滅びの鐘 [読書・ファンタジー]
評価:★★★★
舞台となるのは、大陸の北にある国・カーランディア。
土着の民・カーランド人は、100人にひとりは魔法使いの才を持つ、創造性豊かな民だった。しかし600年前、西の海からやってきたアアランド人によって征服されてしまう。
それでも長い間、二つの民はなんとか平穏な時を過ごしてきたが、アアランド人の王・ボレスクがカーランド人の大虐殺を始めたことで、平和は破られてしまった。
偉大なる魔法使い・デリンもまた、娘夫婦をボレスクに殺される。彼は報復として王宮前広場にある鐘を打ち砕いてしまう。それは平和の象徴として、439人のカーランド職人によって建造されたものだった。
鐘は439の破片となって飛び去り、世界中に散ってゆく。同時に、鐘に封じられていた〈闇の獣〉と〈闇の歌い手〉も解き放たれてしまう。
破片を胸に受けたボレスク王は命を落とし、足に受けた第一王子・イリアンは歩くことができなくなってしまう。難を逃れた第二王子・ロベランは、父と兄の復讐のため、そして〈闇〉を封じてイリアンの足を治す術を得るために、カーランド人へのより一層の迫害を進めていく。
主人公・タゼーレンは王都の東にある村に暮らす、弓の得意な少年だ。そこではカーランド人・アアランド人の区別なく仲良く暮らしていたが、ロベランによる統制は強まり、ついにカーランド人たちは村を捨てて逃亡することに。
王都から離れるべく、東の山岳地帯へ向かって旅を続けるタゼーレンたちの苦難が綴られていく。束の間の安住の地を得たかと思っても、アアランドの追撃軍は迫ってくる。
最終的に、タゼーレンたちは山を超えた彼方にあるという ”伝説の都・カーランド” を目指すことになる。
そして、〈闇の獣〉を再び封じるためには、古より伝わる〈魔が歌〉を歌うことしかない。しかしそれは、 ”人ならぬ者” にしか歌うことができないものだった・・・
文庫で約570ページという大長編。巻末のあとがきによると、作者が10代のころから構想していたものらしい。
思い入れもたっぷりあるのか、登場するキャラも多彩だ。
タゼーレンの父・アクセレンは〈歌い手〉としての類い希な才を持つ。
タゼーレンの幼馴染みの少女・セフィアは、アアランド人であるにもかかわらず、カーランド人たちの逃避行に同行する。
デリンの身内で唯一生き残った孫息子・オナガンは両親の死に心を閉ざす。
アアランディアの大公・キースはデリンともつながりをもち、ロベランの行動には批判的。いささか服装の趣味がユニーク(笑)な人だが。
カーランド人迫害を進めながらも、なかなか目的達成ができず、さらには王位の後継争いまで勃発してしまって、次第に狂気に囚われていくロベラン。
王国南部オーギシクの大公の娘・ヴァレンナは終盤に登場して、物語に絡んでくるなど印象に残るお嬢さんなんだけど、もっと早く出番を与えて、カーランド人たちと関わらせてもよかったんじゃないかなぁ。
しかし何といっても、本書は主人公・タゼーレンの成長の物語だ。
冒頭では、仲間たちから ”いじめ” っぽく扱われる少年として登場するが、物語の中でさまざまな苦難に遭いながら成長していく。
”ある理由” から弓の腕も上達し、やがてアアランドの追撃隊からも恐れられる存在に。さらには ”伝説の都・カーランド” の手がかりを見つけ、逃亡先に行き詰まったカーランド人たちに行く手を示したり。
終盤では過酷な運命に見舞われてしまうのだが、彼の ”選択” が物語を終結へと導いていく・・・
作者の代表作である〈オーリエラント〉シリーズではないけれど、単発作品だからこそ描ける物語もある。
重厚で、雰囲気はどちらかというと暗めなのだけど、読後感は悪くない。