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みどり町の怪人 [読書・ミステリ]


みどり町の怪人 (光文社文庫)

みどり町の怪人 (光文社文庫)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/01/11

評価:★★★


 首都圏のベッドタウン・みどり町。そこでは二十数年前、凄惨な母子殺人事件が起こっていた。犯人は捕まらずに迷宮入り。殺人者は未だ近くにいるのではないか。そんな疑心暗鬼が都市伝説を生んだ。
「みどり町には "怪人" が出る」という・・・。
 そして現代。みどり町で起こる不可解な事件を綴った、ホラータッチな連作ミステリ。


 埼玉県の県庁所在地から電車で30分ほどのところにある(と設定されている)街・みどり町。関東地方に住んでる人なら、いくつか候補が思い浮かぶかも知れない。都会ではないが田舎とも言い切れない。典型的な首都圏のベッドタウンだろう。
 そこでは二十数年前、凄惨な事件が起こっていた。若い母親とその子どもが何者かに殺害されたのだ。犯人は捕まらず、やがて都市伝説が生まれた。「みどり町には "怪人" が出る」・・・


「第一話 みどり町の怪人」
 みどり町へ引っ越してきた若いカップル・奈緒(なお)と春孝(はるたか)。春孝は職探しに出かけ、奈緒は買い物の途中で出会った少年から〈みどり町の怪人〉の噂を聞く。しかしその少年は、奈緒がちょっと目を離したすきに煙のように姿を消してしまった・・・
 「〈怪人〉が来る」と口走る老女、奈緒を尾行する謎の人影などが登場して雰囲気を盛り上げるが、ラストに意外な事実が明らかに。
 連作短編の導入部の話。舞台設定や町の様子の説明を織り込みながら、つかみは "ばっちり" だ。


「第二話 むすぶ手」
 姑・俊子の病気が原因で、早紀子は夫・裕樹とともにみどり町で姑と同居することに。価値観の合わない俊子との暮らしにストレスを溜める早紀子。
 そして同居から2年後、俊子は足を骨折し、早紀子はその介護に追われ、頼みの裕樹は単身赴任となってしまう。
 俊子との息が詰まるような生活を強いられる早紀子だが、やがて家の中で不可解な出来事が起こっていることに気づく・・・
 ミステリと云うよりは心理スリラーっぽいかな。穏便に終わりそうで最後にひとひねり。


「第三話 あやしい隣人」
 みどり町で教材販売会社の営業をしている田口。最近、会社の隣のデスクにいる柏木の様子がおかしい。そんなとき、会社内の階段で、田口は何者かに後ろから突き落とされてしまう。幸い軽い怪我で済んだが、田口は柏木が犯人だと睨み、自ら調べようとするのだが・・・
 殺伐とした話なのだが、時折挿入される田口の娘・由花の話がいい効果を上げている。


「第四話 なつのいろ」
 みどり町の小学校に勤務する友美子先生は20代後半。柔道がとびきり強いけど明朗快活、愛嬌たっぷりで児童からは大人気だ。しかしその友美子先生が1学期いっぱいで学校を辞めてしまうらしい。彼女が担任するクラスの男子3人は、口うるさい親からの苦情が原因だと思い込み、対策を考えだした。〈みどり町の怪人〉の実在を証明すれば、校長先生は腕っ節の強い友美子先生を引き留めるのではないか・・・
 本書の中ではいちばん微笑ましい話かな。殺伐としたものばかりでは息が詰まってしまうから、こういうエピソードも必要だろう(笑)。


「第五話 こわい夕暮れ」
 塾帰りの女子中学生が行方不明になり、〈みどり町の怪人〉の仕業ではないか、という噂が立っていた。大学生の卓(すぐる)と慎也は、怪人の正体を掴んで有名になろうと行動を始める。町のはずれにある、こじんまりとした山に怪人がいるという噂を聞きつけ、二人でそこへ向かうのだが・・・
 卓はいつみという女の子と遠距離恋愛中で、そちらの進行状況も同時進行で語られる。メインストーリーの真相は見当がつかなくても、こちらの恋模様の行方は誰でも予想できるだろう(おいおい)。


「第六話 ときぐすり」
 橘ゆりは中学3年生。塾の特進クラスにいるが成績は伸び悩んでいた。そんなとき、同じ特進クラスの日高薫が失踪する。美人で成績もトップクラスの薫は〈みどり町の怪人〉に掠われたという噂が広まる。
 一方、ゆりは模擬試験でマークシート記入でミスをしてしまい、そのショックから、ある行動に出ようとして・・・
 作中でゆりは、レインコートを着た謎の男と出くわすが、その意外な正体も明らかになる。彼は〈みどり町の怪人〉なのか・・・?


「第七話 嵐の、おわり」
 〈みどり町の怪人〉伝説、締めくくりの物語。
 第一話~第六話まで張られてきた伏線が回収される。二十数年前の惨劇の真相、そして殺人犯の行方も明らかに。これまでの話のキャラも何人か再登場し、まさにカーテンコール。


 基本的にはミステリなのだが、内容は日常の謎、コージー・ミステリ、ジュヴナイル、サスペンス、ホラー風なオチとなかなかバラエティに富んだ内容を含んでいて、改めて作者の引き出しの多さを実感する。



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