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チーズ屋マージュのとろける推理 [読書・ミステリ]


チーズ屋マージュのとろける推理(新潮文庫nex)

チーズ屋マージュのとろける推理(新潮文庫nex)

  • 作者: 森晶麿
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/12/23

評価:★★★


 東京・神楽坂にあるレストラン・マージュは、チーズ料理が絶品と評判だ。
 素性が謎のシェフ・風野真沙流(かざの・まさる)と、ワケありのウエイトレス・琴平美藻(ことひら・みも)の前に現れる事件を描く、日常の謎系連作ミステリ。


 ダメ男な彼氏から逃げ出した美藻は、転がり込んだレストラン・マージュでウエイトレスとして働くことに。
 お客さんが持ち込んでくる謎を鮮やかに解き明かし、トラブルを無事に収めてしまうのはシェフの真沙流。物語が進むにつれ、彼の素性もまた明らかになっていく。


「第1話 ビー玉の謎にはフォンデュを添えて」
 常連客の竹中は7年前に結婚し、3年前には子どもも生まれた。夫婦仲は円満だったが、先日喧嘩したという。家の掃除でビー玉を捨てたのが原因だというのだが・・・
 最近になってビー玉を見たのは、何ヶ月か前の100円ショップのおもちゃ売り場だったか。考えようによっては、今時のビー玉というのは案外貴重かも知れない。ビー玉で遊ぶ子どもなんて絶滅していそうだし。もちろん、本作でのビー玉の意味はそんなことではないのだが。


「第2話 ヴァランセに悔いはなし」
 美藻がマージュで働くきっかけとなったエピソード。
 ダメ男の彼氏・幹夫のもとから逃げだした美藻は、その途中で鴻上那奈(こうがみ・なな)という女性と知り合い、彼女の手引きで無事に脱走することができた。
 那奈の紹介でやってきたのがレストラン・マージュ。そこで那奈は父が最初に作ったチーズ料理のことを懐かしそうに語りだす。チーズには多くの種類、そして熟成期間の長短などから千差万別の違いがあるという。しかしマージュのマスターは、話を聞いただけで那奈の父のチーズ料理の味を再現してみせる・・・
 美藻と真沙流の出会いを描く。チーズについての蘊蓄があるのだが。如何せん素人にはいまひとつピンとこない。那奈の父が料理に込めた思いが切ないが、それを受け止める那奈が優しい。


「第3話 空蝉に捧げるリゾット」
 常連客の沼田義男は元俳優で、今は引退して悠々自適の生活。その日は若い女性を連れて店にやってきた。ハルミというその女性は、どうやら沼田に現役復帰を促しているらしい。その第一歩としてホームページの立ち上げを提案する。
 新手の詐欺ではないかと美藻が心配していたとき、ハルミがポーチからハンカチを出した。それには、なぜかセミの抜け殻がついていた・・・
 なかなか意表を突いた謎からはじまるが、もちろんこれには合理的な説明がなされる。でも、謎を解くだけでは事態に解決にはならないと考える真沙流の気配りがいい。
 作中に "パンくずリスト" なる用語が出てくる。寡聞にして知らなかったのでネットで調べてみた。わかってみれば、これ自体はよく見かけるものではあったのだけど、こういう呼称があるとは知らなかったよ。


「第4話 消える花」
 その日マージュを訪れた男は、大学で発酵学を研究している准教授だと名乗る。2年前に結婚したのだが、式の直後に妻が彼の同僚からセクハラ被害を受けた。そして同僚は大学を去ったという。どうやら、その同僚というのが真沙流らしいのだが・・・
 真沙流の過去が明かされるエピソード。


 そして「エピローグ」では、今までの4話の陰で静かに進行していたもう一つのストーリーが明らかになり、物語にひと区切りがつけられる。


 美藻も真沙流も、抱えてきた過去の清算を終え、新たな段階に進むことを予感させて本書は終わる。
 その気になれば続けられるようにもなってるので、チーズ料理のネタが尽きなければ(笑)、またいつか2人に会えるのかも知れない。



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