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紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官 [読書・ミステリ]


紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

  • 作者: 川瀬 七緒
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 「法医昆虫学」とは、死体を摂食するハエの幼虫(いわゆるウジですね)などの昆虫が、人間の死体の上に形成する生物群集の構成や、構成種の発育段階、摂食活動が行われている部位などから、死後の経過時間や死因などを推定する学問のこと。  (by wiki)

 しかし日本ではまだまだ発展途上の分野らしい。
 本シリーズの主人公・赤堀涼子は、日本で法医昆虫学を確立させるべく、日夜捕虫網を振り回して研究に没頭する博士号を持つ昆虫学者。
 ちなみに36歳独身、小柄で童顔(笑)。

 彼女が捜査一課の岩楯祐也警部補とコンビを組んで、難事件に取り組むシリーズの第6作。


 6月3日、東京都内・荻窪の一軒家で夥しい血痕と、左手の小指が3本発見された。うち2本は家主の遠山正和・亜佐子夫妻のもの、残り1本はこの家を訪れた者が残したものと思われた。

 3本とも生きている状態で切断されたことが判明し、その時期は解剖医の鑑定では5月20日前後、しかし赤堀の出した結論は6月1日の午後。
 もう初っぱなから警察の見立てと赤堀の推定が食い違うのだが、これはもう毎回お約束のパターン。後になって赤堀の見立てが正しいことが分かるのだが。

 例によって、赤堀の ”お守り役” を押しつけられる岩楯だが、今までの経験で彼女の線を辿った方が早く真相に到達できることが分かっているので、相棒の鰐川刑事とともに近所の聞き込みに回る。

 周囲の住民たちの描写が上手い。一見、仲の良さそうな地域のコミュニティにも、実は水面下でいろいろな葛藤が渦巻いている。コップの中のような小さい世界であっても、派閥を作ってボスに収まり、周囲に睨みをきかせる人もいたり。
 そんな、事件とは一見関係なさそうな地域住民の人間関係の中にも、しっかり伏線が撒かれてあったりと、ミステリとしてのつくりも抜かりない。

 そして今回、赤堀の身分に変化が。警視庁が新たに立ち上げた「捜査分析支援センター」の正式メンバーとなったのだ。とはいっても、メンバーは彼女の他には2人だけ。

 犯罪心理学を専門とする広澤春美と鑑定技術開発の波多野充晴で、要するに警察内で ”持て余している人材” を集めて放り込んだ部署で、いわゆるリストラのための ”追い出し部屋” みたいなものらしい。
 実際、広澤の提出したプロファイリング結果は、現在の捜査方針を真っ向から否定するもので、そういう意味では赤堀といい勝負だったりする。
 そりゃ、現場の捜査員からすれば ”煙たい” よねぇ。ところが、この ”はみ出しもの集団” が、結果的にいい働きをするのだから痛快だ。

 今回の事件との類似例として広澤が引っ張り出してきたのは、23年前に竹の塚で起こったもの。民家の中で大量の血痕が発見され、その家の妻と客が行方不明になり、現場には2人の足の小指が残されていた。
 岩楯たちは現場へ赴き、被害者の夫・橋爪修一と面会する。事件当時40歳、現在は63歳となり、定年退職後はゲーム廃人(笑)となっていた・・・


 ストーリー・テリングの巧みさはもう折り紙つきだろう。ミステリとしてもかなり意外な展開となり、ちょっと驚きの真相を迎えるのだけど、それ以上にびっくりなのは本書の中で赤堀が岩楯に対して自らの心情を吐露するシーンがあったこと。とは言っても ”愛の告白” ではないので念のタメ。

 でもまあ、この2人の仲は ”愛だ恋だ” という雰囲気は感じられないよねぇ。近づくと思えば離れ、といって離れたままでもない。
 いつまでもこのままで進むとも思えないので、いつか大きく変化するような気もする。そのへんもシリーズのファンとしては気になるところか。



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