SSブログ

紙片は告発する [読書・ミステリ]

紙片は告発する (創元推理文庫)

紙片は告発する (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/26
  • メディア: 文庫

評価:★★★

舞台はスコットランドの田舎町・キルクラノン。
現在、新町長の選出を巡って町は揺れ動いている。

 ここの ”町長” は、住民の選挙ではなく町議会による任命で決まる。

タウンホール(町役場)でタイピストをしているルース・エルダーは
町議会議員の娘だったが、家庭でも職場でも軽んじられる存在だった。
そんな彼女は、職場で奇妙なメモを拾う。

ルースはそのメモのことやそれを警察に持っていくことを
職場の同僚達に話してしまうが、
その夜、彼女は絞殺死体となって発見される。

視点人物となるのは、タウンホールの副書記官ジェニファー。
仕事では有能ぶりを遺憾なく発揮し、順調に昇進してきた。
しかし、仕事のできるアラサー女性に対して周囲の目は冷たい。

なにせ本作の時代は1970年だからね。
長老議員を初めとする、町の上層部の男性陣からは
「早く結婚して家庭に入れ」という有形無形の圧力が。

一方、どこの世界にも ”使えない部下” というのは一定数いて、
ジェニファーには彼らを ”使いこなす” ことが求められる。

さらに、彼女には上司である書記官ジョフリーと
不倫関係にあるという負い目まであった。

上も下も私的にも問題山積で、なかなか悩ましくハードな状況。
それにもめげず、ジェニファーは仕事にプライベートにと奮闘する。
働く女性の ”お仕事小説” としてもよくできてる。

一方で警察による事件の捜査も続いていて、やがて
ジョフリーが最大の容疑者として浮上してきてしまう・・・

この作者の特徴だけど、主役となる人物の設定がユニーク。
ジェニファーから見れば、周囲の人間たちは
ほとんどが多かれ少なかれ自分の邪魔をする ”敵”。
みな何か隠し事を抱えていて、怪しく思える。

ジェニファー自身も、ジョフリーとの関係がこのままでいいとは
思っていないが、すっぱり切ることもできず、ずるずると続けている。

そんなジェニファーが、事件を通じて変わっていくところが
本書の読みどころか。

ラストでの彼女の選択は哀しいけれど、新たな希望も感じさせる。
八方丸く収まるというわけではないが、私は満足して本を閉じられたよ。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ: