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闇の喇叭 [読書・ミステリ]


闇の喇叭 (講談社文庫)

闇の喇叭 (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/07/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

我々の世界とは異なる歴史を辿ったもう一つの日本。
そんなパラレルワールドを舞台とした連作長編ミステリのシリーズ。

冒頭、20ページほどをかけて第二次大戦終盤からの歴史が語られる。
我々の世界との “ずれ” も最初はわずかなものだったのだが、
それがだんだん拡大していく。

作品世界での日本は、第二次大戦末期に北海道がソ連の侵攻を受ける。
召和(しょうわ)20年9月の終戦後もそのままソ連の占領が続き、
北海道は<日ノ本(ひのもと)共和国>として独立することとなり
日本は分断国家として戦後の歴史を歩むことになる。

召和(しょうわ)24年、日本を舞台に
米ソの代理戦争となる<日本動乱>が勃発、
やがて休戦に至るも、二つの日本は「戦争中」のまま対峙を続けていく。

 要するに朝鮮半島の運命をそっくり日本に置き換えたような歴史が
 進行しているのだ。
 ちなみに朝鮮半島は<大韓共和国>として単一国家のまま存在してる。

そして作品世界の “現在” は、平世(へいせい)21年と呼ばれる時代。
準戦時体制を続ける日本は、
<日ノ本共和国>からのスパイ潜入などもあり、
“北” へ対抗姿勢を強め、国民の “統制” に注力するようになる。
同時に反米気運も高まり、方言の禁止と標準語使用の推奨、
そして外来語(英語)使用の自粛が進められていく。

探偵という存在もまた体制への反逆分子と見做されていた。
犯罪捜査は警察(国家権力)にのみ許された行為であり
民間人による捜査(私的探偵行為)は違法となっていたのだ。

シリーズの主人公は、東北の町・奥多岐野で父と二人暮らしの
高校2年生、空閑純(そらしず・じゅん)。

父は勇、母は朱鷺子(ときこ)。
純は名探偵と呼ばれた二人の間に生まれたが
彼女が14歳の時、母はある事件を調査中に消息を絶った。

勇と純は二人で母の故郷・奥多岐野に移り住み、
父は翻訳を生業に、娘は学生として生活しながら
母の実家で朱鷺子からの連絡を待っている。

ある日、奥多岐野の山道近くで男の全裸死体が、
さらに崖下からは別の転落死体も発見される。
殺人の嫌疑をかけられたのは純の友人の母親だった・・・


探偵行為が禁止されたパラレルワールドの日本にあって、
“名探偵の子” として生まれた宿命を背負った純の成長を描く、
おそらく大河シリーズになりそうな作品。

 もちろん、本作だけでもミステリとして成立しているし
 巻末の後書きによると、本来シリーズ化は予定しておらず
 単発の長編だったらしい。
 しかしその後、作者は続編の執筆を決意するのだが
 いざ書き始めるといろいろあって・・・というのは
 本書の内容には全く関わりのないことなので省略(笑)。


本書の終盤、純は “禁じられた私的捜査行為”、
すなわち探偵として事件に関わり、
最終的に父・勇の助力もあって真相解明に至るが
その “推理” の過程を警察に察知されてしまう。

そのため勇は、警察類似行為(=私的探偵行為)を行ったということで
警察に逮捕されてしまう。

一人残された純は、母を探し出すために高校を退学し、
叔父夫婦の住む大阪へ向かうことを決意するところで本書は終わる。

 実は今、その第2巻「真夜中の探偵」を読んでいるところ。
 叔父夫婦の世話にならず、大阪で一人暮らしを始めた純が
 ある殺人事件に巻き込まれていく様子が描かれている。


本格ミステリではあるのだけど、
パラレルワールドSFの雰囲気もけっこう濃厚。

 異世界の日本社会を取り巻く圧迫感・閉塞感が
 シリーズ全体のトーンを暗く、息苦しいものにしている。
 その世界ならではの約束事による事件やトリックを可能にするための
 SFミステリ的設定ともとれるし、我々の世界への風刺ともとれる。
 案外、そっちが主目的かも知れない。

探偵志願の少女が事件に巻き込まれる冒険小説の趣もあるけれど
純の人間的成長を描く青春小説としての要素が一番大きそうだ。


なにより、純が不憫でならない。
両親が探偵だったのは彼女のせいではないんだが
それによって彼女は過酷な運命を歩むことになる。
しかし純は挫けず、強い意志を持って生きていく。
とっても健気なその姿勢に、全力で応援したくなってくる。

いつの日か、彼女が心から笑える日は来るのだろうか。

第3作「論理爆弾」も手元にあるので近々読む予定。

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