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竜とそばかすの姫 [アニメーション]

※終盤のストーリーに触れています。

細田守という監督さんの作品、実はまともに観たことが無い。

何回かTVで放送されたこともあったけど、それも見たことが無い。
細田監督にとっては、”よい観客” ではなかったのだけど、
そんな細田監督の新作映画が公開になった。
この際、真面目に観てみようと思って(笑)、映画館まで足を運んだ。
ryuusoba.jpg

で、どうだったか。

結論から書くと、ものすごく素晴らしいところがたくさんあった。
だけど、「うーん」と首を傾げてしまう部分も多々あった。

これからそのあたりのことを、
例によってまとまりなくダラダラと書いていくのだけど、
上にも書いたように褒めるだけではない文章なので
(というか、けっこう文句を書いてる)
「素晴らしい! 感動した!」と絶賛されている方にとっては
面白くない文章になっていると思いますので、悪しからず。

あと、終盤のストーリー展開にも触れているので
未見の人はご注意を。

まずはストーリー紹介から。
以下は、wikiの「あらすじ」からの引用。

高知県の田舎町に住む女子高生・すずは
幼い頃に母を事故で亡くして以来、大好きだった歌を歌えなくなり、
父との関係にも徐々に溝が生まれていた。

作曲だけが生き甲斐となっていたすずは、
ある日全世界で50億人以上が集う超巨大インターネット空間の
仮想世界〈U〉に Belle というキャラクターで参加。

そこでは自然と歌えたすず(Belle)は、
自ら作った歌を披露していくうちに歌姫として世界中から注目を集め、
遂にはコンサートが開かれるが、コンサート当日、突然謎の竜が現れて、
コンサートは台無しになってしまう。

だが、 Belle はそんな竜が抱える大きな傷の秘密を知ろうと接近し、
竜もまた Belle の優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
そんな中、世界では「竜の正体探し」が動き出す。

引用、ここまで。

まず、素晴らしいところから。

話題の作品なのでCMの露出も多く、それを見れば予想できることだけど
既に観た人からも多くの感想がネットに投稿されてて
みな異口同音に語るのが「音楽と映像がとにかくスゴい」。
私もこれには100%同意します。

CGで描かれた電脳世界〈U〉は、華麗にして詳細。
画面の隅々にまで至る微細な部分まで描き込まれた映像はまさに圧巻。
まさに現在における最高級の出来で、
世界のどこへ出しても恥ずかしくないレベルになってると思う。

主人公・すずのアバターである Belle が歌うシーンもまた特筆もの。
すずのCVを務めた中村佳穂さん本人の歌唱力がまた頭抜けている。
本職はミュージシャンとのことだけど、流石です。

 声優としては、飛び抜けて上手いとは言えないけど、
 一般芸能人を起用したらとんでもなく下手だった、という例を
 たくさん見てるので(笑)、それと比べれば充分に合格点です。
 少なくとも、観ていて気になるレベルではありませんでした。

millennium parade(ミレニアムパレード)という
音楽プロジェクト・グループが楽曲製作をしているらしいけど
作品が映画の世界にマッチしているというか
逆に音楽が〈U〉のイメージ形成に貢献しているというか。

サントラ盤が発売されたら買おうかと思ってる(ホントです)。

しかしながら、映像と音楽以外の部分では
いろいろとツッコミどころが多いのも事実かと。

物語の序盤、仮想空間で行われる Belle のコンサートが
正体不明の ”竜” が乱入してくることによって中断されてしまい、
会場内で ”竜” とネット内自警集団 ”ジャスティス” との戦闘が始まる。

それまでの幻想的なシーンが、単なるバトルアニメになってしまって
ここでちょっと興醒めしてしまった。

仮想空間内で敵視されている竜だけど、彼が具体的に悪行を働いている
シーンは描写されないので、今ひとつ迫害される理由がピンとこない。
だからジャスティス達の方が嫌味な悪役になってしまう。

 まあこの辺は昨今の ”自粛警察” のメタファーなのかも知れないが。

そしてこれ以降、特に個々のキャラクターの行動に疑問符がつく展開が。
挙げればいろいろあるのだけど、いちばん憤りを覚えたのは終盤だ。

すずは幼少時に母を喪い、父とも疎遠になってしまい、
現実世界での自分に自信を持てない少女に設定されている。
なかなか重い設定だが、それが彼女を仮想世界へのめり込ませる
動機にもなっている。それは理解できる。

