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グラスバードは還らない [読書・ミステリ]

グラスバードは還らない 〈マリア&漣〉シリーズ (創元推理文庫)

グラスバードは還らない 〈マリア&漣〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/03/19

評価:★★★★

マリア&漣の刑事コンビが活躍するシリーズの第3作。

希少動植物の密売ルートの捜査を行っていたマリアと漣は、
顧客の中に不動産王ヒュー・サンドフォードがいるという情報を掴む。

彼がニューヨーク市に所有する超高層ビル ”サンドフォード・タワー”。
最上階にある彼の自宅の奥の一画では、その希少動物が飼育されていて、
ごく一部の人間だけがそれを目にすることを許されているという。

折しもヒューが所有するガラス製造会社では産学協同で行ってきた
新製品・屈折率可変型高機能ガラスの開発の目途がつき、
タワー最上階の自宅ではスタッフを集めた懇親パーティーが開かれた。
しかしそれに参加していたメンバー5人は見知らぬ場所で目を覚ます。
どうやら薬物を盛られたらしい。

開発責任者トラヴィス、その部下のチャック、
大学の研究者イアン、博士課程の大学院生セシリア、
そしてサンドフォード家のメイドのパメラ。
彼らが閉じ込められていたのは周囲を壁で囲まれ、
透明なガラスで複雑に仕切られている空間。
そしてその中で、一人また一人と殺されていく・・・

一方、捜査のためサンドフォード・タワーを訪れたマリアと漣だが
当然ながら受付で門前払い。しかし挫けないマリアは
警備の目を盗んで非常階段を登り始める。

足を棒にしながらも(笑)登り続けるマリアだが、
その時タワーで爆弾テロが発生、ビル倒壊の危機が迫る。
降りることもできなくなった彼女は、ひたすら上を目指すのだが・・・

物語は、閉鎖空間に綴じ込まれた5人が遭遇する
「そして誰もいなくなった」状況のミステリもの、
倒壊しつつあるビルに閉じ込められたマリアのパニックもの、
この2つのパートが交互に語られていく。

もちろんこの2つは最後に一つに収束するのだけど
マリアによって導き出されるのは、実に驚くべきカラクリ。

読んでいても、いったい何がどうなってるのか
さっぱり見当がつかないのだけど、
それをきっちり合理的に理屈づける技量はたいしたもの。

この作者は3作続けて超絶難度の離れ業を決めてきた。
この才能は半端ではない。

タイトルの「グラスバード」とは、
ヒューが飼育している希少動物のひとつ。
そのあまりの美しさに、登場人物の一人は心を奪われてしまうのだが
これも本作におけるミステリとしての重要パーツの一つ。

真空気嚢式の気球 ”ジェリーフィッシュ” も重要アイテムとして登場、
前作で開発された ”ブルーローズ” も物語の背景に顔を出すなど、
シリーズを追ってきたファンにも嬉しいつくり。

 と書いてくると前2作を読んでいなくてはマズいのかと
 思うかも知れないが、そんなことは全くない。
 このシリーズ3作は、どこから読んでも大丈夫なようにできてる。

マリアと漣のとぼけた掛け合いもお馴染みなのだが
登場するキャラたちの織りなす人間模様も読ませるし、
ストーリー・テリングもとても達者。

次作が待ち遠しく感じるミステリ作家さんの一人だ。


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