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平成ストライク [読書・ミステリ]


平成ストライク (角川文庫)

平成ストライク (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/10/23

評価:★★☆


 「平成」の時代に起こった事件や、流行った物事などをテーマにしたミステリ・アンソロジー。
 各短編の題名・作者名の次にある[ ]内にあるのが、その作品で扱った "平成の出来事" だ。


「加速してゆく」(青崎有吾)[福知山線脱線事故]
 作者の短編集で既読。以下はそのときの記事の再掲。
 平成17年(2005年)4月25日。JR福知山線で起こった脱線事故を題材にしたミステリ。
 この日、出勤途中だった報道カメラマンの植戸(うえと)は、JR尼崎駅のホームで事故発生を知る。急遽タクシーで現場へ向かい、近くの工場の上層階から現場の俯瞰写真を撮り始めた。そのとき、傍らに1人の男子高校生がいることに気づく。彼の行動に不審なものを感じる植戸だったが・・・
 この事故のことは覚えてる。JR史上最大の惨事だったらしい。写真で見た現場のあまりの異様さに驚いたことを覚えている。
 男子高校生の抱えた "事情" については明言されないのだけど、見当はつく。こちらも平成の終わりくらいからけっこう議論になってる話題ではある。


「炎上屋尊徳」(井上夢人)[炎上、バイトテロ]
 体育大学に通う舟山恵美(ふなやま・めぐみ)は、所属するバレーボール・チームのコーチ・奥原俊幸(おくはら・としゆき)からの厳しい体罰に苦しんでいた。
 恵美の友人である "私" は、その話を聞いて知り合いのマジシャン・比良渡尊徳(ひらと・たかのり)に相談する。彼は「奥原に再起不能なほどのダメージを与えよう」と、恵美に体罰シーンの隠し撮りを指示する・・・
 特定個人/特定企業を狙った炎上動画の作成を生業にする "炎上屋"。成功体験に味を占めて次第にエスカレートしていく様子も不気味。


「半分オトナ」(千澤のり子)[児童虐待]
 小学4年生のときに学校行事として行われる「1/2成人式」。10年間の生活を振り返り、親に感謝し、今の自分ができることを披露する。
 しかし一人親家庭で暮らす正宗は、なんとか「1/2成人式」を中止にさせたい。そこで友人の武田を巻き込んで、"ある計画" を実行に移す・・・
 平成時代に始まった「1/2成人式」なるもの、現在はすっかり定着しているという。それにも驚くが、本作のミステリとしての出来にも驚く。二重三重に読者を誤誘導する仕組みにしっかり翻弄されてしまった。
 しかしこのラスト。ハッピーエンドなのか、新たな悲劇の始まりなのか・・・


「bye bye blackbird...」(遊井かなめ)[渋谷系]
 1999年12月25日。六本木WAVEが閉店した夜、ピンサロ「C Love.com」の売上金が盗まれ、"僕" の友人・さんちゃんに容疑がかかる。追われているさんちゃんを救うため、"僕" はAVショップの店長・ハラグチに助けを求めるが。
 とてつもなく猥雑で退廃的な、世紀末頃の都会の夜の風俗を背景にした物語なのだが、田舎者の私には、この手の話には疎くて今ひとつピンとこない。
 20代の頃、当時の同僚に池袋近辺にあったキャバクラに連れていかれたことを思い出したよ(笑)。


「白黒館の殺人」(小森健太朗)[人種差別]
 日本有数の資産家・田畑勝義(たばた・かつよし)は、悪名高い黒人差別団体KKKに似た団体を設立すると発表、世間から非難囂々となっていた。
 その田畑が、住まいである〈白黒館〉で射殺死体となって発見される。探偵として名高い刑事弁護士・栗生慎太郎(くりお・しんたろう)は警察とともに現場にやってくるが・・・
 オチは古典的なネタなのだが、それを現代の作品でやってしまったら「いくらなんでもそれはないだろう」だよなぁ。


「ラビットボールの切断 こども版」(白井智之)[新宗教]
 新興宗教ラビットは、山荘を施設とし、教祖・宍戸春と4人の信者たちが暮らしている。その春が殺されるという事件が起こる。犯人は信者たちの中にいるのだが・・・
 この作者さんは独特の世界観の中で展開されるインモラルな描写で有名なのだが、どうもそこのところが私とは合わなくて、こういうアンソロジーでしかお目にかからない。
 ミステリ的にはとてもきっちりできあがってるのがまた困るんだよなぁ(笑)。


「消費税狂騒曲」(乾くるみ)[消費税増税]
 2015年(平成27年)、三浦卓也(みうら・たくや)のもとへ浮気相手の矢代舞子(やしろ・まいこ)から連絡が入る。夫を殺してしまったのだという。夫と背格好が似ていた三浦は、替え玉を務め舞子のアリバイを作ろうとするが・・・
 この事件を挟んで、1989年(平成元年)から導入された消費税で起こった町中のさまざまな小騒動が描かれていくのだが、それが事件とどう関わるかが読みどころか。
 時折挿入される新本格ミステリがらみの小ネタが笑える。


「他人の不幸は蜜の味」(貫井徳郎)[ネット冤罪]
 お笑い芸人・ハピネスカトーが、未成年のときに女子高生を殺していたという噂が立ち、彼のブログには非難のコメントが殺到していた。
 丸の内で働くOL・美織は通勤途中での痴漢被害に悩んでいた。憂さ晴らしのために彼女もハピネスカトーのブログへ、彼の犯罪行為を糾弾するコメントを書き込み始めるのだが・・・
 「人の噂も七十五日」は過去の話か。放置しておくと更に炎上することも。書き込みひとつで誰でも犯罪者に仕立て上げられてしまう恐怖を描いた作品。
 「人を呪わば穴二つ」こちらは現代でも通用するかも知れない。


「From the New World」(天祢涼)[東日本大震災]
 2011年3月11日に起こった東日本大震災。その1年2ヶ月後、震災で母を喪った15歳の少年・玲生(れお)は、帰宅困難区域に指定された故郷・Q町へ一時帰宅をする。母が飼っていた猫・ムスを探すためだ。そこで玲生は、音宮美夜(おとみや・みや)という美しい女性と出会うのだが・・・
 美夜さんは作者のシリーズ探偵で、共感覚をもつ人。本作では犯罪は起こらないのだが、玲生の抱えた悩み苦しみに優しく寄り添って、彼を成長へと導いていく役回り。
 彼女はデビュー作『キョウカンカク 美しい夜に』から登場してる。これ、読んだはずなんだけど、どんな話だったかさっぱり覚えてないんだよねぇ(おいおい)。



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