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鏡館の殺人 [読書・ミステリ]

鏡館の殺人 (新潮文庫nex)

鏡館の殺人 (新潮文庫nex)

  • 作者: 月原 渉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★

ロシアの血を引く(と覚しき)クールビューティなメイド・シズカさんが
活躍する『使用人探偵シズカ』シリーズ、第4作。

海運業で財を築いた黒澤松太郎。しかし男子に恵まれなかったことから
多くの妾を囲うが、皮肉にも生まれたのは女子ばかりだった。

松太郎は鎌倉の一画に屋敷を構えた。
新館・旧館それぞれに多数の鏡が配置された ”鏡館” には
妾腹の娘たちが集められて暮らしていた。

彼の眼鏡にかなった娘は政略結婚の道具として扱われ、
意に染まない娘は身一つで放逐されてしまう。
昨年も館を追われた娘が一人、絶望のあまり自殺していた。

語り手は、松太郎の妾腹の娘の一人、澄香(すみか)。
異母姉妹である真昼(まひる)、久樂々(くらら)、
佐和子、瑠璃(るり)とともに館で暮らしている。

館には年に一度、松太郎が訪れる。娘たちの成長を見定めるためだ。
そしてその夜、松太郎の刺殺死体が発見される。

現場は、旧館の衣装部屋。
壁の一面が鏡になっており、”鏡の間” と呼ばれていた。
遺体はその鏡の前にあったが、部屋の中央の血だまりから
鏡に向かって引きずられたような血の跡が。
まるで、鏡に引きずり込まれそうになったように・・・

毎度のことながら、舞台や人物のぶっ飛んだ設定には驚かされる。

強烈なキャラを示す娘たちの中にあって、
ヒロイン・澄香の性格は穏やかそうに見えるが
その彼女にもかつて ”桐花” という双子の姉がいて
既に亡くなっているはずの姉の幻影を、しばしば鏡の中に見る・・・
というなんともホラーな設定。

ミステリで双子、とくれば海外の某有名作品を連想する人も多いと思う。
作中にも、それを思わせるような描写が散見するが
読者が ”そういう連想” をするところまで作者の計算のうちだろう。

殺人以外にも、殺人を予告するような手鏡や、
館内に多数配置された鏡の謎など、ミステリ的な仕掛けが多数。

異常な男によって異常な館に集められた娘たち。
当然ながら、姉妹の間でも激しい愛憎の物語が生じる。

そんな中で起こる殺人事件だが、真の被害者は
”籠の鳥” という立場を強いられた娘たちだろう。

シズカさんによって真相が指摘された後、
「終章」では生き残った娘さんたちの ”その後” が示唆されるが
そこに一片の救いを描くことで、読者もまた救われている。

読み終わった後でじっくり考えてみると、
今ひとつ納得できない部分もありそうに思うが
読んでいる間は全く気にならなかった。
そのあたりは作者の上手さだろう。


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