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隷王戦記 (全3巻) [読書・ファンタジー]


隷王戦記1 フルースィーヤの血盟 (ハヤカワ文庫JA)

隷王戦記1 フルースィーヤの血盟 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森山 光太郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/03/17
隷王戦記2 カイクバードの裁定 (ハヤカワ文庫JA)

隷王戦記2 カイクバードの裁定 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森山 光太郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/08/18
隷王戦記3 エルジャムカの神判 (ハヤカワ文庫JA)

隷王戦記3 エルジャムカの神判 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森山 光太郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/04/20
評価:★★★★☆

 文庫で全3巻、総計1250ページほどにもなる大長編ヒロイック・ファンタジーだ。


 舞台となるのは異世界の大陸・パルテア。

 そこは大きく3つの地域からなる。
 ”牙の民” と ”草原の民” が暮らす〈東方世界〉(オリエント)、
 〈世界の中央〉(セントロ)の ”戦の民” は多くの国家に分裂し、戦乱に明け暮れている。
 そして大国・ウラジヴォーク帝国が支配する〈西方世界〉(オクシデント)。

 この世界には、7人の〈守護者〉と3人の〈背教者〉と呼ばれる、超常の力を持つ者たちが現れる。それは世界創世の時代からの ”神々の戦い” が尾を引いたもので、〈守護者〉たちと〈背教者〉たちは相争い、人間の世界に戦乱をもたらしてきた。

 ”牙の民” の王・エルジャムカが〈人間の守護者〉の力を得たこと、同じ時期に ”草原の民” の族長の娘・フランが〈鋼の守護者〉の力を得たことで、世界の平衡は崩れ去る。

 人間世界の制覇を目指すエルジャムカは、その手始めに ”草原の民” に向けて侵攻を開始する。フランの持つ〈鋼の守護者〉の力を我がものとするためだ。
 「降るか、滅びるか」
 抗えば滅ぼされ、降伏しても奴隷兵とされ、”牙の民” による世界制覇の戦いの最前線に送り込まれることになる。

 それでも、”草原の民”・次期族長のアルディエルは民の命を救うために降伏を選択する。

 主人公・カイエンは、アルディエルの親友であり、フランに想いを寄せる剣士だった。彼はアルディエルの決定を不服とし、”砂の民” の軍勢を率いて ”牙の民” に立ち向かう。
 しかし、エルジャムカの繰り出す圧倒的な〈守護者〉の力の前に、為す術もなく敗れ去ってしまう。


 フランがエルジャムカに助命を願い、それによって一命を取り留めたカイエンは〈世界の中央〉へと流れていき、都市国家・バアルベクで奴隷兵となった。

 生きる目標を喪い、刹那的になっていたカイエンだったが、バアルベク太守・アイダキーンの娘・マイと出会ったことで、彼の運命は大きく変転することになる。

 マイの護衛役となったカイエンは、奴隷であっても人間的な扱いをするアイダキーンと、父の思いを継いでひたすら民の幸福のみを願う娘・マイの ”理想” に触れたことで、少しずつ心の再生を果たしていく。

 そんなとき、バアルベクで内乱が勃発、マイが拉致されてしまう・・・

 その戦いのさなか、カイエンは〈憤怒の背教者〉の力を手にすることになる。内乱鎮圧を果たした彼が、バアルベクの ”騎士” に任じられるまでが第1巻。


 その間にも、”牙の民” は強大な軍勢で西へと侵攻を続けている。エルジャムカに対抗するには、群雄割拠している〈世界の中央〉の ”戦の民” の争いに終止符を打ち、全戦力を糾合して ”牙の民” にぶつけるしかない。


 第2巻では、カイエンとマイによる〈世界の中央〉統一の戦いが描かれる。
 バアルベクの隣国シャルージとの戦いでは、〈炎の守護者〉の力を持つ戦士・エフテラームが立ちはだかる。
 そして南部地域を統べるカイクバードは ”軍神” の異名を持ち、〈世界の中央〉最大の戦力を率いている。


 そして第3巻では、いよいよ ”牙の民” との最終決戦が描かれる。
 フランの他にも多くの〈守護者〉を傘下に加えたエルジャムカは、怒濤の勢いで〈世界の中央〉へ侵攻してくる。

 盟主・マイのもと、”戦の民” の統合を果たし、”隷王” の称号とともに全軍の指揮権を手にしたカイエンは、エルジャムカ率いる300万の軍勢を迎え撃つことになるが・・・

 とにかく、〈守護者〉たちの力を駆使する ”牙の民” の強さは圧倒的だ。迎撃のために築いた長大な砦もエルジャムカの勢いを止めることは叶わず、有力な武将たちも次々に戦死を遂げていく。

 それに加えて、エルジャムカと対決する前に、カイエンが倒さなければならない相手が2人いる。
 1人はかつての親友であり、今は ”牙の民” でも屈指の大将軍となったアルディエル。
 そしてもう1人は、かつての想い人であり、今やエルジャムカとともに世界を破滅へと導こうとしている〈鋼の守護者〉・フラン。

 このあたり、読んでいて実に心臓に悪い。「勝てる気がしない」というフレーズがあるけれど、第3巻はまさにその言葉がぴったりである。
 この手の物語はけっこう読んできたつもりなのだが、ここまで ”絶望感” に襲われる物語はほとんど記憶にないくらいだ。それだけ作者の筆力が優れているということなのだろう。
 実際、第3巻の前半はどうにも読み進めるのが辛くて、ペースがかなり落ちてしまったことを告白しておく。

 エルジャムカの持つ〈人類の守護者〉の力は、”〈守護者〉の王” とも言うべき最強の力だ。
 それに対抗し、〈人類の守護者〉を倒す唯一の方法は、3人の〈背教者〉の力を一つに束ねること。
 カイエンは残り2つの〈背教者〉の力を手にすることができるのか、そしてエルジャムカの進撃を止めることはできるのか・・・


 大長編ゆえ、魅力的な脇役も数多く登場するのだけど、もうかなりの量を書いてしまったので、これくらいにしておこう。

 傑作だと思うのだけど、あえて難を言えば、ところどころ物語を端折ったように感じる部分がある。
  物語の疾走感を重視したのかとも思ったが、あまり長くならないようにと版元からページ数の制約を示されたのかも(笑)。
 なにせ、本が売れない時代なのでねぇ・・・

 とはいっても、読んでいて不満に感じるほどではないので、これはこれで構わないとも思う。
 私自身は、面白ければどんなに長くても苦にしないのだけどね。
 本書の内容は、十分に書き込んだら倍の6巻くらいあってもおかしくない。それくらい豊かな物語が詰め込まれていると思う。


 久々に、大興奮しながら読んだヒロイック・ファンタジー大作でした。
 現在のところ、「今年読んだ本ベストテン」で暫定ながら第1位です。



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