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行き先は特異点 年刊日本SF傑作選 [読書・SF]


行き先は特異点 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

行き先は特異点 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★

2016年に国内で発表された短編SFから選ばれた19編と
第8回創元SF短編賞受賞作1編、計20編を収録。
今回で通算第10巻を達成したとのこと。
昔と比べてSFを読む分量が格段に減ってしまった私には
国内のSF作家さんたちの現状を知ることができる格好のガイドである。

とはいっても、SFにはさまざまなサブジャンルがあり
100人の作家がいれば100通りの語り口がある。
このアンソロジー・シリーズの第1巻の頃から感じていたことだが
自分がトシをとってきたせいか
理解できない、アタマにサッパリ入ってこない作家さんが増えてきた。
だから評価も「いい・悪い」ではなく「わかる・わからない」が
メインになってしまうという、いささか格好の悪いことに。
でもまあ、そういう風にしか
SFに接することができなくなりつつあるので仕方がないかなあ。


○理解できたし、面白いと感じた作品

「行き先は特異点」藤井太洋
スマートフォン、タブレット、ドローン、自動運転車・・・
現在進行形の超高度IT化社会のほんのちょっと未来の姿。
これならわかる(笑)。

「人形の国」弐瓶勉
漫画作品。遙かな遠未来、文明が崩壊しつつある大都市が舞台。
長編作品の前日譚とのことだが、本編を読みたくなる。
ちなみに「シドニアの騎士」「BLAME!」もこの人の作品。
「シドニア-」は大好きでアニメも見てた。三期やらないかなあ・・・

「スモーク・オン・ザ・ウォーター」宮内悠介
悪性の脳腫瘍のために寝たきりだった父に起こった異変。
本作の内容とは関係ないが、私自身はタバコは吸わないのだけど
禁煙を強制するかのような最近の風潮に押しまくられる愛煙家の方には
ちょっぴり同情してる。

「性なる侵入」石黒正数
漫画作品。わずか8ページのドタバタ劇。
脱力もののオチなので “バカミス” ならぬ “バカSF” とでも言おうか。
でもこの作者、面白いなあ。もっと読んでみたくなった。

「悪夢はまだ終わらない」山本弘
児童小説を、というオファーで書いたらしいけどボツになったとのこと。
そりゃそうだろうなあ。特に小中学生には読ませられんだろこれ。
そうだね、よい子のみなさんは高校生になったら読んでみるといいかな。
いい意味で “SFショック” が味わえるかも。

「海の住人」山田胡瓜
漫画作品。人間型ロボット(ヒューマノイド)に
人間と同等の権利が与えられて、人間と共存している世界の物語。
短編読み切りシリーズのうちの1編なんだが
他の作品も読んでみたくなった。

「プテロス」上田早夕里
遠未来、遙かな異星での生態系を描いた直球ど真ん中のSF。
やっぱりこういうものも時には読みたくなるよねえ。


○理解はできたが面白さがわからない作品

「バベル・タワー」円城塔
この作者には珍しく、何が書いてあるのかはわかった(笑)。
ちょっぴり往年の筒井康隆みたいな感じを受けたけど
面白いかどうかまではよくわからん。

「幻影の攻勢」眉村卓
老境に入ると、SF作家というのはこんなことを考えるのかな・・・
という作品。内容は十分理解できるんだが
身につまされすぎて素直に「面白い」って言えない(笑)。

「太陽の側の島」高山羽根子
太平洋戦争中の、出征した夫と残された妻の間の往復書簡、
のように始まるのだが実は・・・という作品。
ただまあ、設定からして楽しい作品にはなりようもないので・・・

「玩具」小林泰三
なんと官能小説として書かれたらしい。たしかにエロい(笑)。
ラストはホラー。なんでこれがベストSFなのかはいささか疑問。

「古本屋の少女」秋永真琴(写真・スミダカズキ)
長編ファンタジーの導入部というかワンシーンという雰囲気。
これだけでこの作者さんを評価はできないなあ。
機会があったら長編を読んでみたい。

「洋服」飛浩隆(写真・スミダカズキ)
SFなのはわかるんだけど(笑)。

「二本の足で」倉田タカシ
“スパムメールが二本足で歩いてきたら” っていう発想はスゴいが。

「スティクニー備蓄基地」谷甲州
作者の代表作の一つ、《航空宇宙軍史》シリーズは
何冊か読んだんだけど、さほど面白いという印象がなかった。
本作はそれに続く《新・航空宇宙軍史》の1編。
ああ、“外惑星動乱” なんて懐かしい言葉だなあ・・・


○申し訳ないが私には理解できない作品

「点点点丸転転丸」諏訪哲史
お笑い芸人の一発ギャグみたい。

「鰻」北野勇作
これも官能小説として書かれたらしい。
たしかにエロいが私の趣味ではないので・・・(笑)。

「電波の武者」牧野修
ホラーなのはわかりますが、それ以外は理解不能。

「ブロッコリー神殿」酉島伝法
この人が日本SF界にあって、とびっきりの個性派なのは認めます。
でも、私には無理(笑)。


○第8回創元SF短編賞受賞作

「七十四秒の旋律と孤独」久永実木彦
人類が超光速航法を手にして、宇宙に広がった時代。
主人公は貨物宇宙船の警備ロボット・“紅葉”。
超光速航行中、宇宙船が高次空間にあるのは74秒間だが
人間はその時間を感知できない(一瞬に過ぎる)。
そのときを狙って襲ってくる、人工知性体による海賊行為から
船を守るのがその任務。
“紅葉” と人工知性体との74秒間の戦いを描くスペースオペラであり、
そしてSFに登場するロボットが総じてそうであるように
“紅葉” もまた実に健気で、オーソドックスなロボットSFでもある。
そういう意味では実にわかりやすいし素直に感動できるSF。
選評にあるように新鮮味には乏しいかもしれないが
私はこの作品は気に入ったよ。
今後が楽しみな作家さんになりそうである。

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