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開化鉄道探偵 第一〇二列車の謎 [読書・ミステリ]


開化鉄道探偵 第一〇二列車の謎 (創元推理文庫 M や 7-2)

開化鉄道探偵 第一〇二列車の謎 (創元推理文庫 M や 7-2)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

 明治12年、京都と滋賀の間にある逢坂山で、鉄道トンネル工事の妨害工作および殺人事件が発生した。
 鉄道局長・井上勝から調査を依頼されたのは元八丁堀同心の草壁賢吾と工部省鉄道局技手見習の小野寺乙松(おとまつ)。この2人がコンビを組んで事件を解決したのが前作。本書はシリーズ2作目だ。

 本作はその6年後が舞台となる。
 上野から群馬県前橋市まで鉄道が開業したのは明治17年。その翌年に埼玉県の大宮に駅が開業、その2ヶ月後に大宮駅構内で脱線事故が起こる。
 生糸と野菜を運んでいたはずの貨車から見つかったのはなんと千両箱。しかもその中には万延小判が1000枚入っていたのだ。

 脱線事故自体も人為的に引き起こされたことが判明し、鉄道局長・井上は草壁と小野寺のコンビに、再び調査を依頼する。

 2人は貨車への積み込みが行われた高崎へやってきたが、現地は不穏な雰囲気に包まれていた。

 上州(群馬県)は幕臣だった小栗上野介の埋蔵金伝説が残る場所。小栗が江戸を去る際、江戸城から大量の財宝を持ち出していずこかへ隠匿したという噂は、この千両箱騒動で一気に真実味を増していた。

 明治維新によって禄を失い貧困にあえぐ没落士族、前年に困窮農民が武装蜂起した「秩父事件」の残党である自由党員、さらには不穏分子の摘発を名目に隠し財宝を接収しようと政府が送り込んだ警官隊と、埋蔵金を狙ってさまざまな人間たちが高崎に入り込んでいたのだ。

 草壁と小野寺が調査を続ける中、高崎駅構内で殺人事件が起こる・・・


 大宮駅は、私自身が幼少の頃から馴染みがあるので楽しみにしていたけど、出番が少なくてちょっと残念。物語のほとんどは高崎で進行する。

 前作から6年経っているが、草壁は相変わらず浪人暮らし。
 小野寺は一人前の技手になっていて、昨年結婚している。この新婚の嫁・綾子さんが本作いちばんの ”目玉” だろう。

 見合いの席で小野寺がヒトメボレしたのだが、結婚してみて分かったのが綾子さんは、よく言えば ”活動的”、悪く言えば ”じゃじゃ馬” だった(笑)。
 好奇心旺盛でアタマも切れ、しかも美人。走り出したら止まらない。現代からみればさほど珍しくない女性だと思うが、明治の世だからね。

 結婚したのが25歳と当時としては遅かったが、それもこの性格のせい。小野寺との結婚が決まった時、彼女の親類一同はお祭り騒ぎになったという逸話まである。

 本作でも、家で留守番なんてしておられず、調査に行った小野寺を追いかけて高崎までやってきてしまう。母方の実家が高崎で、親類には地元の有力者までいるというので強引に2人の捜査に割り込んでくる。

 彼女が登場すると、一気に場が盛り上がってくるのが楽しい。あまりにも存在感が強いので、小野寺の影のほうが薄くなってくる始末。下手すると彼女にワトソン役を取られてしまうんじゃないかって心配になってしまった。

 本書の冒頭に登場人物一覧表があって、そこに30人ほど名が上がってるんだが、なんと女性は彼女1人だ。
 もし彼女がいなかったら、男しか登場しない、むさ苦しい話になってたのかも知れない。作者もそれを感じて綾子さんを登場させたのだと思うが。

 殺人事件の発生は物語の中盤とちょっと遅めだけど、警官隊と不穏分子の大捕物や、列車襲撃事件など派手なイベントも盛り沢山。
 ラストには、関係者一同を集めて草壁が「さて・・・」と謎解きを始める、お約束のシーンもちゃんとある。

 前作と今作の間の6年間にも、草壁と小野寺はいくつかの事件に関わっていたらしい描写もあるので、そのうち短編集なんかも出るといいな。
 綾子さん主役のスピンオフなんてのも読んでみたい。



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