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マツリカ・マトリョシカ [読書・ミステリ]

マツリカ・マトリョシカ 「マツリカ」シリーズ (角川文庫)

マツリカ・マトリョシカ 「マツリカ」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/03/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

親しい友人もおらず、成績もじり貧。クラスに居場所もない。
そんな冴えない学校生活を送っていた主人公・柴山佑希は、
ある日、学校近くの廃ビルで ”マツリカ” と名乗る少女と出会う。

傍若無人かつ高飛車な物言いで、柴山のことを ”柴犬” 呼ばわりするが
彼女の美貌とナイスなスタイルに魅せられた(笑)彼は
マツリカの ”パシリ” としてこき使われる日々を送ることに。
彼女に勉強まで教えてもらって成績も上向き、無事に2年生にも進級。

そんな使い走りのワトソン・柴山と
安楽椅子探偵・マツリカの登場するシリーズの第3巻。

しかしながら、いままでの2巻を通じて
校内で起こった事件や謎を追いかけていくうちに
柴山君にも写真部の生徒たちをはじめ、何人かの
”仲間” と呼べるような人たちができはじめる。

なんだかんだ言ってても、柴山君はもう一人じゃないんだけど、
今ひとつ吹っ切って彼ら彼女らの中に入っていけない。
本人の実感としては、第1巻の頃からあまり変わっていないのだろう。
決してそんなことはないのだけどね。

冒頭に登場人物一覧が載っているんだが、いつのまにか
(仲が良い悪いは別にして)こんなの多くの人と
関わりを持つようになる(なった)んだねぇ・・・って
いささか感慨に耽ってしまう(笑)。

女子テニス部の部室の天井に、女の顔をした染みが浮き出ているという。
マツリカからその撮影を命じられた柴山は途方に暮れていた。

そんなとき知り合ったのが美術部の1年生・春日麻衣子。
彼女の手引きで、深夜の部室に潜入することに成功、
無事に撮影を終えて帰ろうとしたとき、
柴山は特別教室棟の一角に謎の光を目撃する。

そこはかつて「第一美術準備室」と呼ばれた部屋だったが、そこでは
2年前に女子生徒が何者かに襲われて負傷するという事件が起こっていた。
部屋の中に犯人の姿はなく、出入り口は衆人環視されている密室状態。

事件は未解決のまま、その部屋は使用されなくなり
生徒たちからは「開かずの扉」と呼ばれるようになっていた。
(実際は、事件以後に倉庫として転用されていたのだが)

翌日、職員立ち会いの下で「開かずの扉」が開かれる。
そこには一体のトルソー(頭部や四肢のない胴体だけの彫像)が横たわり、
それにはブラウス、ネクタイ、ベストそしてスカートと
女子の制服一式が着せられ、しかも周囲には
無数の蝶の死骸が散乱していた。

窓も内側から施錠され、扉以外の出入り口はない。
その扉の鍵は、もちろん職員室で管理されている。
再びの密室事件の発生だった。

かねてから女子テニス部室前で不審な行動を取っていた柴山は
テニス部の3年生たちから事件への関与を疑われてしまう。

柴山は自らにかけられた容疑を晴らすべく、今回の事件と
2年前の事件と、2つの密室に挑む羽目になるのだが・・・

柴山君も彼なりに頑張るのだが、事件の真相は杳として知れない。
その間、彼の周囲の人たちがいろいろな推理を繰り広げる。
もはやレギュラーメンバーと化した写真部員の松本まりか、高梨千智、
さらに部長の三ノ輪、以前の事件で関わりになった村木翔子と
いろんな観点から密室の解釈がなされるが
どれも不可能であることが証明されてしまう。

本編中では、1つの密室に対して6通りの解釈が展開される。
この多重解釈(多重解決)が本作の読みどころのひとつ。

もうこれ以外に密室を破る方法なんてないんじゃないか・・・
って思わせた頃に、真打ちであるマツリカ嬢の登場となる。

彼女が推理の材料として挙げていく事項に驚く。
序盤から語られてきた何気ない描写や、
高校生なら誰もがしているような、ごく普通の行動まで
細かく取り込み、精緻に論理を組み立てていくのだ
「あの○○にはこんな意味があったのか!」というのが
立て続けに繰り出されて、”日常の謎” 系ミステリとしては
最高級の密度を誇ると言っていいだろう。

ミステリとしては素晴らしいし、
事件に関係する生徒たちや犯人側の事情も十分に掘り下げていて
青春群像ドラマとしてもよくできていると思うけど、
いまひとつ素直に物語に浸る気分になれないのは、
やっぱり主役二人のキャラだろう。

特に柴山君はねぇ。1作ごとに成長はしているんだけど
肝心の時にはやっぱりビビりだし。
あんなに女の子たちに ”かまってもらって” いるのに、
それでも結局はマツリカ嬢を求めてしまうのは、もうねぇ・・・

もっとも、柴山君が毅然としたキャラへと成長して
自分から新しい世界に飛び込んでいくようになってしまったら
そこでこのシリーズも終了し、マツリカ嬢も退場してしまうようにも
思うので、このあたりの案配は難しいか。

でも、今回3作目を読んでみて、各キャラの過去の設定とか
かなり早い段階から決めてあったんだろうなあと思った。
特に某キャラは、作品世界で初登場させた時点で
将来的に本書の中で ”使う” 予定が既にあったのだろう。

ならば、シリーズ最終作の構想もあるのだろうと思う。
そこへ向けて、どう収めていくのかは興味深くもある。

それにしても、登場する女性キャラからことごとく
(良い意味でも悪い意味でも)”いじって” もらえるとは、
柴山君は人気があるなあ。

なんだかんだ言って世話を焼いてもらえるのは
異性として好かれていると言うよりは
母性本能をくすぐっているのかもしれんが。
「出来の悪い子ほど可愛い」って言うからね(笑)。

前作のラストでいろいろあった、写真部員の小西菜穂嬢も
終盤近くにちょこっと出てきて柴山君を励ましてくれる。
さて、このお嬢さんの ”価値” に、柴山君はいつ気付くのか。


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