水艦もの自体、あまり作品数が多くないんだよね。
本作でも潜水艦が活躍するのだが、残念ながらメインは陸戦である。


1944年夏。
日本軍は、中国大陸での戦争継続の資金として、
ニューギニアのリヒル島で発見された金鉱山から、
金塊10tを本土へ輸送する作戦を立てる。

 ちなみに、今日(8/26)の金相場で計算すると466億円相当だ。

しかし敗色濃い海軍にとって、輸送に回せる潜水艦はない。
そこで白羽の矢が立ったのは、
驚異的な性能を持つ試作潜水艦・伊211だった。

同じ頃、アメリカ軍もまた南方諸島に金鉱があるとの情報を得て、
頻繁に偵察機を飛ばしており、リヒル島の鉱山が発見されるのも
時間の問題となっていた。

そこで日本軍は、リヒル島近傍のマレンドック島に金鉱がある、
との偽情報を流し、同時にマレンドック島守備隊に
"囮" となって、アメリカ軍を相手に
リヒル島からの金塊搬出を完了するまでの2週間、
島を死守せよとの "玉砕必至" の命令を下す。

マレンドック島守備隊長・藤田中佐は過酷な命令を受け入れるが、
副官の庄野少佐は、アメリカ軍に対する抗戦策 "夕作戦" とともに、
守備隊玉砕後に発動する "日本の未来のため" の
"暁作戦" なる秘策を立案する・・・

守備隊に与えられた過酷な命令に憤りの気持ちを抑えられない
ラバウルの陸軍第8方面軍参謀・山之内大佐は、
守備隊の求めに応じて武器弾薬をかき集め、
マレンドック島へ送ることにする。

その任務を与えられたのは、学徒動員された陸軍少尉・篠原。
育ちの良さから「坊ちゃん少尉」と揶揄されながらも、
当時としては珍しい柔軟な思考の持ち主で、この物語の主人公だ。

武器弾薬を満載した輸送船でマレンドック島へ赴くが、
到着早々に輸送船が故障したために島に取り残され、
なし崩し的に守備隊へ組み込まれてしまう。

そして9月10日。キンケード大佐率いる
アメリカ陸軍・第150歩兵連隊5000名が
ついにマレンドック島への上陸を開始する。
対する日本軍守備隊はわずか1000名。
圧倒的な劣勢の下、14日間にわたる死闘の幕が切って落とされる。


上の方に「メインは陸戦」て書いたが、本書においては
マレンドック島の戦闘が7割、伊211の航海が3割くらいの比率だ。

太平洋戦争末期の南方の戦いって悲惨なイメージしかないんだけど
それだけではエンターテインメントにならないので、
作者は様々な工夫をしている。

マレンドック島守備隊は、陸軍の "はみ出し者集団" という設定だ。
隊長の藤田中佐からして、大陸の戦闘において理不尽な命令に逆らい、
南方へ左遷されたという経歴を持つ。
他の上級士官たちも、能力は一級品なのに
「軍」という組織からはじき出された者が多く、
様々な経緯で藤田中佐のもとへ集まってきている。
そんな彼らの、まさに "一世一代" の大活躍が描かれる。

序盤の戦いでは、日本軍の打つ手がことごとく決まっていく。
「こんなにうまくいくわけないよなあ」なんて、
ちょっと醒めてる自分もいたりするんだけど、
読んでいて楽しくないと言えば嘘になるし、
そんな不満を口にするのは野暮というもの。
ここでは守備隊の必死の反撃を素直に応援するのが正しい読み方だろう。

まあ、アメリカ軍のキンケード大佐が
典型的な "ダメ指揮官" に設定されているのも大きいんだが。

戦いを通じて、軍人として士官として成長していく篠原少尉、
専門である砲術以外には全く興味を示さない如月中尉、
誠実にして実直な指揮官の藤田中佐と、守備隊の士官たちも
なかなか個性的なキャラが揃っているが、その中でも
"暁作戦" 考案者の守備隊副官・庄野少佐が光ってる。
日英混血という出自といい、作戦を立案する頭のキレといい、
アメリカ軍を手玉にとる○○力といい、とにかく有能すぎる。

