SSブログ

ホテル・カリフォルニアの殺人 [読書・ミステリ]


ホテル・カリフォルニアの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ホテル・カリフォルニアの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 村上 暢
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 アマチュアミュージシャンの富井仁(とみい・じん:トミー)は21歳。ヒッチハイクでアメリカ大陸を横断中に、相棒のジミーとともに辿り着いたのが、砂漠の中にそびえる「ホテル・カリフォルニア」。
 そこでは連夜、パーティが開催され、女性歌手たちがそれに華を添えている。しかし歌手の一人が密室の中で殺される。外界から閉ざされたホテルでトミーたちは犯人捜しを始めるが、やがて第二の殺人が起こる・・・
 『このミステリーがスゴい!』大賞・"超隠し球" として刊行された作品。


 日本でインディーズバンドをやっている富井仁は、本場のロックの空気を体感するために、ニューヨークからロサンジェルスまでのアメリカ大陸ヒッチハイク横断にチャレンジする。その途中、アフリカ系米国人ジミーの車に同乗することになるが、モハーベ砂漠(アメリカ合衆国南西部にあり、面積は日本の約1/10、ほぼ九州と同じくらいらしい)で迷子になってしまう。

 そんな2人の前に現れたのは、巨大な館「ホテル・カリフォルニア」だった。人里離れた砂漠の中にあるそのホテルは、ごく一部の富裕層しか知らない超高級な "隠れ宿" だった。
 近隣の町へ通じる道はなく、必要物資輸送のために週に一度だけ定期便がやってくる。
 中央ホール・宿泊棟とは別にパーティ会場が7つもあり、毎日異なる場所でパーティが開催される。ホテルには多数の専属女性歌手がおり、その歌声でパーティに華を添えていた。

 宿泊費の代わりにホテルで働くことになった2人だが、3日目の夜、歌手たちのトップ(ここでは "歌姫" と呼ばれる)が密室状態の中で殺されてしまう。

 警察の介入が期待できない中、トミーとジミーは犯人捜しを始める。怪しげな振る舞いをする宿泊客の存在、歌手たちの間にある嫉妬・確執も明らかになっていくが、不可解な状況下で第二の殺人が起こってしまう・・・


 外部から隔絶した状況の館で起こる連続殺人と、本格好きならたまらない設定だろう。物理トリックや大がかりな仕掛けが使われているのは、いかにもデビュー作らしい。

 密室トリックについては、知っている人なら「ああ、あれだな」って見当がつくかも知れないが、その上にもうひと工夫してあるのは流石。
 第二の殺人のトリックは、うまくいった時のインパクトは抜群だが、実際には成功率は低そう。「いくらなんでもこれはないだろう」とも思うが、こういうことを思い切ってやってしまえるのも、新人さんならではか。評価は分かれるだろうけど(笑)

 探偵役をミュージシャンに設定してあるのも必然性があるし、相棒との掛け合いも楽しい。登場するキャラクターたちも、みなそれぞれ裏にいろいろ抱えていそうで、かつよく書き分けられてると思う。

 舞台になる「ホテル・カリフォルニア」についても、読んでいるうちに「あれ?」って疑問点がいくつか浮かぶんだが、ラストまでにはきちんと解消されるなど、設定もよく考えられてる。

 『このミステリーがスゴい!』大賞・"超隠し球" として刊行されたのも、伊達じゃないようだ。


 巻末の解説によると「『このミステリーがスゴい!』大賞において、純粋な本格ミステリで刊行までこぎ着けたのは本書が初」とのことだ。
 『ミステリー』と銘打った賞ながら、本格ミステリの応募が少なかったのは意外だが、考えてみれば、本格ミステリとして自信がある作品ならば「鮎川哲也賞」とか「メフィスト賞」へ応募しちゃうんだろうなぁ・・・。



nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ: