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流れ舟は帰らず 木枯らし紋次郎 ミステリ傑作選 [読書・ミステリ]


流れ舟は帰らず (木枯し紋次郎ミステリ傑作選) (創元推理文庫)

流れ舟は帰らず (木枯し紋次郎ミステリ傑作選) (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/01/31
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

 中村敦夫主演のTVドラマ『木枯らし紋次郎』が放映されてたのは、wikiによると1972年1月から73年3月までで、全38話とのこと。
 当時中学生だった私が観始めたときは、既にかなり放映が進んでしまっていて、後半の第2部あたりからだったように思う。上条恒彦の歌う主題歌『だれかが風の中で』もカッコよく、けっこう一所懸命に観ていた記憶がある。
 長い楊枝や「あっしには関わりのねえことでござんす」というニヒルな台詞も話題になり、世間にはブームが巻き起こった。

 私にはそれくらいの記憶しかなかったのだけど、本書によってミステリ的にも優れた作品が多かったことを知った。作者の笹川佐保は時代小説作家として有名になったけど、もともとは江戸川乱歩賞に応募し、受賞はならなかったが次席となってデビュー、その後もミステリ関係の賞をもらっているみたいだ。

 本書には10編を収録している。


「赦免花(しゃめんばな)は散った」
 シリーズ第1作。紋次郎は兄貴分・左文字(さもんじ)が犯した殺人の罪の身代わりとなり、三宅島に流刑になった。左文字は病で先のない母親が亡くなったら、真の下手人として名乗り出るはずだった。しかし、新たに島送りになった流人から左文字の近況を聞いた紋次郎は疑問を抱き、かねてから島抜けを画策していた清五郎の仲間に入り、島から脱出するのだが・・・
 島からの脱走と左文字の陰謀との二段仕込みのミステリ。


「流れ舟は帰らず」
 江戸の商人・天満屋彦三郎の息子・小平治は20歳で家を出奔、以後15年間消息不明だった。しかし小平治が上州にいるとの知らせを受けた彦三郎は娘のお藤とともに探索に旅立つ。その途中、お光(みつ)という女から手がかりを得るが、直後に二人組のゴロツキに襲われてしまう。その場に居合わせた紋次郎がゴロツキを倒すが、彦三郎は負傷して命を落としてしまう。今際の際の彦三郎から頼まれた紋次郎はお藤を伴って小平治に会いにいくのだが・・・
 紋次郎は彦三郎の頼みに応えたわけではなく、たまたま彼の進む方向と小平治のいると思われる場所が同じ方向にあっただけ、というのがいい。
 目的地に着いてからもさらに物語は二転三転して意外な結末を迎える。


「女人講(にょにんこう)の闇を裂く」
 舞台は越後の宿場町・二本木。
 20年前、酒に酔った高田藩士が二本木に乱入して狼藉の限りを尽くし、おゆみという娘を犯す。おゆみの恋人だった与七郎は激高して藩士を殺してしまう。
 高田藩に対して下手人を引き渡すことを決めた宿場の人々に怒った与七郎はおゆみとともに姿を消す。20年後、復讐のために戻ってくるとの言葉を残して。
 紋次郎が二本木に足を踏み入れたのがまさに20年目のその日だった。人々は宿場内に滞在中のよそ者の中から与七郎を探そうとしていたが・・・


「大江戸の夜を走れ」
 盗賊・十六夜(いざよい)の為吉(ためきち)が捕縛され、市中引き回しの上、処刑と決まる。
 為吉の妻・お栄は息子をひと目、夫に会わせるために江戸へ向かっていたが、途中の下高井戸で病に倒れてしまう。そこに居合わせた紋次郎は、お栄の代わりに赤い布を持って、為吉の前に姿を見せてほしいと頼まれる。それは妻子が無事に暮らしているとの印なのだというが・・・


「笛が流れた雁坂(かりさか)峠」
 硝薬(鉄砲用の火薬)が、信州佐久から密かに流出していることが判明、周辺の関所は軒並み厳しい詮議が続いていた。
 信州から出ようとしていた紋次郎は関所を避けて山中に踏み込むが、そこで7人の女郎(娼婦)と出会う。宿場の遊郭から足抜け(脱走)してきたのだという。
 しかし彼女らと伴に山中の道なき道を進むうちに、一人また一人と女郎が殺されていく・・・。まさに「そして誰もいなくなった」。


「霧雨に二度哭(な)いた」
 無宿人・小天狗の勇吉は、病に苦しむ女・お政を救い、油井(ゆい)村までやってきた。その村の入り口で勇吉は若い娘に声をかけられる。
「油井の清蔵という渡世人を知らないか」
 知らぬと答えた勇吉は、沓掛宿までやってくる。そこを縄張りとする前沢の多兵衛のもとへ草鞋を脱いだ勇吉は、そこで油井村で見かけたのとそっくりの娘に出会う。
 それは多兵衛の娘・お七だった。彼女には双子の妹・お六がいて、生後すぐに油井村の村役のもとへ養女に出されていたのだ。
 お七は翌月に祝言を控えていた。駒形新田の虎八親分を婿に迎えるのだというが・・・
 ミステリで ”双子” といえばいろんな展開が予想されるのだが、なかなかこれは見破れないんじゃないかな。


「鬼が一匹関わった」
 紋次郎は、お鶴という女児を連れた渡世人・弥一郎と出くわす。足を患って歩けない弥一郎はお鶴を紋次郎に押しつけて姿を消す。やむなくお鶴を連れ、榛名村のお大尽(資産家)・金三郎の元へ向かうことにした紋次郎。
 金三郎は弥一郎の弟で、その女房・お照はかつて弥一郎の妻だったのだという。いかにも曰くありげな人間たちの中に放り込まれた紋次郎だったが・・・


「旅立ちは三日後に」
 流れ者の暮らしにふと不安を感じた紋次郎。大原村の賭場で吾作という老人に情けをかけたところ、胴元のヤクザとトラブルになってしまう。
 負傷した紋次郎は吾作とその孫娘・お澄(すみ)に介抱される。二人の元で養生する紋次郎は、お澄と所帯を持ったらどうかという吾作の申し出を受け、自らの行く末に悩むことに。
 そんなとき、代官への賄賂として村が溜め込んでいた二百両が消えてしまい、紋次郎に容疑がかかる・・・


「桜が隠す嘘二つ」
 下総・境町を縄張りとする仁連(にれ)の軍蔵。子はなく、遠縁の娘・お冬を養女に迎え、それに婿を取らせて跡目を譲るつもりだった。
 18歳となったお冬の婿に選ばれたのは若手の代貸・市兵衛だった。しかし24歳という若さに不安を覚えた軍蔵は、関八州の大親分を集めて盛大なお披露目を行うことにした。彼らに市兵衛の後ろ盾になってもらうことを期待して。
 しかしそのお冬が何者かに殺されてしまう。容疑者として捕らえられたのは紋次郎だった・・・
 まず、出てくる大親分というのが超有名どころ、らしい。なにせ任侠ものに詳しくない私でも名前くらいは知ってる人もいる。大前田英五郎、国定忠治、笹川の繁蔵とかね。彼らを含めて総勢22人の大親分が境町に集結する。
 その親分衆の前に引き出された紋次郎だが、まったくビビることなく自分の推理を開陳し、現場や死体の状況、関係者の動きをもとに真犯人を指摘する。
 まさに ”名探偵・紋次郎” なのだが、法廷ものっぽい雰囲気も感じる。その場を仕切る大前田英五郎が裁判長で、評決を下す親分衆は陪審員のよう。
 まさか木枯らし紋次郎でこんなものが読めるとは。


「明日も無宿(むしゅく)の次男坊」
 大店・尾張屋善右衛門の次男坊・宗助は15歳で博打にはまり、勘当されてしまう。それから15年。善右衛門も還暦を超え、長男の平吉・お糸夫婦には子がない。さらにこの夫婦に災難が降りかかる。暴漢に襲われ、平吉は命を落としてしまったのだ。
 宗助を呼び戻すことにした善右衛門は100両の賞金をかけて探し始めるが、我こそは宗助と名乗る者が大量に現れる。しかし彼らを片っ端から贋物と見破っていく善右衛門だった。
 紋次郎は白帆の宗助と名乗る渡世人と知り合う。毒キノコにあたって憔悴していた宗助は、自分を尾張屋へ連れて行ってほしいと頼むのだが・・・


 いやあ、予想以上に本格ミステリな作品群でした。巻末の解説によると、収録作以外にも名作は多くあるとのことなので、もう少し読みたくなってしまった。第2弾が出ないかなぁ・・・



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