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マツリカ・マトリョシカ [読書・ミステリ]

マツリカ・マトリョシカ 「マツリカ」シリーズ (角川文庫)

マツリカ・マトリョシカ 「マツリカ」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/03/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

親しい友人もおらず、成績もじり貧。クラスに居場所もない。
そんな冴えない学校生活を送っていた主人公・柴山佑希は、
ある日、学校近くの廃ビルで ”マツリカ” と名乗る少女と出会う。

傍若無人かつ高飛車な物言いで、柴山のことを ”柴犬” 呼ばわりするが
彼女の美貌とナイスなスタイルに魅せられた(笑)彼は
マツリカの ”パシリ” としてこき使われる日々を送ることに。
彼女に勉強まで教えてもらって成績も上向き、無事に2年生にも進級。

そんな使い走りのワトソン・柴山と
安楽椅子探偵・マツリカの登場するシリーズの第3巻。

しかしながら、いままでの2巻を通じて
校内で起こった事件や謎を追いかけていくうちに
柴山君にも写真部の生徒たちをはじめ、何人かの
”仲間” と呼べるような人たちができはじめる。

なんだかんだ言ってても、柴山君はもう一人じゃないんだけど、
今ひとつ吹っ切って彼ら彼女らの中に入っていけない。
本人の実感としては、第1巻の頃からあまり変わっていないのだろう。
決してそんなことはないのだけどね。

冒頭に登場人物一覧が載っているんだが、いつのまにか
(仲が良い悪いは別にして)こんなの多くの人と
関わりを持つようになる(なった)んだねぇ・・・って
いささか感慨に耽ってしまう(笑)。

女子テニス部の部室の天井に、女の顔をした染みが浮き出ているという。
マツリカからその撮影を命じられた柴山は途方に暮れていた。

そんなとき知り合ったのが美術部の1年生・春日麻衣子。
彼女の手引きで、深夜の部室に潜入することに成功、
無事に撮影を終えて帰ろうとしたとき、
柴山は特別教室棟の一角に謎の光を目撃する。

そこはかつて「第一美術準備室」と呼ばれた部屋だったが、そこでは
2年前に女子生徒が何者かに襲われて負傷するという事件が起こっていた。
部屋の中に犯人の姿はなく、出入り口は衆人環視されている密室状態。

事件は未解決のまま、その部屋は使用されなくなり
生徒たちからは「開かずの扉」と呼ばれるようになっていた。
(実際は、事件以後に倉庫として転用されていたのだが)

翌日、職員立ち会いの下で「開かずの扉」が開かれる。
そこには一体のトルソー(頭部や四肢のない胴体だけの彫像)が横たわり、
それにはブラウス、ネクタイ、ベストそしてスカートと
女子の制服一式が着せられ、しかも周囲には
無数の蝶の死骸が散乱していた。

窓も内側から施錠され、扉以外の出入り口はない。
その扉の鍵は、もちろん職員室で管理されている。
再びの密室事件の発生だった。

かねてから女子テニス部室前で不審な行動を取っていた柴山は
テニス部の3年生たちから事件への関与を疑われてしまう。

柴山は自らにかけられた容疑を晴らすべく、今回の事件と
2年前の事件と、2つの密室に挑む羽目になるのだが・・・

柴山君も彼なりに頑張るのだが、事件の真相は杳として知れない。
その間、彼の周囲の人たちがいろいろな推理を繰り広げる。
もはやレギュラーメンバーと化した写真部員の松本まりか、高梨千智、
さらに部長の三ノ輪、以前の事件で関わりになった村木翔子と
いろんな観点から密室の解釈がなされるが
どれも不可能であることが証明されてしまう。

本編中では、1つの密室に対して6通りの解釈が展開される。
この多重解釈(多重解決)が本作の読みどころのひとつ。

もうこれ以外に密室を破る方法なんてないんじゃないか・・・
って思わせた頃に、真打ちであるマツリカ嬢の登場となる。

彼女が推理の材料として挙げていく事項に驚く。
序盤から語られてきた何気ない描写や、
高校生なら誰もがしているような、ごく普通の行動まで
細かく取り込み、精緻に論理を組み立てていくのだ
「あの○○にはこんな意味があったのか!」というのが
立て続けに繰り出されて、”日常の謎” 系ミステリとしては
最高級の密度を誇ると言っていいだろう。

ミステリとしては素晴らしいし、
事件に関係する生徒たちや犯人側の事情も十分に掘り下げていて
青春群像ドラマとしてもよくできていると思うけど、
いまひとつ素直に物語に浸る気分になれないのは、
やっぱり主役二人のキャラだろう。

特に柴山君はねぇ。1作ごとに成長はしているんだけど
肝心の時にはやっぱりビビりだし。
あんなに女の子たちに ”かまってもらって” いるのに、
それでも結局はマツリカ嬢を求めてしまうのは、もうねぇ・・・

もっとも、柴山君が毅然としたキャラへと成長して
自分から新しい世界に飛び込んでいくようになってしまったら
そこでこのシリーズも終了し、マツリカ嬢も退場してしまうようにも
思うので、このあたりの案配は難しいか。

でも、今回3作目を読んでみて、各キャラの過去の設定とか
かなり早い段階から決めてあったんだろうなあと思った。
特に某キャラは、作品世界で初登場させた時点で
将来的に本書の中で ”使う” 予定が既にあったのだろう。

ならば、シリーズ最終作の構想もあるのだろうと思う。
そこへ向けて、どう収めていくのかは興味深くもある。

それにしても、登場する女性キャラからことごとく
(良い意味でも悪い意味でも)”いじって” もらえるとは、
柴山君は人気があるなあ。

なんだかんだ言って世話を焼いてもらえるのは
異性として好かれていると言うよりは
母性本能をくすぐっているのかもしれんが。
「出来の悪い子ほど可愛い」って言うからね(笑)。

前作のラストでいろいろあった、写真部員の小西菜穂嬢も
終盤近くにちょこっと出てきて柴山君を励ましてくれる。
さて、このお嬢さんの ”価値” に、柴山君はいつ気付くのか。


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戦の国 [読書・歴史/時代小説]

戦の国 (講談社文庫)

戦の国 (講談社文庫)

  • 作者: 冲方丁
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

私は普段、歴史小説ってあんまり読まないんだけど、
今年の大河ドラマ『麒麟がくる』が気に入っていて
戦国時代の話を読んでみようと思ったことと、
作者が冲方丁だったので、手に取ってみた。

SFもミステリも書くし、小説だけでなく
脚本まで書いてる。
なんとも多才な人だなあと思う。

さて、本書は講談社文庫の歴史アンソロジー企画である
「決戦!」シリーズのために書かれた短篇を集めたもの。
6つの短篇で6人の戦国武将を描いている。

「覇舞謡(はぶよう)」
桶狭間の戦いを信長視点で描く。
信長と言えば、「革新的な天才」とか「敵を根絶やしにする魔王」とかの
イメージで語られてきたことが多いが、冲方丁もまた新たな解釈を見せる。
信長の生涯を描いた大長編の一部をカットして見せたような作品で
ぜひ冲方版「織田信長」全編が読みたいなあ。

「五宝の矛」
上杉謙信(長尾景虎)15歳の初陣から、その死までを描く。
その戦の天才ぶりもさりながら、21歳年上の兄・晴景との絆もいい。
阿吽の呼吸で二人が越後を平定していくさまが快い。
49年の生涯をダイジェスト版で(それもおそろしく高密度で)
見せられたような思いがする。こちらも長編に書き伸ばしてもらって
冲方版の「上杉謙信」として読みたいなあ。

「純白(しろ)き鬼札」
主人公は明智光秀。彼が謀反を起こした理由については
さまざまな説があるのだが、本作で冲方丁が示す ”理由” は
おそらく今までになかったものではないか。それくらい意外なもの。
史実としてこの説が成立するかどうかは別として、
この作品内の信長と光秀となら、十分な説得力があると思う。

「燃ゆる病葉(わくらば)」
死病に冒された武将として有名な大谷吉継が主人公。
視力を失い歩くこともできない吉継は、家康との決戦に反対していたが
その彼が関ヶ原で西軍に与した理由、そして
小早川秀秋の裏切りを予測しながらも支えきれずに散るまでを描く。