本作はいろんなテーマを盛り込んでいる作品なのだけど、
すずに注目すれば、彼女の成長の物語だ。
幼い自分を残し、他人の子を助けるために亡くなった母親のことを、
許すことはできなくても理解することはできるようになり、
父親との関係も修復の一歩を踏み出す。

そして彼女がそういう境地にいたるまで成長することに対して
他の誰も助けることはできない。
彼女自身が一人で、独力で乗り越えなければならないことだ。
それは分かるのだけど、だからといって終盤のあの展開はないだろう。

児童虐待という微妙なテーマを絡める必要はあったのか?
そしてその現場へ、すずが一人で向かうというという
ありえない展開は必要なのか?

 普通は警察か児童相談所へ連絡するものだろう。
 まあ、お役所の対応が鈍い場合もあるだろうが、
 だからといって一介の女子高生が介入する案件ではない。

そしてその彼女を一人で送り出してしまう周囲の人々もありえない。
クラスメイトはともかく、父親など周囲の大人の対応は常軌を逸してる。

本作は、徹底して大人たちを役立たずに描いているように私には思える。
理由は分からないけど。

他のキャラクターについても不自然なところが多々。

すずの幼馴染みで、彼女がほのかに思いを寄せる ”しのぶくん”。

終盤になって突然、すず= Belle  だと知っていたと言いだし
(気づいた理由は描写されない)、心を閉ざす竜に対して
呼びかけようとするすずに対して
「素顔を出せば信じてもらえる」と言う。

何を根拠にそう言い切れるのか分からないし、すずがどんな思いで
”Belle” をつくり出したのか理解しているのだろうか?
そしてリアル世界で正体がばれてしまったら、
すずがどんな目に遭うのか、その責任をとれるのか?
私には「ずいぶん勝手な台詞だなぁ」としか思えなかった。

少なくとも ”Belle” というキャラが、すずとしのぶの合作だった、
くらいの設定があればともかく、全くの部外者だった彼から
突然に発せられたあの台詞は、説得力のなさがハンパない。

このしのぶくんをはじめ、同級生のカヌー部員・カミシン、
吹奏楽部のルカちゃん、そしてすずの父親。
それぞれCVは成田凌、染谷将太、玉城ティナ、役所広司。
しのぶくんの成田凌はともかく、他の3人は
ストーリーにもほとんど絡んでない。

あ、カミシンは虐待現場を突き止めるのに一役買うのだが
これも、いかにもご都合主義的な展開だよなぁ。

 それに、もしも現場が海外だったらすずはどうしたのだろう?
 とも思ったが、物語の構造上、すずが関わる必要があるのだから
 その可能性はハナからなかったことになる。

さらに、劇中に登場する熟年女性合唱団の5人組。
たぶん、すずにとっては母親代わりを務めたのであろうと
思われる人たちなのだが、ひと言くらい
説明の台詞があってもよかったんじゃない?

そして彼女らもなぜか すず= Belle  だと知っているんだが、
こちらも気づいた理由は描写されない。
外野でわいわいしているだけでストーリーにもほとんど絡みなく
この5人も登場理由が不明。
CVは森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世。
中尾さんは寡聞にして存じ上げないのだが、それ以外の4人、
そして上記の3人をみると客寄せのための起用かと思う。

起用が正解だった例も挙げなければいけないね。
すずの親友で、彼女を Belle としてプロデュースするヒロちゃん。
CVは幾田りら。YOASOBIのボーカルの女の子だ。
これも話題作りの一環で起用されたのだろうけど、彼女は素晴らしい。
映画を観ている間、本職の声優さんだと信じて疑わなかったよ。
それくらい上手だった。
ネット動画からブレイクしたあたり、実は Belle という存在に
一番近いのは彼女だったりするとも思うんだが
天は二物も三物も与えるのだねぇ。

いろいろ書いてしまったけれど、
序盤の映像と音楽があまりにも素晴らしかったのに比べて、
中盤以降の展開がなんとももったいなさ過ぎて。

残念ながら「もう一回観たいな」って
思わせる映画ではありませんでした。


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