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戦の国 [読書・歴史/時代小説]

戦の国 (講談社文庫)

戦の国 (講談社文庫)

  • 作者: 冲方丁
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

私は普段、歴史小説ってあんまり読まないんだけど、
今年の大河ドラマ『麒麟がくる』が気に入っていて
戦国時代の話を読んでみようと思ったことと、
作者が冲方丁だったので、手に取ってみた。

SFもミステリも書くし、小説だけでなく
脚本まで書いてる。
なんとも多才な人だなあと思う。

さて、本書は講談社文庫の歴史アンソロジー企画である
「決戦!」シリーズのために書かれた短篇を集めたもの。
6つの短篇で6人の戦国武将を描いている。

「覇舞謡(はぶよう)」
桶狭間の戦いを信長視点で描く。
信長と言えば、「革新的な天才」とか「敵を根絶やしにする魔王」とかの
イメージで語られてきたことが多いが、冲方丁もまた新たな解釈を見せる。
信長の生涯を描いた大長編の一部をカットして見せたような作品で
ぜひ冲方版「織田信長」全編が読みたいなあ。

「五宝の矛」
上杉謙信(長尾景虎)15歳の初陣から、その死までを描く。
その戦の天才ぶりもさりながら、21歳年上の兄・晴景との絆もいい。
阿吽の呼吸で二人が越後を平定していくさまが快い。
49年の生涯をダイジェスト版で(それもおそろしく高密度で)
見せられたような思いがする。こちらも長編に書き伸ばしてもらって
冲方版の「上杉謙信」として読みたいなあ。

「純白(しろ)き鬼札」
主人公は明智光秀。彼が謀反を起こした理由については
さまざまな説があるのだが、本作で冲方丁が示す ”理由” は
おそらく今までになかったものではないか。それくらい意外なもの。
史実としてこの説が成立するかどうかは別として、
この作品内の信長と光秀となら、十分な説得力があると思う。

「燃ゆる病葉(わくらば)」
死病に冒された武将として有名な大谷吉継が主人公。
視力を失い歩くこともできない吉継は、家康との決戦に反対していたが
その彼が関ヶ原で西軍に与した理由、そして
小早川秀秋の裏切りを予測しながらも支えきれずに散るまでを描く。

「深紅の米」
天下分け目の関ヶ原で西軍を裏切り、東軍勝利に一役買った小早川秀秋。
しかし後世の評価は、優柔不断で愚かな男だとか
形勢を見ていた日和見で卑怯な奴とか散々なものだろう。
冲方丁は秀秋の背景として、秀吉の身内として重用されたが
後に関白秀次の死を経験し、また朝鮮出兵へ従軍したことも描き、
それらによる彼独自の価値観の形成を追っていくことにより、
彼の関ヶ原での行動に納得できる理由付けをしてみせる。

「黄金児」
主人公は豊臣秀頼。世間一般の評価は淀君に過保護に育てられ、
自己主張のできなかったマザコン男、みたいなイメージがあると思う。
(私は少なからずそう思っていた。)
逆に、実は英邁で武将としての器量も人並み以上にあったのに
それを振るう機会が与えられなかった、的に描かれることも
少なからずあるようだ。実際そんな作品も読んだことがある。
しかしここで冲方丁が示すのはそのどちらでもない。
生まれながらにして巨大な城と、莫大な黄金と、
数多の家来にかしずかれるという、
およそ人間離れした環境に生まれたら、どんな成長を遂げるか。
本作の示す秀頼像は、私がいままで見てきた読んできたどんな秀頼よりも
魅力的だと思うが、同時にいちばん哀しいものかも知れない。


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