炎のタペストリー [読書・ファンタジー]
評価:★★★★
舞台は異世界。大陸の北西部にあるハルラント聖王国から始まる。
主人公はその最西端にある村〈西ノ庄〉に暮らす少女・エヤアル。この世界の人々はみな、種類や大きさは様々だが、それぞれ魔法の力を1つ持って生まれてくる。エヤアルに与えられたのは ”炎を操る力” だった。
しかし彼女が5歳になったとき、”力の暴走” が起こり、山ひとつ分の森が焦土に変わってしまった。自らの ”力” の強大さに呆然となるエヤアルだったが、そこに〈炎の鳥〉が現れ、彼女から ”力” を奪い去ってしまう。
力を失った〈からっぽの者〉となったエヤアル。そして8年後、13歳となった彼女の前に〈カンカ砦〉の兵士が現れる。彼らの目的は徴兵。ハルラント聖王国は、隣国・暁女王国との戦いで兵士と労働力が不足していたのだ。
強制的に砦へと連れてこられたエヤアルだったが、そこで彼女は新たな ”力” に目覚める。それはあらゆる物事を記憶する力だった。
その力で砦の戦の様子を記憶し、報告するために王都へ向かったエヤアルだったが、彼女の力を知った国王ペリフェ三世は、新たな任務を与える。
大陸東部の大国・太陽帝国の帝都ブランティアへ送り込まれたエヤアルは、キシヤナという女性の指導を受け、他国の言語を学ぶことに。
エヤアルの使命は、ブランティアに関する情報をペリフェ三世に送り伝えること。ハルラント聖王国は周辺国家と結んで、ブランティア侵攻を目論んでいたのだ・・・
なんといってもヒロインのエヤアルが魅力的だ。
自分の ”力” が新たな戦乱の火種になるなど、辛い境遇の連続なのだけど、それにめげることなく、自分にできることに懸命に取り組んで生きていく。
受け身なだけではなく、教育係キシヤナに対しても言うべきことはきっちり言うなど、自分の人生を自らの力で切り開いていこうとする逞しさがある。
それでいて、旅の途中で知り合った火炎神殿所属の騎士ダンに心をときめかせるなど、年相応の微笑ましい一面も。
後半ではブランティアを離れ、火炎神殿本社(やしろ)のある大陸中央部のアフラン王国まで向かうなど、エヤアルの旅は大陸を半ば縦断するような長大なものになる。
強大な ”力” を持って生まれるが、その ”力” は取り上げられてしまう。
〈炎の鳥〉の目的は何だったのか。
彼女の持っていた ”力” にはどんな意味があったのか。
終盤近く、エヤアルは自分に与えられた運命を知る。
彼女の ”選択” が物語のクライマックスとなる。
文庫の表紙に描かれているエヤアルがいい。視線の強さがそのまま意志の強さを秘めているような大きな瞳。この絵は、彼女のイメージをよく捉えている。
魅力的な彼女の旅を追っていけば、様々な人々や冒険に出会い、最後には静かな感動が待っている。素晴らしいファンタジー作品だ。
最後に余計なひと言を。
神殿騎士ダンくんはたいへんだね。10年は長いよねぇ。せめて5年くらいにしてあげてよ。
本書を読んだ人なら、かなりの割合でそう思ったんじゃないかなぁ(笑)。