テンペスタ 最後の七日間 [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
主人公は30代後半の独身男・賢一。
東京で大学の非常勤講師をしているが、その薄給を補うために翻訳のアルバイトで糊口を凌ぐ日々。
ある日、田舎で暮らす弟・竜二から頼まれ、一人娘のミドリを夏休みのあいだの1週間、預かることになる。
タイトルの ”テンペスタ” とは、”嵐” を意味するイタリア語のようだが ”ヒロイン” であるミドリを形容する言葉として誠にふさわしい。
小学4年生で美少女といえる容姿ながら、口を開けば毒舌が飛び出す。東京にやってきた彼女が最初に賢一にねだったのは、江戸時代の罪人の処刑場巡り(おいおい)とおよそ10歳の子どもとは思えない趣味嗜好の数々。
年齢不相応な知識も蓄えているようで、かなりの耳年増のようだ(笑)。
性格は自由奔放ながら、正義感もまた人一倍。大人の事情で見過ごされがちな ”世の理不尽” にも敢然と異を唱えて噛みついていく。
さぞかし、学校では浮いているんだろうなぁと思わせるが本人はケロリとしたものである。
先入観に囚われない子どもが、ものの本質を突く言動をする、というのはよく見かけるパターンではあるが、本書はそれが文庫で300ページにわたって繰り広げられる。
中でも、西洋の有名絵画の画集を見せられたミドリが、名画の数々をケチョンケチョンにこき下ろすシーンは痛快だ。
彼女の保護者を押しつけられた賢一こそ災難で、ミドリに振り回されてさんざんな目に遭うのだが、その中で新たな刺激も感じるようになっていく。
さて、本書はミステリであるから、当然それだけでは終わらない。ミドリと一緒に過ごす日もあと1日となった6日目の夜、ある ”事件” が起こる。しかしこれはまだ序の口。最後の7日目に至って、さらにとんでもない衝撃が賢一を襲う・・・
どちらの ”事態” も、物語の序盤からあちこちに伏線が張ってあり、それがきれいに回収されていくのはお見事。
台風のような小娘に翻弄される中年男の悲哀(笑)を描いたユーモア小説のはず、だったのだけど、ラスト70ページでは雰囲気は一転、涙で文字が滲んでしまう展開に。
いやあ、こういうのには弱いんだよなぁ・・・