しかし、どんなに序盤で優勢であろうと
圧倒的な物量差は如何ともしがたく、
後半になると守備隊の弾薬も乏しくなり、敵の指揮官も
有能な副官であるシンクレア中佐にバトンタッチするので
次第に旗色が悪くなっていく。

予め勝ち目のない戦いであることは分かってはいるものの、
感情移入した登場人物たちが次々に命を落としていくシーンは胸が痛む。
これは戦争を扱う作品では避けて通れないところだろうけど。

マレンドック島陥落と同時に発動する、
守備隊1000人の願いが込められた "暁作戦" については、
内容に触れること自体がネタバレになるのでここでは書かない。
もし本書に興味を持った方がいたら、ぜひ読んでいただきたい。

運び出された金塊10tの扱いはどうするのだろうと思ったのだが、
最終的な着地点は充分納得のいくもので、
物語に深みを与えていると思う。


太平洋戦争ものをエンターテインメントにするのは難しいと思う。
全滅させたら悲惨すぎて読むのがつらいし、
生き残りが多すぎるとリアリティが損なわれて絵空事に見えそうだし。

本書の評価も人によって様々だとは思うんだけど
私はエンターテインメント性とリアリティのバランスが
うまくとれた素晴らしい作品だと思う。

作者は本作がデビュー作らしいけれども、新人らしからぬ完成度だ。
いつかは、潜水艦が主役の作品を書いていただきたいものだ。


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コメント 5

mojo

makimakiさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2014-08-27 22:31) 

大原省吾

「憂国のアカツキ」の著者の大原です。

拙書のご紹介、ありがとうございました。
また、本人が恥ずかしくなるほどの高評価をいただき、恐縮です。

この作品以外では、外国で人質になった同僚を救うため、身代金をゼロから調達すべく立ち上がった商社マンの活躍を描く「レバレッジ!」という作品も書いていますが、 最近は本業(サラリーマン)が忙しく、なかなか執筆の時間が取れません。 潜水艦ものはいつか書いてみたいです。


by 大原省吾 (2014-08-29 13:59) 

mojo

大原省吾さん、はじめまして。

まさか著者の方から直にコメントをいただけるとは
望外の喜びではあるのですが、冷や汗も出てしまいますね(^_^;)。
ありがとうございました。
長いことブログをやってると、こんなこともあるのですねぇ。

「レバレッジ!」も文庫になったら読もうと思っています。
その時はまた感想をupしますのでよろしくお願いします。

本業を持ちながら、それと並行して作家活動を続けていくのは
時間のやりくり一つとっても、さぞかし大変なことなのだろうと推察します。
お身体だけは大切にして下さい。

「潜水艦ものはいつか書いてみたいです。」
これは嬉しい! お待ちしております。

駄文の垂れ流しのようなブログですが、よろしかったらまたお越し下さい。
ありがとうございました。
by mojo (2014-08-30 02:17) 

大原省吾

大原省吾です。
わざわざのご返信、ありがとうございます。

現在、海外駐在でシンガポールにいますが、出張も多く、作家活動のほうはなかなか時間が取れません。

早く定年になればよいのですが……。(笑)

ブログは、またちょくちょく寄らせていただきます。

更新は大変でしょうが、頑張ってください。

大原拝





by 大原省吾 (2014-09-01 13:38) 

mojo

大原省吾さん、こんばんは。

海外勤務とは大変ですね。健康に気をつけてがんばって下さい。

私も定年になれば、家中に溜まった"積ん読"状態の本を
片っ端から読むんですけどねぇ・・・

コメントありがとうございました。
また、よろしくお願いします。
by mojo (2014-09-01 22:10) 

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