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卒業したら教室で [読書・ミステリ]

卒業したら教室で 市立高校シリーズ (創元推理文庫)

卒業したら教室で 市立高校シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/03/11

評価:★★★☆

著者のデビュー作「理由(わけ)あって冬に出る」から始まる
〈市立高校シリーズ〉の最新刊。

文庫の著者紹介を見たら、デビューは2006年。
もう15年選手になってしまってるんですねぇ、この人。
著作も30冊を超えてるし、〈戦力外捜査官シリーズ〉はTVドラマになるし
もうすっかり人気作家ですなぁ。

さて、本書は3つのストーリーラインからなる。

一つ目は、以前からのシリーズの時系列上にある。
主人公兼語り手の2年生・葉山君がいる市立高校は年度末を迎え、
一学年上で演劇部部長の柳瀬さんが卒業する時も近い。

そんなとき、クラスメイトの秋野舞衣から相談を受ける。
放課後のパソコンルームで、謎の人影を見たという。
その人物は、電源も入れずにPCの前で何かをしていたらしい。

卒業生の伊神に話すと、それは「兼坂(んねさか)さん」と呼ばれる
市立高校 ”八番目の七不思議” だという。
やがてそれは、二つの密室事件へとつながっていく。

二つ目は、12年後の時間線。
高校生だったメンバーも社会人となり、結婚している者もいる。
葉山と親友の三野(ミノ)がTV電話で交わすやりとりで進行する。

ミノからネット上に公開されている小説のことを聞く葉山。
作者は市立高校出身で、葉山たちと同時期に在学していたらしい。
小説の登場人物を見ると、明らかに葉山たちをモデルにしているようで
当時、かなり親しい仲にあった人物のようだ。

葉山はネット小説を読むことで作者を突き止めようとするが・・・

三つめは、そのネット小説。
内容は「王立ソルガリア魔導学院」という学園を舞台にした
”異世界ファンタジー” だ。登場するのは、
12年前の市立高校にいた生徒がモデルと思われるキャラばかり。

ハリー・ポッターでのホグワーツのように、
魔法を学ぶ者が集まった学園で事件が起こる。
魔法と言っても制限があって、何でもできるわけでない。
そんな世界での ”不可能犯罪” が描かれる。

序盤では、学園を謎の怪物軍団が襲撃してきて
アクションたっぷりの戦闘シーンも展開する。
現実世界での2つの密室、異世界での不可能犯罪と合わせて
エンタメとしてのサービスもたっぷりだ。

ただまあ、異世界での不可能犯罪の方は、
解決に必要な ”魔法における制限事項” が、
必ずしも読者に開示されていないように思えた。

 開示されていたからと言って、犯人が当てられるわけでもない
 とは思うが、ちょっとひっかかった。

それに対して現実世界の方は、手堅く解決される。
中盤で示される解決が終盤ではひっくり返るなど、
予想される展開ではあるが楽しめた。
終わってみれば〈高校〉という場だからこそ起こる事件でもあって
最終的に明かされる真相にも納得だ。

もっとも、読んでいて一番気になるのはミステリ部分よりも
葉山君が思いを寄せる柳瀬さんとの仲。

柳瀬さんも満更ではない様子(というか彼女の方が乗り気)なのだが
「去る者は日々に疎し」とも言う。卒業して会えなくなると、
そのまま関係が消滅してしまうのもよくあること。
葉山君は卒業までに柳瀬さんとの仲を深めることができるのか。

そして、もっと気になるのは「12年後」の葉山君の境遇。
一人暮らしではなく、「うちの人」と呼ぶ同居人がいるらしい。
年齢も性別も不明でなんとも気を揉ませる。
妹さんかも知れないし、嫁さんかも知れない。いったい誰なのか。
読者が知っている人物なのか、全く未知の人なのか。
そのへんは今後のシリーズで描かれていくのだろうか。


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