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二重螺旋の誘拐 [読書・ミステリ]


二重螺旋の誘拐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

二重螺旋の誘拐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/10/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

本書のタイトルを見て、昔『二重螺旋の悪魔』っていう
ド派手な長編アクションSFがあったのを思い出した。

内容はとっても面白かったんだけど、作者は
「SFってレッテルを貼られると売れるものも売れなくなる。
 この作品をSFって呼ばないでほしいし、私もSF作家ではない」
とかのたまわっていたなあ・・・

まあ当時は “SF冬の時代” とか言われてたから、
仕方なかったのかも知れない。
今なら堂々とSFって名乗ってもいいんじゃないかって思うんだけど。

ちなみに『-の悪魔』の方の “二重螺旋” はDNAの構造を指している。

本書『-の誘拐』の方の “二重螺旋” はどうかというと
薬学部が舞台になっているもののDNAはほとんど関係ない。
いや、まったく関係ないわけでもないんだが・・・

閑話休題。


香坂啓介は、大学の薬学部に助手として勤務している。
彼には15年前に交通事故で命を落とした茉奈(まな)という妹がいた。

妹の死のトラウマにとらわれたままの啓介は
やがて学生時代の先輩・佐倉雅幸の一人娘・真奈佳(まなか)に
妹の面影を重ねて可愛がるようになった。

その真奈佳が行方不明になり、やがて雅幸とその妻・貴子のもとへ
誘拐を告げる電話がかかってくる。

雅幸は海外で薬学を学ぶための留学資金を貯めようと
アルバイト生活の傍ら語学の勉強に励み、
妻・貴子も和菓子屋で働きつつ内職もこなしている。
経済的に決して楽ではない二人に、
身代金として課せられた額はあまりにも大きかった・・・

物語は啓介のパートと雅幸のパートがほぼ交互に描かれていく。

ミステリであるから、メインである誘拐事件も
当然ながら単純なものではなく、裏がある。

一方、啓介のパートにも、彼が誘拐事件に関わっている描写がある。

本書の裏表紙にある惹句には
「啓介の物語と雅幸の物語が二重螺旋のように絡み合う」
って書いてあるんだが、結末まで読み終わり、
改めて全体のストーリーを俯瞰してみると
この “二重螺旋” というのがまさに絶妙、
本書にぴったりなタイトルであるのがわかる。


作者はミステリ作家ではあるけれど、デビュー作以来、
どちらかというとラブコメ絡みのユーモア・ミステリを発表してきた。
しかし本作はいささか毛色が異なる。

幼女が交通事故死したり誘拐されたり、
両親が必死になって探したり金策に走り回ったりと
家族の苦悩が描かれるシーンが続き、
いつものライトな感覚はかなり控えめ。

そして、今までの作品ではラブコメ要素やSF・ファンタジー要素の
占める割合が大きく、ミステリ度としては “やや薄め” に
感じられるものが多かったのだが・・・

ネタバレになりそうなのであまり詳しく書けないけど
ミステリ度は今まで読んだ中ではいちばん高いと思う。

今までの作風から、ライトノベル的な軽いテイストで
楽しく読めるものを書く人だと思ってたんだけど
いつのまにかミステリ作家としても成長していたんですねえ。

 はじめから技量があったけどあえて隠してたのかも知れないが。

新境地を開いた、と言うと月並みな表現だけど
作者の持っている引き出しは予想以上に多そうです。

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