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忘却城 [読書・ファンタジー]


忘却城 (創元推理文庫)

忘却城 (創元推理文庫)

  • 作者: 鈴森 琴
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/02/20
  • メディア: Kindle版
評価:★★★

 舞台は異世界・亀珈(かめのかみかざり)王国。
 ここは死者を蘇らせる ”死霊術” によって栄えた国だ。死霊術士たちの長は「名付け師」と呼ばれ、当代は縫(ほう)という92歳の男が務めている。

 主人公は王都で家庭教師を営む青年・儒艮(じゅごん)。
 ある夜、何者かに拉致され、連れてこられたのは一切の光が入らぬ ”盲獄”(もうごく)と呼ばれる場所。
 そこには彼以外に5人の人物が集められていた。それぞれ少年、青年、壮年、老年の男たち。そして1人の中年女。

 そこに響くのは、自らを名付け師と名乗る男の声。彼の話から、名付け師の代替わりに絡んで、近々王都で開かれる死霊術の祭典・幽冥(ゆうめい)祭で何らかの事件が起こると儒艮は推理する。

 謎の声は告げる。「私の願いを叶えよ」と。しかし願いの内容は口には出されない。さらに「儒艮以外の5人は、今後彼に従え」と告げる。

 解放された儒艮は、まず盲獄に集められた者たちを探し出すことから始めるが、その行く先々で様々な事件が起こっていく。

 名付け師・縫は、死霊術の才能のある者を厚め、弟子としていた。
 彼らは御子(おこ)と呼ばれているが、その中で唯一の女子である千舞蒐(せん・ぶしゅう)、彼女に仕える少年・亨象牙(きょう・しょうが)の2人が、もう一方の主人公となる。
 こちらでは、名付け師の後継を巡る御子内部での確執や、舞蒐の過去が描かれていく。

 この2つのストーリーラインが交互に語られ、最後に一つになるのだが、その背後には王国の第二王太子・氷飛雪(ひょう・ひせつ)の存在があることが次第に明らかになっていく。
 第二王太子自身は既に故人になっているのだが、舞蒐はかつて飛雪の許嫁であったし、儒艮もまた意外な形で飛雪に関わっていたことがわかる。

 そして、クライマックスとなる幽冥祭の日を迎えるが・・・


 とにかく、イメージが豊饒な作品だ。舞台となる国、死霊術をはじめとする風俗描写も詳細だが、登場人物についても一筋縄ではいかない者が多すぎる(笑)。

 ほとんどのキャラは、複雑な過去を抱えている。「実はこの人は・・・」という展開が頻発する。生いたちや職業のみならず、他の人物との意外な関係とかも次々と明らかになっていく。
 もちろん、ストーリー展開に必要な要素ではあるのだけど、そういうものが多すぎると、物語全体が見通しづらいものになってしまう。
 私自身、途中で把握しきれなくなってしまって「こいつ、何者だったっけ?」と思うこともしばしば。

 まあ、記憶力のいい人なら問題ないのかも知れないが・・・二度三度と読み直していけば、スルメのように新たな味わいを発見できるのかも知れないが、そんな人ばかりではないだろう。

 なんだか文句ばっかり書いてるようだが、物語自体は面白い。それは間違いない。でも、もっと理解できれば、もっと楽しめるのだろうなぁ・・・私にはそこまでの読解能力がないなあ・・・って思わされる作品だったりするんだな。

 読書人口や読書時間が減っている昨今、わかりやすさ・読みやすさが求められがちな小説というジャンルにおいて、流れと逆行するような作品ではある。
 でも、こういう作品もあっていいと思う。私ももっと気合いを入れて読まなきゃいけなかったかなあ・・・とちょっと反省していたりする。

 とりあえず、本書には続編が2作出ているみたいなので、そちらも読もうと思ってます。



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