夜の黒豹 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
角川文庫から、大量に横溝正史の作品が復刊されてる。なんでも「生誕120年」(1902年5月生まれ)で「没後40年」(1981年12月末に逝去)とのことで、それを記念してのことらしい。
横溝正史は、1970年代に一大ブームとなった。それは私が高校生から大学生だった頃と丸かぶり。私もブームの渦中にあって、夢中になって読んだものだ。
当時の小遣いの大半は角川文庫に消えてたような気がする。角川春樹は私に感謝するべきだね(笑)。
冗談はさておき、当時刊行された作品はたいてい読んでるはずなので、今回『夜の黒豹』も再読のはず。だけど、さっぱり覚えてないんだよねぇ。
まあ映画化されたような超有名作品は3回くらい読んでるし(もちろん映画も観た)、覚えているのは当たり前なのだが、さすがにちょっとマイナーな作品は覚えてないみたいだ。だって40年前だもんねぇ・・・
前置きが長くなってしまった。内容紹介に入ろう。
渋谷のラブホテルの一室で発見されたのは、ナイロンの靴下で首を絞められ、瀕死の状態にある全裸の女だった。しかも両の乳房の間には、青いトカゲの絵が描かれていた。
見つけたのはベルボーイの山田。しかし解放した彼女から「秘密にしてくれ」と懇願され、そのまま彼女を逃がしてしまう。
その女と一緒に部屋に入ったのは、漆黒のオーバーに身を包み、黒い帽子、黒いマフラー、そしてサングラスと、黒豹のような雰囲気の男だったことを山田は覚えていた。
その1週間後、芝高輪のラブホテルで女性の絞殺死体が発見される。首にはナイロンの靴下が巻き付き、乳房の間にはトカゲの絵が。そして、女と一緒に部屋に入ったのは、全身黒ずくめの男だったという。
死んだ女性の名は水町京子。娼婦だった。
そして、この殺人事件の新聞記事を読んだ山田は警察に出頭、渋谷で起こった事件のことが明らかになる。
世間は ”切り裂きジャック” 事件と大騒ぎになるが、そのさなか、山田は何者かに轢き逃げに遭って死亡してしまう。
そして第3の事件が発生する。被害者は星島由紀。15歳の高校1年生だった。彼女もまた全裸で、乳房の間にはトカゲの絵が。
由紀は13歳の時、10歳年上の従兄弟・岡戸圭吉と駆け落ち騒ぎを起こしていた。岡戸はいま、丘朱之助(おか・あけのすけ)というペンネームで、低級な週刊誌にエロ漫画を描いていた。
警察が岡戸のもとを向かうと、すでに姿をくらましていた・・・
非情に扇情的な事件の連続で、少女偏愛趣味の容疑者まで登場するという物語で、特に第3の事件の被害者・由紀の関係者はそれぞれ一癖も二癖もありそうな、裏の事情を抱えた人物ばかり。一連の事件の犯人も、この中に潜んでいそうだと見当もつくが、人間関係が非情に錯綜していてなかなか全体を見通せない。
このあたりは、地方の旧家を舞台にした他の有名作品と遜色ないくらいの書き込みだ。
冒頭の前半部の雰囲気はエロチック路線なのだが(笑)、ミステリとしての骨格はしっかりとしている。
金田一耕助の謎解きは、非情に論理的で、些細な供述や事実関係の食い違いから、丹念に絡んだ糸を解きほぐしていく。このあたり、ちょっと意外だった。
この復刊シリーズ、しばらく楽しめそうである。