SSブログ

星詠師の記憶 [読書・ミステリ]


星詠師の記憶 (光文社文庫)

星詠師の記憶 (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/10/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 近年流行している ”特殊設定ミステリ” のひとつだ。

 本書に登場する ”特殊アイテム” は、「未来予知を記憶する紫水晶」。

 未笠木(みかさき)村で産出する紫水晶は、不思議な現象を示す。
 その紫水晶を持って眠ると、その人の未来に起こる出来事が記録される。水晶を眺めると、その中にビデオのように映像が再生されるのだ。
 時間は最短で数秒だが、長いと3分ほどの未来が記録される。ちなみに音声ははなく映像のみ。本人視点での記録なので、自分自身は映らない(鏡を見るシーンがあれば別だが)。

 誰でも記録ができるわけではなく、ごく限られた人間だけが可能なことも分かっている。本書のタイトル「星詠師」は、水晶に未来を記録できる能力を持つ者のことだ。

 そして、「水晶に記録された未来は必ず実現する」。
 未来を変えようとしてあらゆる手段を講じても、結果としてその未来は必ず訪れるのだ。水晶に記録された未来は変えることができない。SFでいうところの ”タイム・パラドックス” は存在しない、という設定だ。

 このような、「紫水晶による絶対的な未来予知」が存在する世界でのミステリということになる。


 物語は、1972年に始まる。

 石上青砥(あおと)・赤司(あかし)という小学生の兄弟が、父のお土産の水晶の中に、男の顔が見えることに気づく。

 やがてそれが未来予知であることがわかると、兄弟の祖母の知人で電子機器製造メーカーの社長・紫香楽一成(しがらき・いっせい)がスポンサーとして乗り出し、未笠木村の水晶鉱山を買い占めて、将来の事業化を目指すことになった。

 紫香楽は未笠木村の山中に研究施設・〈星詠会〉を建設、水晶への記録能力を持つ者・〈星詠師〉を探しだし、彼らを集めて研究を開始した。

 2018年現在、星詠師は15名おり、赤司はその頂点に立つ〈大星詠師〉となっていた。ここからが本編の開始だ。

 被疑者を射殺してしまった刑事・獅童(しどう)は、自主的に1週間の謹慎を自分に課し、故郷の村にやってきた。

 そこに香島(かしま)という少年が現れ、助けてほしいと求めてくる。
 隣の未笠木村にある〈星詠会〉の施設内で、〈大星詠師〉・石上赤司が銃で殺され、容疑がその息子で〈星詠会〉幹部の真維那(まいな)にかかっているのだという。
 真維那は香島少年の ”師匠” であり、今は施設内に監禁されている。真犯人を見つけ、彼を助けてほしいというのだ。

 〈星詠会〉へやってきた獅童は、研究員から ”犯行時の映像” を見せられる。被害者の赤司が所持していた紫水晶に記録されていたのだ。

 現象の発見から30年。〈星詠会〉は紫水晶内の映像を読み出し、デジタルデータとして記録する技術まで確立していた。

 事件があった夜には皆既月食が起こっており、それが水晶内の映像にも映っていたことから犯行時の映像と断定された。そこに映っていた犯人も、顔認証では真維那にほぼ一致との結果が出ている。

 真維那の容疑を晴らすには、紫水晶による「絶対的な未来予知」を崩さなければならないのだが・・・


 間違いのない「未来を記録する紫水晶」という設定が持ち出されたら、もう手も足も出ないじゃないか・・・と思ってしまうが、作者は巧みにこの設定の裏や盲点や隙間を突く論理を展開してみせる。
 このあたりは素直に驚かされる。「そういうふうに考えれば、こんなことができるのか」「そういう解釈もできるのか」「そう考えれば矛盾しない」・・・

 紫水晶の設定を否定することなく、獅童は見事な論理で真犯人へ辿り着いてみせるのだ。いやぁこれはたいしたものです。


 この文章を書いてたら、アイザック・アシモフの一連のロボットものを思いだしたよ。あれも「ロボット工学三原則」という設定をフル活用した、SFミステリ・シリーズだったよなぁ・・・



nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ: