線路上の殺意 鉄道ミステリ傑作選 〈昭和国鉄篇〉 [読書・ミステリ]
線路上の殺意 鉄道ミステリ傑作選〈昭和国鉄編〉 (双葉文庫)
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2020/10/15
- メディア: 文庫
評価:★★★☆
昭和の時代に発表された鉄道ミステリを4編収録。
いずれも有名作家さんのものばかり。
「早春に死す」(鮎川哲也)
東京駅八重洲口近くの工事現場で他殺死体が発見された。国領一臣(こくりょう・かずおみ)、茅ヶ崎の工場で働く会社員だった。
その日、彼は「東京で8時(20時)に女友だちに会うので、18時38分発の電車に乗る」と云って職場を出た。茅ヶ崎から東京まで約1時間10分。
しかし東京駅で彼と待ち合わせていた芝崎しず子は、19時50分着の電車にもその次の電車にも国領は乗っていなかったと証言、後に国領は20時38分着の電車に乗っていたものと判明する。
やがて容疑者として、しず子を巡っての恋敵である証券ブローカー・布田福次郎(ふだ・ふくじろう)が浮上するが、彼には完璧なアリバイがあった・・・
探偵役の鬼貫(おにつら)警部の推理によって、事件の様相が鮮やかに一変するところは流石に巨匠の技というべきか。ただトリック自体は古典的で、この時代(発表は昭和33年)だからこそ成立するものだろう。
「あずさ3号殺人事件」(西村京太郎)
小林和美は、恋人の岡田利男とともにTVのクイズ番組に出場して入賞、二泊三日の京都旅行を獲得していた。その和美のところへ、長谷川浩子と名乗る女から電話が入る。
「私も他局のクイズ番組で三泊四日の長野(松本・白馬)旅行が当たった。でもそこには何回も行っている。よければ、交換しませんか?」
和美たちも京都へは何度も行っていたので、2人は旅行を取り替えることに。
そして旅行当日。新宿発8時、終点白馬着12時52分の「あずさ3号」で出発した和美と岡田だったが、11時34分、塩尻駅を出た直後に岡田の死体がトイレで発見される。
和美は長野県警の刑事・小野とともに "長谷川浩子" を追うが、彼女もまた殺されており、やがて浮上した容疑者には確固としたアリバイがあった・・・
「あずさ3号」の路線図とか載っていて、さすがトラベルミステリの大家だと思わせる。文庫で約110ページと、長さとしては中編だが、二転三転するストーリーで読ませる。
「特急夕月」(夏樹静子)
岡山発宮崎行きの特急「夕月」に乗った会社社長・羽島(はじま)は、目の前に秘書課長の恩田(おんだ)が現れて驚く。出張で逆方向の明石に行ってるはずの男が、途中の駅から乗ってきたからだ。
実は恩田は羽島の殺害を企み、完璧な計画を立てて「夕月」に乗り込んできたのだった。しかし「夕月」は踏切事故のために途中停車してしまう。このままではアリバイ・トリックが破綻してしまう・・・
突然のアクシデントに翻弄される恩田の姿がブラック・ユーモア的に描かれる。とても珍しい状況を描いた作品とはいえるかな。皮肉がたっぷり効いた、ラストの切れ味が抜群だ。
「新幹線ジャック」(山村美紗)
新大阪発東京行き、16輛編成の「ひかり24号」。しかし発車直後、車掌の小池は若い男から拳銃で脅迫を受ける。「我々はグリーン車2輛を占拠した」
東京駅の総合司令所では事態への対応に追われる。グリーン車の乗客は約90人。犯人は5人組と思われ、様々な要求を突きつける。まずは「運転を自動から手動に切り替えろ」。
京都駅でグリーン車以外の14輛の乗客を解放した後、犯人グループは身代金を要求してきた。
「まず現金で3億円を名古屋駅に用意しろ。引き換えに乗客を10人解放する」
「以後、停車する駅ごとに3億円ずつ用意しろ。その都度、乗客を20人ずつ解放する」・・・
長編になりそうなネタをわずか文庫60ページ弱に収めてみせる。しかも、予想の遙か上を行くラストの鮮やかさ。短編だからこそ、この結末が際立つのだろう。いやはやトンデモナイ傑作だと思う。
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