「深紅の米」
天下分け目の関ヶ原で西軍を裏切り、東軍勝利に一役買った小早川秀秋。
しかし後世の評価は、優柔不断で愚かな男だとか
形勢を見ていた日和見で卑怯な奴とか散々なものだろう。
冲方丁は秀秋の背景として、秀吉の身内として重用されたが
後に関白秀次の死を経験し、また朝鮮出兵へ従軍したことも描き、
それらによる彼独自の価値観の形成を追っていくことにより、
彼の関ヶ原での行動に納得できる理由付けをしてみせる。

「黄金児」
主人公は豊臣秀頼。世間一般の評価は淀君に過保護に育てられ、
自己主張のできなかったマザコン男、みたいなイメージがあると思う。
(私は少なからずそう思っていた。)
逆に、実は英邁で武将としての器量も人並み以上にあったのに
それを振るう機会が与えられなかった、的に描かれることも
少なからずあるようだ。実際そんな作品も読んだことがある。
しかしここで冲方丁が示すのはそのどちらでもない。
生まれながらにして巨大な城と、莫大な黄金と、
数多の家来にかしずかれるという、
およそ人間離れした環境に生まれたら、どんな成長を遂げるか。
本作の示す秀頼像は、私がいままで見てきた読んできたどんな秀頼よりも
魅力的だと思うが、同時にいちばん哀しいものかも知れない。


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黄金餅殺人事件 昭和稲荷町らくご探偵 [読書・ミステリ]

黄金餅殺人事件-昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)

黄金餅殺人事件-昭和稲荷町らくご探偵 (中公文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/10/23
  • メディア: 文庫
評価:★★★

前作『高座のホームズ 昭和稲荷町らくご探偵』に続き、
昭和の落語界の重鎮にして名人、八代目林家正蔵が探偵役を務める
ミステリ・シリーズ、その第2巻。

『第一話 黄金餅「殺人」事件』
噺家・桃寿亭龍喜(とうじゅてい・りゅうき)は33歳の二つ目。
弟弟子の龍丈(りゅうじょう)には人気・実力の面で
水をあけられてしまったが、2か月後には真打ち昇進が決まっていた。
そんなとき、師匠の龍鶴(りゅうかく)からお使い物を頼まれる。
彼の父の形見であった聖観音像を、久田良一に届けること。
龍鶴の兄・良一は菓子製造業を営む久田商会の社長で、
上野のビルに事務所兼自宅を構えていた。
しかし事務所の行く途中、龍喜は観音像を紛失してしまう。
詫びを入れようと久田商会を訪れた龍喜は、そこで良一の死体を発見する。
喉は切り裂かれ、右手には何か金色の物体を握り、
遺体の傍らにあった餅にも、金色の物体が埋め込まれていた・・・

『第二話 広い世間に』
龍喜は浅草亭東橋(せんそうてい・とうきょう)師匠に呼び出され、
真打ち披露に自分も加えて欲しいと頼まれる。
しかしその場にやくざ風の男が現れ、東橋に襲いかかった。
間一髪、東橋を救ったのは26年前に行方不明になった
浅草亭小馬道(こばどう)だった。彼は龍鶴師匠の息子でもあった。
小馬道は ”東橋” の名跡を弟弟子(いまの東橋)と争い、
それに敗れたのを苦にして、日本海で投身自殺したものと思われていた。
小馬道の生存は話題を呼び、神楽坂倶楽部の席亭は
嫌がる彼を無理矢理高座に上げてしまうが、
長いブランクを感じさせずに堂々と務めてみせるのだった。
一方、龍喜の元に神楽坂署の刑事が現れる。
東橋襲撃事件について不審な点があるらしい・・・

ミステリではあるけれど、作中にはさまざまな落語が登場する。
現代の人間が高座で演じる噺もあれば、過去に語られた噺もある。
当然ながら事件解決のヒントになる噺も。
また落語というものは、語る人間が異なれば
噺の内容も微妙に(時には大幅に)異なってくるものなのだそうで、
そのあたりも伏線として効いてきたりする。

とは言っても、古典落語に詳しくない人間(私がそうだ)でも、
ミステリとして読むことに全く支障は無い。
必要な情報は作中にしっかり書かれているし。

前作と同じく、本書にも「プロローグ」「幕間」「エピローグ」がある。
現在(2010年代)の人間の思い出話という形をとって、
昭和50年代(1980年前後)という過去への導入部となっているのだが、
ラストにもミステリ的な仕掛けが仕込んである。
これもうまくはまってる。流石です。


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ハンターキラー 最後の任務 上下 [読書・冒険/サスペンス]

ハンターキラー 最後の任務 上 (ハヤカワ文庫NV)

ハンターキラー 最後の任務 上 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: 文庫
ハンターキラー 最後の任務 下 (ハヤカワ文庫NV)

ハンターキラー 最後の任務 下 (ハヤカワ文庫NV)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2019年に公開された映画『ハンターキラー 潜航せよ』。
同時期に映画の原作本も翻訳刊行された。

 この映画と原作本については、記事に書いてる。
 あんまりいい評価ではないけど(笑)。

タイトルだけ見ると、続編あるいは完結編みたいだが
そうではなく、実は本書がシリーズ第1作。
前作『潜航せよ』はシリーズ第2作なのだ。

前作(小説版)で主役の一人を務めたのは
アメリカ原潜〈トレド〉艦長ジョー・グラス中佐だったが、
過去に当たる本作では、グラスは原潜〈スペードフィッシュ〉の副長で
階級も少佐だ。出番もさほど多くなく、脇役の一人というところ。

本書で活躍する〈スペードフィッシュ〉は退役間近の老朽艦。
タイトルの「最後の任務」は、
本作でこの艦に与えられるミッションのこと。
そしてそれを率いるジョン・ワード中佐が本作では主役となる。

麻薬取締官トム・キンケイドは、スタンドプレイに走る上司のために
シアトル支局に左遷される。しかしそこで若者たちをターゲットに
強烈な依存性を持つ麻薬が流通し始めていることを知り、
現地警察のケン・テンプルとともに捜査を開始する。

その麻薬を製造し、アメリカに送り込んでいたのは南米コロンビアの
麻薬王にして反政府ゲリラの指導者ファン・デ・サンチアゴ。
彼は栽培地、精製工場、依存性を高める薬物を研究する施設まで
完成させ、さらには東南アジアの麻薬王とまで手を組もうとしていた。

IDIA(国際共同麻薬禁止局)のベセア局長は、
コロンビアの巨大麻薬組織壊滅のために
ビル・ビーマン少佐率いる海軍特殊部隊SEALSを現地へ送り込み、
麻薬関連施設の所在地を探らせる。

そして〈スペードフィッシュ〉艦長、ワード中佐に下された命令は
コロンビア沖合に進出し、ビーマンの部隊が発見した施設を
巡航ミサイルで攻撃、破壊することだった。

麻薬の売人を追うキンケイドとテンプルのパートはバディ警官もの。

道なきジャングルを踏破しながら、敵と激闘を繰り広げるビーマンたち。

麻薬王デ・サンチアゴが、強欲と非情の塊の
極悪人として描かれるのはお約束なのだろうが・・・。

”老体” に鞭打ってアメリカ西海岸からコロンビアまで向かう途中の
〈スペードフィッシュ〉も、老朽艦故の様々なトラブルに襲われる。

物語はこの4つのパートを交互に切り替えながら進んでいく。
『ハンターキラー 潜航せよ』のときは、視点が分散しすぎて
個々のシーンが細切れでとても読みにくかった、って書いたんだが
本書ではあまりそれは感じなかった。
それはストーリーが単純明快なせいかも知れないし
読んでいる私の方が慣れたせいなのかも知れない(笑)。

アメリカへ送り込む大量の麻薬を運ぶのが
海底を ”這って進む” ような特殊潜航艇だったり、
それを収容する ”母船” となる貨物船が登場したりと
”潜水艦もの” らしいガジェットも登場して物語を盛り上げる。
物語の後半では、”母船” と特殊潜航艇を追跡する
〈スペードフィッシュ〉の活躍が読みどころになる。

さて、巻末の「訳者あとがき」によると、
このシリーズは既刊含めて6冊(つまり未訳分は4冊)も刊行されていて、
来年(2021年)にはさらにもう1冊出るらしい。

本書の刊行は前作『潜航せよ』の評判が良かったかららしいので、
本書もそれなりに売れれば、続巻も翻訳されるのかも知れない。

うーん、どうしようかなぁ。つまらなくはないんだけど
”潜水艦もの” としてはちょっと物足りない気もするんだよなぁ。

現代を舞台に、純然たる ”潜水艦もの” を成立させるのは難しい、
というのはわかるんだけどねぇ・・・


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再就職先は宇宙海賊 [読書・SF]

再就職先は宇宙海賊 (ハヤカワ文庫JA)

再就職先は宇宙海賊 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 鷹見 一幸
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/03/31
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

21世紀初頭、月で異星人の遺物が発見された。
やがてこれは、異星人が太陽系を去るときに捨てていった
膨大な量の ”ゴミ” だと判明するが、何せ
恒星間航行を可能にした科学技術をもった異星人のもの。
”ゴミ” とはいっても、人類には原理の理解も再現も不可能な
オーバーテクノロジーの塊だった。

超大容量バッテリー、重力制御装置、慣性中和装置、亜光速推進器など
”ゴミ” の中には再利用可能なものも大量にあり、
これが人類文明を一変させた。

人類はさらなる ”お宝”(ゴミ) の発見を求めて太陽系中に進出、
新たな ”ゴールドラッシュ” が発生していた。

日本の中小企業で働くヒロユキは、同僚の佐々木、ウォルターと3人で
小惑星帯で一攫千金を狙った ”宝探し” をしていた。

しかし会社が倒産し社長は夜逃げ。
3人は路頭に迷う身になってしまう。

しかも会社の資産まで差し押さえられ、3人は発掘作業中だった
小惑星からの脱出すらできなくなってしまう。

万事休すかと思われたが、時を同じくして3人は
小惑星の地下に巨大な ”帝国の遺産” を発見する・・・

物語のほぼ前半分は、彼ら3人の発掘作業がメイン。
さながら宇宙版『インディー・ジョーンズ』みたいである。
オタク3人組の彼らの会話も楽しくてすいすい読めるんだが
いったい「いつになったら『宇宙海賊』になるんだよ」とも思う。

しかし心配ご無用。中盤で
新興財閥ナースリム・グループ創業家のご令嬢・ナスリチカが
登場し、そこから一気に ”宇宙海賊” になっていく。

ちなみに表紙イラストの、一見して ”クイーン・エ○ラ○ダ○” 風(笑)の
コスチュームの女性がナスリチカ嬢。
なんでこんな格好しているのかは読んでのお楽しみだが。

彼女のバックに描かれているのが、主人公たちの乗り組む ”海賊船”。
こちらも ”クイーン・○メ○ル○ス号” っぽい外形だったりするんだが
これはもう作者がわかってやってるんだろうなぁ。

 この文章を書きながら、ふと思った。
 ○本○士さんに了解取ってるのかなぁって。
 ここ数年、あのご老体は著作権にうるさくなったからねぇ・・・

基本的には、コメディ・タッチのスペース・オペラで
肩の力を抜いてケラケラ笑いながら読めるんだが・・・

ラスト30ページまできて、突如雰囲気はシリアスに。
何がどうなってそうなるのかは書かないが
私は感激して目が潤んでしまったよ。
トシ取ると涙腺が緩んでいけないねぇ・・・

もし続編の構想があるのなら、ぜひ読みたいものだ。
やっぱりスペース・オペラは面白い。


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疾走!千マイル急行 上下 [読書・ファンタジー]

疾走!  千マイル急行 上 (ハヤカワ文庫JA)

疾走! 千マイル急行 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: 文庫
疾走!  千マイル急行 下 (ハヤカワ文庫JA)

疾走! 千マイル急行 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

本書は2005年に今は亡き(!)ソノラマ文庫から刊行され、
2007年にはソノラマノベルスから再刊されている。
私も本屋に並んでるのを見た記憶があるし、
てっきり読んだものだと思ってたんだけど・・・

今回改めて読んでみたら、記憶にない話だった。
つまり、初刊時には読んでなかったということだ。

 読んでたけど、きれいさっぱり忘れてた
 という可能性もないではないが、それは認めたくないなぁ・・・(笑)

とにかく、「既読だな」と思ってスルーしないでよかったよ。
とても面白い話だったから。

舞台となるのは、異世界にあるジオール大陸。
作中の地図によると、東西約2000マイル(約3200km)、
南北約1500マイル(約2400km)ほどの大きさ。
オーストラリア大陸をひと回り小さくしたくらいか。

峻険な山脈も広大な砂漠もあるその大陸には、
多くの都市国家が割拠し、各都市間は鉄道によって結ばれている。

そして、この世界の文明レベルは蒸気機関全盛期。
ガソリンエンジンなどの内燃機関は未だ登場していない。
従って航空機は存在せず、人・モノの移動は鉄道のみ。
そしてその鉄道は、蒸気機関車(SL)に牽かれて走ることになる。
(表紙のイラストがそうだ)
発展した都市部は19世紀頃のヨーロッパ風、
郊外の荒地や砂漠はアメリカ西部開拓時代を彷彿とさせる。

大陸西端部にあって高度な文明を誇る都市国家・エイヴァリー。
そこの企業ACR(エイヴァリー都市鉄道)が運用する国際寝台列車は
ジオール大陸の主要都市間をつなぐ ”千マイル急行”
(TME:Thousand Miles Express)という名で呼ばれ、
その豪華さとサービスの質の高さで知られていた。

エイヴァリーで名門中等院に通う14歳のテオドア(テオ)が主人公。
ACR社長の息子でもある彼が
TMEに乗って旅立つところから物語が始まる。

遥か大陸東南部の都市国家・采陽(サイヨー)へ
向学の旅へ向かうはずだったが、TMEの出発直後に
大陸中央部にあるルテニア、北部のレーヌスという二つの強国の
連合軍がエイヴァリーに侵攻、占領してしまう。

さらにTMEまでもが連合軍の攻撃を受けるが、いつの間にか
TMEに連結されていた装甲列車と、それに乗り込んでいた
エイヴァリー都市軍(シティ・ガーズ)によって撃退される。

実はTMEは、連合軍による攻撃を予期したエイヴァリー市上層部によって
送り出された ”特命列車” だった。目的は采陽に援軍を求めること。

しかし連合軍も黙ってはいない。
レーヌス軍情報部のサングフォン大佐もまた装甲列車を繰り出し、
TMEを執拗に追撃し続けることになる。

装甲列車vs装甲列車、レーヌス軍vsシティ・ガーズの
激しい戦闘シーンも本書の読みどころのひとつだ。

こう書いてくると、TMEがレーヌス軍の装甲列車を振り切って
采陽にたどり着けば終了・・・って思うだろう。
しかし物語はそう単純ではなく、読者の予想を超えて広がりを見せる。

連合軍の侵攻により、一夜にして ”難民列車” となってしまったTMEだが
彼らが立ち寄る都市の人々は、なぜか一様に嫌悪の表情を見せるのだ。

それは連合軍に怯えてのものだけではなく、
エイヴァリーという国家そのものに対して
悪感情を抱く都市が少なくないことが次第に明らかになっていく。

やがてテオは知る。
辺境地域にある都市国家エイヴァリーが、
なぜ大陸でも屈指の繁栄を得ることができたのかを。
そして、TMEが采陽に向けて運んでいるものが何なのかを。

しかしそこからが、テオの主役としての活躍の始まりだ。
四面楚歌の状況で、TMEの人々が希望を見失ったとき
テオは新たな ”目的地” を見いだす。

テオと、その仲間の少年少女たちの行動が
大人たちを変えていき、TMEを新たな ”旅” へと導いていくのだ。

TMEには、テオ以外に3人の子どもたちが乗っている。
エイヴァリー市議会議長の娘・ローライン、
重工業企業の創業者一族の一人にして鉄道オタクのアルバート、
そしてなぜかエイヴァリーやTMEに対して敵意を隠さないキッツ。
協力や対立を経て4人が成長し、友情を育んでいくのも読みどころだ。

登場する大人たちも立派だ。
物資の不足に悩みながらも、最後まで ”最高のおもてなし” を
提供しようとするTMEの乗員たち。
シティ・ガーズを指揮するヘルフォード中佐も
最大の敵役となるサングフォン大佐も
軍人としての信念と矜持を失わない。

たたき上げの機関士としてTMEを駆るクラリーザ、
都市国家ヘルペディアの機関士マグリーンと
なぜか登場する ”釜焚き” は二人とも女性だが、存在感は抜群だ。

彼ら彼女らを乗せたTMEは、まさに ”波瀾万丈” の冒険を経て
物語の開始時点からは想像もできないような ”終着点” を迎える。

心地よい読後感が味わえる名作だと思う。


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