SSブログ

疾走!千マイル急行 上下 [読書・ファンタジー]

疾走!  千マイル急行 上 (ハヤカワ文庫JA)

疾走! 千マイル急行 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: 文庫
疾走!  千マイル急行 下 (ハヤカワ文庫JA)

疾走! 千マイル急行 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

本書は2005年に今は亡き(!)ソノラマ文庫から刊行され、
2007年にはソノラマノベルスから再刊されている。
私も本屋に並んでるのを見た記憶があるし、
てっきり読んだものだと思ってたんだけど・・・

今回改めて読んでみたら、記憶にない話だった。
つまり、初刊時には読んでなかったということだ。

 読んでたけど、きれいさっぱり忘れてた
 という可能性もないではないが、それは認めたくないなぁ・・・(笑)

とにかく、「既読だな」と思ってスルーしないでよかったよ。
とても面白い話だったから。

舞台となるのは、異世界にあるジオール大陸。
作中の地図によると、東西約2000マイル(約3200km)、
南北約1500マイル(約2400km)ほどの大きさ。
オーストラリア大陸をひと回り小さくしたくらいか。

峻険な山脈も広大な砂漠もあるその大陸には、
多くの都市国家が割拠し、各都市間は鉄道によって結ばれている。

そして、この世界の文明レベルは蒸気機関全盛期。
ガソリンエンジンなどの内燃機関は未だ登場していない。
従って航空機は存在せず、人・モノの移動は鉄道のみ。
そしてその鉄道は、蒸気機関車(SL)に牽かれて走ることになる。
(表紙のイラストがそうだ)
発展した都市部は19世紀頃のヨーロッパ風、
郊外の荒地や砂漠はアメリカ西部開拓時代を彷彿とさせる。

大陸西端部にあって高度な文明を誇る都市国家・エイヴァリー。
そこの企業ACR(エイヴァリー都市鉄道)が運用する国際寝台列車は
ジオール大陸の主要都市間をつなぐ ”千マイル急行”
(TME:Thousand Miles Express)という名で呼ばれ、
その豪華さとサービスの質の高さで知られていた。

エイヴァリーで名門中等院に通う14歳のテオドア(テオ)が主人公。
ACR社長の息子でもある彼が
TMEに乗って旅立つところから物語が始まる。

遥か大陸東南部の都市国家・采陽(サイヨー)へ
向学の旅へ向かうはずだったが、TMEの出発直後に
大陸中央部にあるルテニア、北部のレーヌスという二つの強国の
連合軍がエイヴァリーに侵攻、占領してしまう。

さらにTMEまでもが連合軍の攻撃を受けるが、いつの間にか
TMEに連結されていた装甲列車と、それに乗り込んでいた
エイヴァリー都市軍(シティ・ガーズ)によって撃退される。

実はTMEは、連合軍による攻撃を予期したエイヴァリー市上層部によって
送り出された ”特命列車” だった。目的は采陽に援軍を求めること。

しかし連合軍も黙ってはいない。
レーヌス軍情報部のサングフォン大佐もまた装甲列車を繰り出し、
TMEを執拗に追撃し続けることになる。

装甲列車vs装甲列車、レーヌス軍vsシティ・ガーズの
激しい戦闘シーンも本書の読みどころのひとつだ。

こう書いてくると、TMEがレーヌス軍の装甲列車を振り切って
采陽にたどり着けば終了・・・って思うだろう。
しかし物語はそう単純ではなく、読者の予想を超えて広がりを見せる。

連合軍の侵攻により、一夜にして ”難民列車” となってしまったTMEだが
彼らが立ち寄る都市の人々は、なぜか一様に嫌悪の表情を見せるのだ。

それは連合軍に怯えてのものだけではなく、
エイヴァリーという国家そのものに対して
悪感情を抱く都市が少なくないことが次第に明らかになっていく。

やがてテオは知る。
辺境地域にある都市国家エイヴァリーが、
なぜ大陸でも屈指の繁栄を得ることができたのかを。
そして、TMEが采陽に向けて運んでいるものが何なのかを。

しかしそこからが、テオの主役としての活躍の始まりだ。
四面楚歌の状況で、TMEの人々が希望を見失ったとき
テオは新たな ”目的地” を見いだす。

テオと、その仲間の少年少女たちの行動が
大人たちを変えていき、TMEを新たな ”旅” へと導いていくのだ。

TMEには、テオ以外に3人の子どもたちが乗っている。
エイヴァリー市議会議長の娘・ローライン、
重工業企業の創業者一族の一人にして鉄道オタクのアルバート、
そしてなぜかエイヴァリーやTMEに対して敵意を隠さないキッツ。
協力や対立を経て4人が成長し、友情を育んでいくのも読みどころだ。

登場する大人たちも立派だ。
物資の不足に悩みながらも、最後まで ”最高のおもてなし” を
提供しようとするTMEの乗員たち。
シティ・ガーズを指揮するヘルフォード中佐も
最大の敵役となるサングフォン大佐も
軍人としての信念と矜持を失わない。

たたき上げの機関士としてTMEを駆るクラリーザ、
都市国家ヘルペディアの機関士マグリーンと
なぜか登場する ”釜焚き” は二人とも女性だが、存在感は抜群だ。

彼ら彼女らを乗せたTMEは、まさに ”波瀾万丈” の冒険を経て
物語の開始時点からは想像もできないような ”終着点” を迎える。

心地よい読後感が味わえる名作だと思う。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ: