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卒業生には向かない真実 [読書・ミステリ]


卒業生には向かない真実 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

卒業生には向かない真実 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/07/18

評価:★★★


 グラマースクールを卒業し、数週間後にはケンブリッジ大学への入学を控えたピップ。しかし彼女の周囲に異変が起こり始める。無言電話、匿名メール、鳩の死骸、謎の落書き・・・。
 いずれも、6年前に起こった連続殺人事件の被害者の身辺に起こっていたこと。しかしその犯人は逮捕されて収監中のはず。ピップは姿なきストーカーと対決することに・・・


 『自由研究には向かない殺人』から始まる、イギリスの田舎町リトル・キルトンに住む少女ピップを主人公とした三部作の完結編。
 前作の時も書いたが、このシリーズは三作全体でひとつの大きな物語を形成している。だから二作目の『優等生は探偵に向かない』では、序盤から一作目のネタバレがあるし、本作の冒頭は、二作目の結末をそのまま引き継いで始まる。
 ついでに二作目のネタバレもあるので(いきなり本作から読み始める人はいないとは思うが)、前二作を読んでおくことを強く推奨しておく。


 前作『優等生は-』終盤におけるピップは、「精神的にいささか不安定になってしまったみたいで心配」って前作の記事に書いたんだが、本作に至ってもそれは改善されるどころか、ちょっとヤバいモノにまで手を出してしまうほど悪化している。
 一作目の "功績" もあって、ケンブリッジ大学への合格も決めたはずの優等生がここまで "変わって" しまい、驚きを通り越して衝撃的ですらある。


 そんなピップにさらなる追い打ちを掛けるように、身辺に奇怪な出来事が起こり始める。無言の電話、匿名のメール、首を切られた鳩の死骸、自宅の私道にはチョークで書かれた "首無し人間" と思しき謎の落書き。何者かがピップに害を為そうと迫ってきているようだ。

 これらの "兆候" を調べたピップは、6年前に起こった連続殺人事件の被害者たちの身辺に起こっていた ”前兆” と一致していることを突き止める。しかしその犯人ビリー・カラスは逮捕され、現在は刑務所に収監中だった。

 ひょっとしてビリー以外に真犯人がいるのではないか? ピップは自らの身を守るためにも、姿なきストーカーの正体を突き止めるべく調査を開始する・・・


 本書は文庫で650ページもある大作なのだが、中盤から物語の様相が一変する。何がどう変わるのかはネタバレなのだが、本書の惹句には「ミステリ史上最も衝撃的な三部作」とある。
 「最も衝撃的」なのかどうかは分からないが、予想の "斜め上" どころではないのは間違いなく、読者の多くは驚愕するのではないか。それくらいインパクトのある劇的な展開ではある。


 読んでみると分かるが、『自由研究-』の時点から既に種は蒔かれていたわけで、第一作の段階からこの結末まで構想していたとすれば、深謀遠慮に畏れ入るというか、作者は意地が悪いというか(おいおい)。
 第一作のヤングアダルト向けな明るめの作風から、ダークな雰囲気の二作目を通って、ブラックな三作目に辿り着いたというか・・・。こういう決着を迎えるとは、大半の読者は思いもよらなかったのではないかな。

 巻末にある作者の「謝辞」を読むと、こういう内容になった理由の一端が垣間見えるのだけど、この結末によってこの三部作は一種の "問題作" とも云える存在になってしまったわけで、評価が分かれるような気がする。

 解説によると、作者は20代でこの三部作を書き上げたとか。三部作合わせると文庫で1800ページくらいあるわけで、その筆力には感嘆するけれど、それに加えて、若いからこそ物怖じせずにこういう物語を描けたのかも知れないなぁ、とも思った。

 三部作を通じてSNSを駆使してきた現代の若者であるピップの物語らしく、本作の最終ページはSNSの一画面が掲載されて〆となる。
 でも、この内容はどう解釈すればいいのだろう。最終的なピップの着地点は読者の想像に委ねられた、ということだろうか。



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