SSブログ

SAKURA 六方面喪失課 山田正紀・超絶ミステリコレクション #6 [読書・ミステリ]



評価:★★★


 警視庁綾瀬署にある "喪失課" は、ダメ刑事の吹きだまり。しかし、所轄内で起こった自転車盗難や下着泥棒など、最底辺の事件を追っていたはずの彼らは、いつのまにか途方もない大事件に巻き込まれてしまっていたのだった・・・


 警視庁は、どうしようもない、あるいは使い物にならない、いわゆる "クズ" な刑事を、綾瀬署に新設した「失踪課」にまとめて放り込んだ。
 「失踪課」とは〈失踪人の捜査を重点的に行う部署〉というのは大嘘で、実は "問題刑事の一時保管場所" だった。そのうちまとめてクビにしてやろう、という魂胆だ。
 だから他の刑事たちは「失踪課」を揶揄して "喪失課" と呼んでいる。
 本書はこの "喪失課" に所属する ”はぐれ刑事” たちが遭遇する事件を描いた連作短編集だ。

 ちなみにタイトルにある「SAKURA」とは、本書に登場する、半ば都市伝説化した犯罪コンサルタントのコードネーム。
 そして「六方面」とは、警視庁が東京都を第一~第十まで区分したもののひとつ。綾瀬署は「第六方面」に含まれてる。


「プロローグ」
 綾瀬署の近辺で不発弾が発見されたとの情報が入り、陸上自衛隊の不発弾処理隊が現地へ向かう。周辺住民が避難して無人となった街へ、巡回警備に向かったパトカーから無線が入る。
 「街がない! 北綾瀬の街が消えてしまった!」・・・
 なんとも壮大な謎の出現。この謎解きは「第六話」で。


「第一話 自転車泥棒」
 北綾瀬駅前に放置された自転車は定期的に撤去される。その日も12台の自転車が撤去されたのだが、それを乗せたワゴン車が、運転していた職員ごと消えてしまった・・・


「第二話 ブルセラ刑事」
 ブルセラショップに何者かが侵入、大量のパンティを奪っていった。店へ聞き込みに行った綾瀬署喪失課の刑事・鹿頭(ししとう)は、なりゆきで○○○○○○を買わされる羽目になるが(おいおい)・・・。
 いやあ、○○○○○○をこんなふうに使った小説は初めてだろう(笑)。


「第三話 デリバリー・サービス」
 ピザ屋のアルバイト店員が、スクーターで宅配に出たまま帰らない。喪失課の刑事・年代(ねんだい)は調査を開始、まもなく解決するが、そこから別の誘拐事件の可能性が浮上してくる・・・


「第四話 夜も眠れない」
 不動産屋・野村の絞殺死体が発見される。やがて目撃者が見つかり、被害者は地下鉄の終電の車内で殺されたものと判明する。有力な容疑者が浮上するが、彼にはアリバイがあった・・・
 本書では、おそらくいちばんミステリらしい(?)事件。


「第五話 人形の身代金」
 喪失課課長・磯貝(いそがい)は、かつて同僚だった長谷(はせ)の妻に呼び出された。長谷は博奕で身を持ち崩し、借金取りのヤクザに追われているという。
 ヤクザは夫婦の9歳になる娘に目をつけたようだが、その少女は公園の遊歩道にある洞窟の中で姿を消してしまう・・・
 人間消失トリックはシンプルだけど、小道具の使い方が上手い。


 「第一話」~「第五話」では、それぞれ喪失課所属の別々の刑事たちが活躍する。
 "使い物にならない刑事" というのも、同人誌に論文を載せちゃうくらいのアニメオタクだったり(笑)、早朝からソープランドに通ったり(おいおい)、博奕大好き人間だったり、偏屈だったり怠け者だったり融通か効かなかったり協調性が皆無だったりなどが原因で "失格" の烙印を押されてはいるが、決して "刑事として無能" ではない。
 だから彼らが本気で取り組んだ事件は、謎は解けるしきっちりと解決もされる。
 そしてこの五つの話はほぼ同時進行していて、それぞれ単独の事件のように見えているが、根っこの部分で深く関係していることが判明していく。


「第六話 消えた町」
「エピローグ」
 最終話となる「第六話」では、すべてのつながりが明らかになり、壮大かつ意外な犯罪が浮上してくる。
 「プロローグ」の "街が消える" 謎の真相もここで判明するが、わかってみれば極めてシンプル。シンプルすぎる故に誰も思いつかなかった、というか使おうとすら思わなかったともいえる。これは本書内に登場するいくつかのトリックにも共通する特徴だろう。

 本職がSF作家なせいか、普通のミステリ作家とちょっと異なる感性というか、こういうトリックをさらっと使ってしまえるのが山田正紀なのだなぁと納得してしまう。



nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ: