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ノックス・マシン [読書・SF]


ノックス・マシン (角川文庫)

ノックス・マシン (角川文庫)

  • 作者: 法月 綸太郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/11/25
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

4編収録の短編集。

「ノックス・マシン」
ミステリ好きなら ”ノックスの十戒” をご存じだろう。
探偵小説を執筆する際の ”べからず集” みたいなもので
”探偵が犯人であってはならない” みたいな
”禁じ手” が10項目挙げられている。
作品の舞台は2058年、20世紀の探偵小説を研究していた青年ユアンが
タイムマシンに乗って十戒が執筆された1929年へ向かう、という話。
ノックスの十戒とタイムマシンを絡めると言う発想はユニークで
ミステリ作家ならではの作品だと思うけど、
SFとしてのオチとしては目新しくはないかなあ。

「引き立て役倶楽部の陰謀」
ホームズにはワトソン、ポアロにはヘイスティングスというように
名探偵の ”引き立て役” に甘んじている者たちが結成したのが
タイトルにある ”引き立て役倶楽部” だ。
1939年、一堂に会した倶楽部のメンバーたちは危機感を憶えていた。
彼らはある陰謀を決行すべきかどうか論じるのだが・・・
単なるパロディかと思いきや、ラストはちゃんとミステリで着地する。

「バベルの牢獄」
正直言って、さっぱり分かりませんでした(笑)。
SFであるのは分かりますけどね。
もうこの手の作品は受け付けないアタマになってしまったようです。
ラストで分かるんですけど、実に手の込んだ作品ではあります。
ただまあ、それがやりたかっただけなんじゃないの? とも思うけど。

「論理蒸発 ー ノックス・マシン2」
表題作の続編で、舞台は2073年。
巨大企業ゴルプレックス社の電子図書事業部で働く
プラティバ・ヒューマヤンは、会社の上層部に呼び出される。
量子化された電子テキストを記憶した量子コンピュータが
熱暴走を起こしていて、どうやらその原因は
電子データそのものにあるらしい。一番最初に ”暴走” したのは
1933年発表の「シャム双子の謎」(エラリー・クイーン)だという・・・
これも発想は面白いけど、物語としてもSFとしてもわかりにくいなあ。


本書は発表当時、かなり評判になって
「このミステリーがすごい!」で1位になったりしてる。
みんなアタマがいいんだなあ・・・

私は後半の2編なんかほとんど斜め読みでしたよ。
この本は、どうも私とは合わないみたいです。

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アルキメデスの大戦 [映画]


およそ10日ぶりの更新でございます。
「今週早々に再開」とか書いておいて、
なし崩しにだらだら休んでしまいました。

でもこの間に、2泊3日で北海道を旅してきたり
実家に行って母親と一緒に先祖の墓参りをしたり
新盆を迎えた親戚宅を回って線香を上げてきたり。
読書のほうも、ほぼ1日に1冊というハイペースで読めたり。
なかなか充実した日々でございました。

aruki.jpg
いちおう最初に断っておきますが
この映画、原作はマンガなんだけど私は未読です。


冒頭は旧大日本帝国海軍の旗艦にして
世界最大の戦艦・大和が沈没していくシーン。時に1945年のこと。

まあこのへんはTVCMや特番なんかで散々流れてるので
断片的にご覧になった方もいるだろう。
CGも気合いが入っていて迫力満点の出来。
映画が開始早々で ”掴みはOK!” というところか。

 「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」の記事でも書いたかと思うが
 ミニチュアの特撮でやってた時代とは隔世の感がある。

そして物語は12年前へと巻き戻され、1933年から始まる。
欧米列強との対立を深め、軍備拡張へ進む日本。
海軍でも新造軍艦の計画が策定される。
来たるべき航空機時代を見据え、航空母艦の建造と目指す
永野修身中将・山本五十六少将を中心とする一派と、
世界最大の戦艦を建造しようという
平山忠道造船中将と島田繁太郎少将の一派がせめぎ合っていた。

平山中将の戦艦建造費の見積もりが安すぎることに疑問を持った山本は
その欺瞞を暴くために、一人の青年に白羽の矢を立てる。
それが主人公・櫂直(かい・ただし)。
東京帝国大学100年に一人の天才と言われた男である。

いきなり主計少佐へと抜擢された櫂だったが、
いかな天才でも一片の資料もなしには何もできない。

しかし軍事機密の壁と平山派の妨害工作で作業は遅々として進まない。
それでも、建造計画決定会議の日は刻一刻と迫ってくる・・・


櫂少佐と、彼の補佐に任じられた田中正二郎少尉の奮戦ぶりが
いちばんの見所だろう。
軍人/凡人の発想に収まらない行動を取る櫂を演じる菅田将暉、
そして櫂の行動に、最初は振り回されながらも
次第にその才能に引き込まれ、最後には一心同体となって粉骨砕身する
田中を演じるのが柄本佑。
どちらも熱演で、2時間の長丁場ながら見る者の緊張感を途切らせない。
私自身は、とても楽しく観させてもらった。

若い二人に対して、年長者は重鎮がそろっている。
國村隼、橋爪功、意外なところで小林克也とか。
平山中将の田中泯はハマってたけど、
山本五十六が舘ひろしなのはちょっとイメージが違うかなぁ・・・


この映画に対して、不満がないわけではない。

主人公の櫂は、巨大戦艦の建造を中止させ、ひいては
日本が戦争へ突入するのを阻止しようとするのだけど
我々観客は、結局のところ大和は建造されてしまうし、
日本は戦争を始めてしまうし、
そして大和は沈み、敗戦で終わることも知っている。

だから、最終的に櫂の目論見は叶わない。
つまり主人公は ”負けて” しまうはずなわけだ。

でもおそらく、大多数の観客は、
映画の中での櫂たちの奮闘を応援せざるを得ないだろう。
しかしその願いは最後の最後で裏切られてしまうわけで・・・

そのあたり、どう納めるのかなぁ・・・?
私のいちばんの興味はそこにあった。

 そういうふうに観た人は結構いるはずだと思うが。

映画ではどうなったかは実際に見てもらうしかないわけだけど
「なるほど、そうきたか」とは思った。
私としてはいまいち納得できないところもあるけど
落とし所としてはよく考えたかなとは思う。


この映画はテーマを大和建造に絞っているけど
wikiを見ると、それは原作のマンガの中の一部に過ぎず
このあとも櫂の活躍は続くようだ。

実際、映画のラストシーンは1941年12月の大和就役シーン。
ここでも櫂は海軍に残っていることが示されている。

映画としては、ここで完結でもいいのだろうけど
櫂個人の物語としては中途半端な感が否めない。

いちばん不満だったのは、ヒロインである尾崎鏡子と櫂の仲が
放りっぱなしになっていること。
軍需企業・尾崎財閥当主の令嬢で、
櫂が大和建造阻止に踏み切る理由となる重要な役どころだし、
本編中でも、あんなに献身的に協力してくれたのにねぇ・・・
上手くいくにしろ、壊れるにしろ、その辺も描いてほしかったなぁ。

それもこれも、原作がまだ完結していないせいなのだろうけど。

 マンガの映像化って、原作が連載中(つまり未完の状態)でも
 かまわず実行されてしまうのがいつも不思議に思ってる。
 小説だとそんなことはまずないのにねぇ・・・

いつの日か、この映画の続きが作られることがあるのですかね・・・


最後に余計な話を。

その昔、「キャンディ・キャンディ」というマンガは
原作が雑誌連載中からアニメ化されたけど、
たしかアニメの最終回の放映日と
マンガの最終回の掲載された雑誌の発売日を
ほぼ同じ日(1日違い)にする、って ”離れ業” をやってのけた。
もちろんラストのネタバレを防ぐためだ。

昔はそんな洒落たこともあったんだよねえ。

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近況 & 雑感 [日々の生活と雑感]


7月1日から毎日更新してきましたが、
ちょっとここで小休止させていただきます。
さすがに40日近く毎日記事を書いてきて
いささかエネルギー切れになりかけてるように感じてまして。

いちおう今日で、お盆前の仕事が一段落しましたので
世間の方々よりちょい早めのお盆休みをいただこうと思います。

貯まった本をまとめて読んだり、
普段行けないところまで遠出をしたり、
もちろん実家に行って墓参りもしなければねぇ。


以下は、雑感をいくつか。


■京都アニメーションのこと

単独の放火による死傷者では戦後最大とも言われてますね。
京都アニメーションの製作したアニメは
作品名だけなら私でもよく知っているものが多いです。
それだけ人気作をたくさん生み出されていたのはわかります。
でも、残念ながら私は全くといっていいくらい
京アニ作品は観てないんですよねえ・・・(スミマセン(^_^;))。
ですから、作品について語ることはできないのですが
多くのスタッフ、それも実績を残した才能ある方や、
将来が楽しみな若い方たちが大勢亡くなったことには胸が痛みますし、
日本のアニメーション界にとって大きな損失だったと思ってます。
犯人とされる人物の背景や動機の解明と、
企業のセキュリティ面も含めた、再発防止の方策が採られて
このような事件がもう二度と起こらないことを願っています。

■声優・島香裕さん、ご逝去

ネットニュースでは、ディズニーキャラクター・グーフィー役が
最初に紹介されていますが、私にとっては
「ふしぎの海のナディア」のノーチラス号機関長ですし、
なんと言っても「宇宙戦艦ヤマト2199」でのシュルツ役です。
(38年経ってシュルツに泣かされるとは思いませんでしたよ。)
70歳でご逝去とはいささか早すぎるようにも思います。
ご冥福をお祈りいたします。

■「アルキメデスの大戦」と「天気の子」

先日、かみさんと映画を観に行ってきました。
「アルキメデス-」は菅田将暉と柄本佑の熱演が光ってましたね。
「天気の子」も面白かったですが、前作「君の名は。」と
同じようなものを期待して観に行くと当てが外れるかも知れません。
どちらもそのうち感想をupしようと思ってますが
「天気の子」のほうは最低でももう1回観て、それから
手元に新海誠監督自らノベライズした小説版があるので
そちらも読んでから感想を上げたいと思ってます。


さて、冒頭にも書きましたが、少々休暇をいただきます。
でもそんなに長く空けないつもりです。
来週初めくらいには再開したいと思ってますので
そのときはよろしくお願いします。

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巨神計画 / 巨神覚醒 / 巨神降臨 [読書・SF]


巨神計画〈上〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈上〉 (創元SF文庫)

  • 作者: シルヴァン・ヌーヴェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫
巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

巨神計画〈下〉 (創元SF文庫)

  • 作者: シルヴァン・ヌーヴェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫
巨神覚醒〈上〉 (創元SF文庫)

巨神覚醒〈上〉 (創元SF文庫)

  • 作者: シルヴァン・ヌーヴェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/21
  • メディア: 文庫
巨神覚醒〈下〉 (創元SF文庫)

巨神覚醒〈下〉 (創元SF文庫)

  • 作者: シルヴァン・ヌーヴェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/21
  • メディア: 文庫
巨神降臨 上 (創元SF文庫)

巨神降臨 上 (創元SF文庫)

  • 作者: シルヴァン・ヌーヴェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/05/21
  • メディア: 文庫
巨神降臨 下 (創元SF文庫)

巨神降臨 下 (創元SF文庫)

  • 作者: シルヴァン・ヌーヴェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/05/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

異星人が残していった巨大なロボットを発掘したために、
人類に危機が訪れる・・・なあんて、
「伝説巨神イデオン」みたいな設定だが、
そんなロボットアニメ的要素を真っ正面に押しだし、
大真面目に描ききったのがこの三部作だ。

第1部「巨神計画」はこんな話だ。

アメリカの片田舎に住む11歳の少女、ローズ・フランクリンが
遊びに入った森の中で発見したものは、巨大な ”手” だった。

さらに、それは6000年前からそこにあり、
しかもイリジウム合金製でできていて
全長60mにおよぶ巨大ロボットの一部であることが明らかになる。

17年後、物理学者へと成長したローズを中心に、
世界中に散らばった ”パーツ” を集めて
巨大ロボットを甦らせるプロジェクトが開始される。
メンバーは、アメリカ陸軍ヘリのパイロット、
カーラ・レズニックとライアン・ミッチェル、
言語学専攻の大学院生ヴィンセント・クーチャー、
遺伝学者のアリッサ・パパントヌ。

地球各地からパーツが発見されて、
巨大ロボットが ”組み上がって” いくにつれて
いくつもの問題が立ち上がってくる。

このロボットを造った者は誰か?
そしてなぜ残していったのか?

ロボットの胸の部分に操縦席らしきものはあるのだが、
いったいどうすれば動かせるのか?

パーツはアメリカ以外の地域にも多く埋まっていた。
発掘チームはそういう地域にも潜入して回収を進めるが
やがて世界各国もプロジェクトの存在に気づき始める・・・


あまり内容に深入りすると、未読の方の興を削ぐとも思うので、
まずはこのへんまで。
これから読もうと思われる人は
以下の文章は読まずに書店に行くことを推奨する。


これ以下では、第1部後半以降の内容を簡単に紹介しようと思うのだけど
どうしてもネタバレ的なことにも触れてしまうのでそのつもりで。


その第1部の9年後に始まる第2部「巨神覚醒」では、
発見・復元された巨大ロボットは ”テーミス” と命名され、
国連の管理下に置かれている。
そしてある日、ロンドンに突如2体目の巨大ロボットが出現し、
あたり一帯に壊滅的被害を与える。

その異星人のロボットに対抗すべく、
カーラとヴィンセントがパイロットとなったテーミスが実戦投入される。
二人の必死の奮闘によって異星人のロボットは無力化されるが
さらに13体のロボットが同時多発的に世界中の大都市に現れ、
人類に対して無制限の殺戮を開始する・・・


そして第3部「巨神降臨」は、第2部からさらに9年後が舞台になる。
人類は辛うじて滅亡の危機を脱するが
犠牲者は全世界で1億人に及び、さらに人類の間には
国家や民族、宗教とも異なる、新たな ”差別” が生まれていた。
(このへんは、現代の世界情勢も織り込んでるのは明らかだろう)
そして、地球上で巨大ロボットを所有する唯一の国家となったアメリカが
まさに ”世界征服” ともいうべき行動を起こしていく・・・


巨大ロボットを操縦するパイロットには、ある ”適性” が必要で、
誰でもできるわけではない。
このへんはロボットアニメにもよくある設定だったりするし、
第2部になると、その ”適性” の正体も明らかになるのだけど
これも昔のロボットアニメでよく見た設定だったりする。

また、この ”適性” が第3部における ”差別” の
遠因ともなっているのだけれど、これも
日本の某有名アニメ監督の某作品を彷彿とさせる。

第2部からは、カーラとヴィンセントの娘・エヴァが
新レギュラーとして加わるのだけど、彼女の命名が何に由来するのかは
日本のアニメファンならもう言わずもがなだろう。


第3部では、異星人の母星の様子も描かれるのだけど
地球人よりも数千年以上進んだ科学技術を持ちながら、
彼らの世界は決して理想郷ではない。
停滞と分断と差別と陰謀に明け暮れていて、
そのあたりはおよそ地球人と大差なかったりする。

1950年代のSFでは、科学的にも倫理的にも超越した異星人に
導かれて ”幼年期” を脱する地球人、なんてモチーフも見かけたが
本書では、およそ異星人を見ていても幻滅するだけだったりする。
目指すべき理想は自分で見つけなければいけない、ってことか。


巨大ロボットがメインなのは間違いないのだが、
その戦闘シーンはさほど多くない。むしろ少ないほうだろう。
多すぎるとリアリティを損なうとも思うので
これくらいがいい案配なのかもしれない。

 巨大ロボット同士の、派手なバトルアクションで
 スカッとした気分になりたい、なんて思って
 本書を読むと当てが外れるだろう。

それよりは、巨大ロボットに関わることによって
人生を狂わせられていく人間たちのドラマや、
異星人の実在に怯えて、次第に理性を失っていく人類社会のほうこそ
作者が描きたかったものなのだろうと思う。

 うーん、今書いてて思ったけど、
 このへんも「イデオン」っぽいかな。

ロボットアニメとSFと、どちらも好きな人なら
楽しい読書の時間を過ごせるだろう。
(どちらか一方だけだと、ちょっと苦しいかも)

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ルパンの帰還 [読書・ミステリ]


ルパンの帰還 (講談社文庫)

ルパンの帰還 (講談社文庫)

  • 作者: 横関 大
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

現在絶賛(?)TV放映中の「ルパンの娘」、その続編である。
とはいっても、ドラマ版は原作小説とはだいぶ趣が異なる。
(そのへんは「ルパンの娘」の記事に書いた。)
こちらはあくまで「小説版のほうの続編」なので念のタメ。


泥棒一家の娘・三雲華と警察一家の青年・桜庭和馬が
”結婚” して4年後から物語は始まる。

和馬は警視庁捜査一課の刑事として、華はパートの書店員として働き、
二人の間には、3歳になる娘・杏(あん)がいる。
夫婦仲は至って良好で、幸せな家庭生活を営んでいる。

しかしながら、前作で主役だったこの二人は今作ではやや脇へ回り、
実質的な主役となるのは新登場の北条美雲(みくも)である。

京都で三代続く名探偵の家系に生まれたが、
民事でなく刑事事件に関わりたくて警視庁の刑事となり、
和馬の部下として配属されてきた。

折しも法務省の高級官僚が殺害される事件が起こり、
現場には ”L” という謎のメッセージが残されていた。

一方、杏とともに保育園の遠足に参加した華だが、
園児と保護者を乗せたバスに爆弾を仕掛けた、という
脅迫電話が保育園にかかってきた。
犯人の要求は現金1億8000万円。

和馬と美雲は、バスジャック事件の解決のために奔走するが・・・


新登場のキャラクター・北条美雲嬢の設定が面白い。
泥棒一家に警官一家、そして今度は探偵一家というわけだ。

実際、名探偵だった祖父・父の才能を受け継いだ彼女は
鋭い洞察力を示し、再三にわたって事件解決への糸口をみつけだす。
捜査一課の面々も彼女の能力に目を瞠ることになる。

さらに、大学を出たばかりの23歳という若さ、
それに加えて人目を引く美貌と、一見して非の打ち所がないんだが
意外と不注意で、しょっちゅう躓いて転んでばかりと
行動が至ってドジなのはご愛敬というかお約束というか(笑)。

高級官僚殺害とバスジャック事件が、後半になって
意外なつながりをもつことが明らかになり、
さらには華自身にも大きく関わってくることになる。


ミステリとしては本書の中で決着がつくのだけど
終盤になると次巻以降へ向けての伏線があちこちに。
意味深なタイトルの意味も、ラスト近くで明かされる。

シリーズ第3巻「ホームズの娘」は9月発売予定とのこと。
楽しみに待ちましょう。

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再会 [読書・ミステリ]


再会 (講談社文庫)

再会 (講談社文庫)

  • 作者: 横関 大
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★

今TV放映中のドラマ「ルパンの娘」の原作者・横関大の
デビュー作にして第56回(2010年度)江戸川乱歩賞受賞作。

主役となるのは4人の男女。
いずれも神奈川三ツ葉市にあった小学校の同級生だ。
すでに卒業から23年が経ち、みな30代半ばになっている。

岩本万季子(まきこ)は美容室を経営し、
清原圭介は東京で建築士として働いている。
佐久間直人はスーパーマーケットの経営者となり、
飛奈(とびな)淳一は地元の三ツ葉署の刑事となっていた。

20代の頃、万季子は圭介と結婚していたが
息子・正樹をもうけた後に離婚し、それからは
万季子がシングルマザーとして正樹を育てていた。

物語は、12歳になる正樹が、直人の経営するスーパーで
万引きをしたことから始まる。

連絡してきたのは佐久間秀之(ひでゆき)。
直人の腹違いの兄だが、10代の頃から素行が悪く、
経営から外されて、系列店の店長をしていた。

秀之に呼び出された万季子は、正樹のことを警察に黙っている代わりに
金銭を要求し、さらには暗に万季子の肉体まで求めてきた。

窮した万季子は直人に連絡を取ろうとするが、あいにく海外に出張中。
前夫の圭介を呼び出して相談するが事態は好転しない。

しかし、その秀之が射殺死体で発見される。

操作に加わった淳一は、驚きの情報を得る。
犯行に使用された拳銃は、23年前に起こった強盗事件で
殉職した警官が所有していて、事件後に行方不明になったものだった。

その拳銃は、ある偶然から淳一たち4人の小学生の手に渡っていた。
彼らは小学校を卒業するときに、校庭の隅に
”タイムカプセル” として密かに埋め、”封印” してしまっていた。

そして23年。新たな殺人事件の発生で再会した4人は
既に廃校になった小学校の校庭から ”タイムカプセル” を掘り出すが
そこにあったはずの拳銃は姿を消していた・・・


秀之の射殺事件と、23年前の警官射殺事件の2つのラインで進んでいく。

探偵役を務めるのは、淳一とコンビを組む
神奈川県警捜査一課の南良(なら)刑事。

優れた洞察力を示し、23年前の強盗事件について
驚きの真相を引き出してみせる。
このあたりはパズラーとしてもよくできている。

それと比べて現代の事件は一筋縄ではいかない。
容疑者は、拳銃を手にすることのできた4人に絞られているのだが
真実は容易に見えてこない。

現代のパートは、ほぼ4人のうちの誰かに焦点を当てて描かれ、
彼らの ”内面” も描かれるのだけど、当然ながら描かれない部分もある。

ストーリーが進むにつれ、そういう ”空白部分” が、
少しずつ埋められていくんだが、そのたびに事態は二転三転する。

よく言えば、「緊密な構成」なのだろうけど、
悪くいえば「後出しじゃんけんの連続」みたいである。
「○○(人名)は、実は△△のとき□□してました」ってのが
後半になってからぽろぽろ出てくるんだもの・・・

頭から終わりまで、きっちり計算して作られてるのはわかるけど
それをどう受け取るかは、人それぞれだろう。

私は釈然としない気持ちが拭えなかったよ。

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密室殺人ゲーム・マニアックス [読書・ミステリ]


密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社文庫)

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

前作「密室殺人ゲーム2.0」に続く第3作。

5人のミステリマニアがネットを介したAVチャットをしながら
各自が出題するミステリ問題を解き合う、という形式は同じ。

その5人のハンドルネームも、外見も同じ。
〈頭狂(とうきょう)人〉:ダーズベーダーのかぶり物、
〈伴道善(ばん・どうぜん)教授〉:カツラとめがねで変装した姿、
〈aXe〉(アクス):”ジェイソン” のようなホッケーマスク、
〈ザンギャ君〉:水槽の中にいるカミツキガメ、
〈044APD〉:顔の代わりにプジョー・コンパーチブルの写真が画面に

ただし、その ”中の人” が同じというわけでもない。
前作までの ”事件” を操作した警察の資料がネット上に流出した結果、
模倣犯グループが多数現れたという設定なので
本書の5人組もまたその1つだろうと思われる。

でもまあ、人相はもちろん、性別・年齢すら不明な5人の集団があって
各自が密室殺人を実行(つまり ”出題” )して
他のメンバーがゲーム感覚でそれを解くという基本ラインは同じ。
まさに「密室殺人ゲーム」再開、というわけだ。

さらに3作目となると、今までとは違う趣向も盛り込まれていて
ラストでは驚きの ”大技” が炸裂する。


ストーリーとかキャラの掘り下げとかは二の次で、謎解きパズルとして
”暴走” している作品なので、好みは分かれるとも思う。

ミステリとしてはとてもよくできているのかも知れないが
私はやっぱり物語性が豊かな作品の方が好きかなあ。

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怪盗ニック全仕事5 [読書・ミステリ]


7月中に31回と、1ヶ月毎日の更新なんて
これは13年続くこのブログでも過去に1度あったかどうか。
滅多になかったことじゃないかなぁ。

 いやあ、よく頑張ったねぇ、私。
 自分で自分を褒めておこう(笑)。

とりあえず、これで4月分の読書録が終了なんだが先はまだ長い。
このペースで毎日書いても、現在に追いつくのは9月だろうなぁ・・・

閑話休題。


怪盗ニック全仕事5 (創元推理文庫)

怪盗ニック全仕事5 (創元推理文庫)

  • 作者: エドワード・D・ホック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★

短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。

そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
本書はその第5弾で、1989~96年にかけて発表された14編を収録。
話数で言うと第60話~第73話である。

ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。
彼が盗むのは、貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。
本書でも、およそ価値がありそうもないものの依頼が続く。

「クリスマス・ストッキングを盗め」
「マネキン人形のウィッグを盗め」
「ビンゴ・カードを盗め」
「レオポルド警部のバッジを盗め」
「幸運の葉巻を盗め」
「吠える牧羊犬を盗め」
「サンタの付けひげを盗め」
「禿げた男の櫛を盗め」
「消印を押した切手を盗め」
「二十九分の時間を盗め」
「蛇使いの籠を盗め」
「細工された選挙ポスターを盗め」
「錆びた金属栞を盗め」
「偽の怪盗ニックを盗め」

「レオポルド-」では、他のシリーズの主役キャラである
レオポルド警部と、さらには前巻から加わった
サブレギュラー、女盗賊サンドラ・パリスが登場となかなかにぎやか。
ちなみに彼女は、本書では他に「禿げた-」と「蛇使い-」で登場。

「偽の-」では、ニックを騙る盗賊が現れて
容疑をかけられた本物のほうのニックが警察に連行されてしまう。
このとき家に来た警官に、ニックはパートナーのグロリアを
「内縁の妻」って紹介するんだけど、考えたらこの二人は
何年一緒に暮らしてるんだろう。
作中時間でも20年以上は同棲してるんだろうから、
もう ”事実婚” 状態だよねえ。


さて、最終巻も実は刊行済みで手元にあるので近々読む予定。
でも、あと1巻で終わると思うとちょっと寂しいかな。

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