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リーガルーキーズ! 半熟法律家の事件簿 [読書・ミステリ]


リーガルーキーズ! (新潮文庫 お 114-1)

リーガルーキーズ! (新潮文庫 お 114-1)

  • 作者: 織守 きょうや
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/05/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 本書の主人公は司法試験に合格した司法修習生たち。彼ら彼女らは1年間の研修を受ける。その中には、弁護士・検事・裁判官の下で実際の事件に触れながら学ぶことも含まれる。
 法律だけでは割り切れない人の心の機微を知り、理想と現実の違いに直面していく修習生たち。さらにプライベートでも、同期生との絆を深めていく。
 そんな彼ら彼女らが出会った4つの "事件" を描く、連作ミステリ。


「第一章 人は見かけによらない」

 語り手は鳥山法律事務所に所属する若手弁護士・澤田花(さわだ・はな)。そこへやってきた修習生・藤掛千尋(ふじかけ・ちひろ)は、明るい茶髪に真っ赤なフレームの眼鏡で派手な顔立ち。一見するとホストか若手のお笑い芸人にしか見えない青年だった。指導担当となった花は彼の外見に戸惑うことに。
 しかし、実家が客商売をしていたせいか、藤掛は抜群のコミュニケーション能力を持っていた。藤掛と接していくうちに、花は彼の中に弁護士としての資質を見いだしていく。

 そんなとき、交通事故の和解で顧客となっていた千葉瑤子(ちば・ようこ)という女性から、別件で依頼を受ける。
 夫が浮気をしているらしいと云うのだが・・・

 法律的な実務能力はもちろんだが、弁護士に必要なことは当事者たちの心に寄り添うこと、なのだろう。それが自然にできる藤掛はいい弁護士になりそうだ。
 サブ・ストーリーとして花のプライベートも描かれているのだが、これも本筋と微妙にリンクしていて、上手いと思う。


「第二章 ガールズトーク」

 語り手は裁判所書記官の朝香夏美(あさか・なつみ)。彼女の前に現れた修習生・松枝侑李(まつえだ・ゆうり)は、25歳ながら童顔で化粧っ気もなく、何事に於いても真面目で熱心な女性だった。現在は家庭裁判所で少年審判を傍聴している。

 窃盗で補導された西口(にしぐち)きららは中学2年生の女子、同級生を金属バットで殴って負傷させ、金を巻き上げた田上樹(たがみ・いつき)は男子高校生。
 審判中の態度にも反省の様子は見られず、裁判官の言葉も心に届かない少年たちがここにはやってくる。そんな彼らにどう向き合えばいいのか悩む侑李。

 だが、そんな侑李が樹に言葉を掛けるシーンを読んだら、ちょっと驚いた。単なる優等生キャラではなく、芯の通った思考をもち、"自分の言葉" で話すことができる彼女なら、いい裁判官になりそうだと思わせる。
 再犯を繰り返す大人、反省しようとしない少年たちに対して、「裁判」は無力かも知れないが、無意味ではない。そう読者に感じさせる。

 ラスト、語り手の夏美の心の中にもある変化が訪れるのだが、これも侑李の影響だろう。少年審判を扱った作品だが、読後感はとてもいい。


「第三章 うつくしい名前」

 語り手は検事・君塚(きみづか)。司法修習のために検察庁にやってきた修習生たちの指導担当だ。その中にいたのが柳祥真(やなぎ・しょうま)。18歳で司法試験に合格したという天才少年だ。
 検察の司法修習では、実際の事件の事情聴取も実習生が行う(もちろん、指導担当の検事が横に控えているのだが)。柳は傷害事件の被疑者の供述から矛盾点を見つけ出し、その能力を示してみせる。

 司法試験に合格しても、検事というのは採用数が少ない狭き門らしいのだが、上層部は柳のことを聞いて「是非、検察にほしい」と言い出し、君塚に勧誘を任せてきた。柳と接していく内に、君塚は彼の意外な生い立ちを知ることになる。

 次の修習は、殺人事件の公判前整理手続きの傍聴。40代の女性が出産直後の嬰児を殺害した事件だ。彼女は10代の頃から10回近く妊娠しており、少なくとも過去に3回、嬰児殺害を行っていた。
 君塚は修習生全員に論告求刑を書かせる課題を出す。修習生たちは、彼女にどんな刑を求めるのか・・・

 法廷ミステリでは、検事というのは得てして悪役として描かれることが多い。容疑者を責め立てる鬼のような存在として。まあ罪の立証を役目としているのだから当たり前ではあるのだが。
 でも本作を読んで、いささか認識を改めた。検事は罪を償わせるだけでなく、更生までも見通した視野を持っている。裁判官も弁護士も検事も、法律の中で最善を尽くしていることに差はないのだと。三者の最終目標は "人間を救う" ことなのだろう。
 君塚を通して検事の仕事の "深み" を知り、変わっていく柳が本作の読みどころか。


「第四章 朝焼けにファンファーレ」

 語り手は修習生の長野。修習も終盤を迎えた頃、司法研修所の寮にある彼の部屋が荒らされるという事件が起こる。さらにインターネットの個人ブログに、『現在、研修所で学ぶ修習生の中には、すねに傷を持つ者がいる』という記事が上がっていたことが明らかに。

 現在修習生たちは集合研修中。すなわち、弁護人チーム、裁判官チーム、検察官チームに別れ、さらには被告人、被害者、証人役を割り振られた者もいて、要するに全員で模擬裁判を行うというものだ。
 裁判の実習とともに "犯人捜し" も進行していくのだが・・・

 第一章~第三章までの登場人物も総登場し、いかにも “最終回” っぽい展開だが、最もミステリ要素の濃い話でもある。

 ラストでは、彼ら彼女らが修習を終え、法律家として巣立っていくところまで描かれる。各章の主役を務めた藤掛、侑李、柳は長編の主役だって務まりそうなほどキャラ立ちも素晴らしく、これだけで終わったらもったいないと思わせる。ぜひどこかで3人に再会したいものだ。



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