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妖鳥(ハルピュイア) 山田正紀・超絶ミステリコレクション#1 [読書・ミステリ]


山田正紀・超絶ミステリコレクション#1 妖鳥 (徳間文庫 トクマの特選!)

山田正紀・超絶ミステリコレクション#1 妖鳥 (徳間文庫 トクマの特選!)

  • 作者: 山田正紀
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2021/10/08
評価:★★★★

 「山田正紀・超絶ミステリコレクション」と銘打った復刊シリーズの第1弾。1999年に文庫化されてるので、そのときに一度読んでたはずなのだけど、ほとんど内容を忘れてたよ。

 舞台は多摩市の郊外にある聖バード病院。創設者の姓が鳥居というところから名づけられたらしい。
 この病院で人が死ぬときには、黒くて大きな ”もの” が飛んでくるという、妙な噂があった。

 ある夜、HCU(緊急病棟)に入院していた患者が姿を消してしまう。くも膜下出血で意識はなく、間もなく死亡すると見なされていた患者だ。
 その患者は無菌室で発見されるが、首には二重にロープが巻かれて絞殺されていた。放置しておいてもいずれ死ぬ者を、なぜわざわざ殺す必要があったのか?

 そして別の章では、一人の女が目を覚ます。暗闇の部屋で、自分の名前さえ思い出せないような記憶を失った状態で。

 さらに別の章では、刑事・刈谷作弥(かりや・さくや)が聖バード病院にやってくる。入院している先輩刑事・狭更奏一(さこう・そういち)の見舞いのためだ。
 しかし病院に入る前、近くの雑木林の中で不審な言動をする少年と出会う。

 物語は主に刈谷視点で進み、その合間に記憶を失った女のパートが挿入される形で進行していく。

 病室で狭更に会った刈谷は、奇妙な話を聞かされる。
 悪性の腫瘍で余命幾ばくもない狭更は、入院後に大量に吐血し、意識不明で生命の危機に陥った。狭更は自分の意識が体から離れ、浮遊しているのを感じたという。いわゆる臨死体験だ。
 その時、病室にいたのは、いつでも嫌な顔ひとつせずに献身的に世話をしてくれる看護師で、狭更は常々 ”天使” のようだと感じていた。
 しかし幽体離脱した狭更が見たのは、瀕死の状態の自分を目の前にして ”笑った” 彼女だった。それはまさに ”悪魔の笑い” に思えたのだという。
 女は天使なのか、悪魔なのか・・・

 狭更から頼まれ、その日の看護師の名を調べ始める刈谷。
 それは難航するが、やっと当直医の篠塚から、探している看護師は新枝彌撒子(にひえ・みさこ)か藤井葉月のどちらかだということを聞き出す。

 加えて、篠塚は昨夜HCUが火事になったことを語り出す。そこは可燃物のないところだったにもかかわらず、火球が発生して一気に周囲のものを焼き尽くしてしまったのだという。
 そして、そこにいた看護師が一人焼死してしまった。顔も性別も分からないほど焼けただれた遺体には、「新枝彌撒子」というネームプレートが・・・。

 さらに事件は続く。
 刈谷に看護師のことを告げた篠塚だったが、その直後に病院の時計台で何者かともみ合い、そこの窓から外へ向かって突き落とされてしまう。現場を目撃した刈谷は、時計台を出て篠塚を探すが、彼の死体は窓の直下にはなく、そこから数十m離れた場所で発見される・・・


 とにかく冒頭から謎また謎のオンパレード。人体発火としか思えない焼死、宙を翔んで移動する死体、次々に引き起こされる怪異の陰に見え隠れする二人の看護師。死んだ看護師は誰? 記憶を失って閉じ込められている看護師は誰?
 幻想的なホラーと言われても通りそうな雰囲気。

 冒頭に登場する謎めいた少年に始まり、曰くありげな入院患者、いかにも怪しげなベテラン看護師、化粧をして涙を流す謎の中年男など、胡散臭い人物が大量に登場して、深い霧の中を手探りで歩むような物語が展開していく。

 しかしこれらが、終盤にいたってはきれいに収束してひとつの真相を形作っていく。冷静に考えたら「ほんとかい?」ってなりそうな事柄もあるけれど、そんな思いもどこかに吹っ飛んでしまうくらい、作者の豪腕ぶりに圧倒される。

 山田正紀はやっぱり天才だ。SFでもスゴかったけど、ミステリのほうもスゴすぎる。それでいて、短篇が雑誌掲載のまま埋もれてたり、単行本や新書で刊行されたまま絶版になって、文庫になってなかったりする作品が大量にある。
 どんどん発掘して復刊してほしいものだ。できれば文庫で(笑)。



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