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丑三つ時から夜明けまで [読書・ミステリ]


丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

警視庁の特別研究チームが、ある現象の観察に成功する。
死んだ直後の人間からある種の電気エネルギーが分離することを。

分離したエネルギーは、あたかも “意思” を持つように移動し
生きた人間に対し心臓発作を起こさせるなどの物理的影響力を持つ。

エネルギーの正体は、我々が従来 “幽霊” と呼んできたものに近く、
元々の肉体が持っていた人格に極めてよく似た “精神” を持っていた。

やがて、この “幽霊” に関して驚くべきことが判明していく。

消滅するまでの “寿命” が約1年であること、そして
肉体の死が衝撃的であればあるほど、生じる “幽霊” の力も強いこと。

つまり、突発的な事故や殺人事件の被害者などは、
きわめて強い霊力をもつ “幽霊” を生み出すのだ。

“幽霊” はエネルギー体であるのでどんな場所でも入り込むことができる。
厳重に警備された密閉空間であろうとも。
“幽霊” は、どんな不可能犯罪でも起こすことができるのだ。

“幽霊” による犯罪を取り締まる必要に迫られた警視庁は、
静岡県警に幽霊犯罪専門の特殊部隊を設立、試験運用を始めた。
それが静岡県警捜査五課である・・・


という設定のもと、展開される連作ミステリ。
“幽霊” というホラーな存在を “実在するもの” とし、
その特性もきっちり細部まで規定することで
ミステリの一要素として組み込んでいる。

収録作は5編。
「丑三つ時から夜明けまで」「復讐」「闇夜」「幻の夏山」「最後の事件」

この5つの事件に静岡県警捜査五課が挑むわけだが
当然ながら “幽霊” なんてものを相手にするのだから
メンバーもみな普通の刑事の枠から大きくはみ出している。

表紙のイラストに描かれているのが五課の刑事たちなのだが
とてもそうとはおもえないだろう。

全身黒ずくめで髪を後ろで束ね、丸いサングラスをかけた男。
攻殻機動隊のバトーみたいなのが五課の課長・七種(しちぐさ)。
そして白装束の怒木(いするぎ)、袴姿の車(のり)など
みんなおよそ刑事とは思えない出で立ち。
極めつけは入戸野(にっとの)。なんと人形を抱えた少女だ。

彼らが追うのは生身の人間ではなく、容疑者としての “幽霊”。
事件の関係者で、一年以内に死んだ者が対象だ。

現場にこんな異様な連中が乗り込んでくるんだから、
生身の人間相手の捜査一課の刑事たちが面白いはずがない。
当然ながら一課長・米田と五課長・七種は犬猿の仲。

物語は米田の部下である一課の刑事、“私” の視点を通して語られる。
一課の刑事でありながら霊感体質をもつ “私” は、
毎回、五課に協力する羽目になって事件に関わっていくわけだ。


ユニークな要素を取り込んだ、一種のSFミステリともいえるだろう。
でも、本書の星の数が今ひとつなのは、
この要素がうまく機能しているような感じがしないから。

“幽霊” ならではのストーリー、展開、トリックなどを盛り込んだ
面白いミステリが読めるかと思ったのだけど
あまりうまく活かしているように思えないんだよなあ。

一風変わったキャラクターを集めた五課の面々も
それぞれの特性や、五課に加わった生い立ちなんか掘り下げると
面白くなりそうな気もするんだけど、
キャラごとのユニークな特性が発揮される場面も少なく
なんだか人数あわせに揃えられただけみたいな印象もする。

まあこれは分量の問題もあるかな。
短編5編、トータルで一冊分の量では
そこまで描くのは無理だったのだろう。

ならば続編はどうかというと、掉尾の「最後の事件」を読むと
とりあえずこの設定での捜査五課の物語は本書で打ち切りっぽい。

舞台を改めて、試験運用ではなく
各都道府県で本格運用が始まった時代の物語がいつの日か語られるのなら、
彼らの活躍も再びそこで描かれるのかも知れない。

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