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青髪鬼 [読書・ミステリ]


青髪鬼 (角川文庫)

青髪鬼 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/10/24

評価:★★☆


 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 表題作の中編と短編3作を収録。


「青髪鬼」

 ある日、東京の大新聞に、3つの死亡広告が掲げられた。
 1人目は日本の宝石王と呼ばれる大富豪・古家万造(ふるやまんぞう)、60歳。
 2人目は理学博士・神崎省吾(かんざき・しょうご)、45歳。
 3人目は月丘ひとみ。まだ13歳の少女であった。
 しかし、3人ともまだ生きているのだ。
 生者に対して仕掛けられた悪戯にしては極めて悪質だ。

 いつも思うことだが、横溝正史は物語の発端が上手い。読者の興味を引きつける導入部は名人芸だと思う。

 その直後、東京の大新聞社・新日報社へ、三津木俊助(みつぎ・しゅんすけ)記者を訪ねて一人の男がやってきた。応対したのは御子柴進(みこしば・すすむ)。どちらも横溝ジュブナイルではお馴染みのメンバー。進は今年中学を卒業して新日報社で働いていた。「サザエさん時空」ではなかったのだね(笑)。

 あいにく俊助は会議中で、男は一通の封筒を託して帰ってしまう。男の行動を不審に思った進は尾行を開始、そのとき、自分以外にもう一人、男を尾行している者がいることに気づく。

 日比谷公園までやってきた進は、女性の悲鳴を聞く。声を上げたのは月丘ひとみだった。死亡広告の秘密を教えると云われてここへやってきたが、彼女の前に現れた男が突然血を吐いて倒れてしまったのだという。
 その男こそ、俊助を訪ねてきた男だった。そして死体の上には、巨大な蜘蛛が蠢いていた!
 作者お得意の怪奇趣味もしっかり。

 そこへ謎の尾行者が現れて云う。倒れているのは古家万造の秘書であること、死亡広告を出したのは自分であること、目的は3人への復讐なのだと。そして男はかぶっていた帽子を取り、その容貌に進は驚く。
 つり上がった目、とがった鼻、大きく裂けた口、カサカサと乾き、しわの寄った灰色の肌、そしてその髪は、秋の空のように真っ青ではないか・・・

 というわけで、三津木俊助&御子柴進 vs 青髪鬼の戦いが始まるのだが、毎度のことながらそう単純な話ではない。ストーリーの進行とともに複数の青髪鬼が現れる。つまり「青髪鬼」の仮面の下で、何者かが別の悪巧みを進行させているのだ・・・

 過去の事件に端を発した物語は、暗号解読あり、他作品のキャラである "怪人・白蝋仮面" のゲスト出演ありとなかなか賑やか。いろんな要素がてんこ盛りのサスペンス作品だ。


「廃屋の少女」

 主人公は12歳の少女・千晶(ちあき)。
 ある夜、彼女の家に泥棒が入る。たまたま目を覚ました千晶は、泥棒の身の上に同情して金を渡そうとする。しかし彼女の言葉に心を動かされた泥棒は何も盗らずに去っていった。落語あたりにありそうな話だね。
 その半年後、莫大な財産を残して千晶の父が亡くなった。親類の青年・弓雄(ゆみお)とともに産業博覧会にやってきた千晶は、2人で軽気球に乗る。しかし係留していた綱が切られ、気球は飛び去ってしまう。
 やがて神奈川の山中に落下した気球から、弓雄は無事に発見されたが千晶は行方不明に。しかし黒手組(くろてぐみ)を名乗る悪漢集団から、千晶の身代金要求の手紙が届けられる・・・
 このあと、冒頭の泥棒の話とつながっていき、ミステリと云うよりは一種の人情噺になっていく。


「バラの呪い」

 主人公はS学園(たぶん女子校)の寄宿舎で暮らす15歳の少女・鏡子(きょうこ)。彼女の美貌は全生徒の憧れの的。そしてテニスの名手でもある。なんだか ”お蝶夫人” みたいである。
 一年前、学園内で鏡子と並ぶ存在と謳われていた妙子(たえこ)は、丹毒(感染症の一種)で死亡していた。「バラが・・・恐ろしいバラが」という言葉を残して。それ以来、寄宿舎には妙子の幽霊が出るとの噂が流布していた。
 その夜、寄宿舎の廊下を歩いていた鏡子は、無人の部屋からすすり泣くような声が漏れてくることに気づく。それはまさに妙子の声だった・・・
 ミステリ的なオチはあるのだが、それよりも女生徒同士の甘美ともいえる不思議な関係性が印象に残る作品。昨今流行っているという "百合小説" というもののハシリだったのかも知れない。


「真夜中の口笛」

 主人公は16歳の少女・益美(ますみ)。身体が弱いので学校へは行かず、叔父で高名な昆虫学者である片桐敏郎(かたぎり・としろう)のフィールドワークに付き添って全国の保養地を回っていた。
 その夜、ホテルの一室で眠っていた益美は、ふと不気味な気配を感じて目を覚ます。そして響く、謎の口笛。
 2年前、益美の姉は謎の死を遂げていた。今際の際に「口笛の音に気をつけて」と云う言葉を残して・・・
 もう見当がついた人もいるかも知れないが、ホームズものの有名短編「○○○の○」を翻案したような作品。どういう経緯で書かれたのか知らないんだが、いくつかの点で独自のアレンジはあるものの、ミステリとしては原典そのまんまの内容に驚いてしまう。
 明治の頃には外国作品の翻案は結構あったと記憶してるけど、これが書かれたのは昭和二十年代らしい。著作権は大丈夫だったのかな?



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