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漫才刑事 [読書・ミステリ]


漫才刑事 (実業之日本社文庫)

漫才刑事 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 文庫

評価:★★★


腰元興業所属の若手漫才コンビ、「くるぷよ」。
最近伸びてきたとの評判通り、今日もけっこう笑いをとる。

大阪をホームグラウンドにする彼らに
東京進出&TV出演の話も出てくるが
コンビの片割れ・"くるくるのケン" はなぜかその話に難色を示す。

実は彼には別の顔があったのだ。
大阪府警難波署の刑事・高山一郎。
それが彼のもう一つの顔。
相方である "ぷよぷよのプン" にさえ知られていない。

舞台用のぶ厚いメーキャップに隠され、同僚の刑事たちもまた
ケンの "もう一つの仕事" に気づいていない。

お笑いと刑事、どちらも "天職" と考えるケン。
なんとかその両立を目指して奮闘する毎日だが
なぜか彼の周囲では芸人を巻き込んだ事件が続発する・・・


「第一話 ふたつの顔を持つ男」
大ベテランのピン芸人・びっくり太郎が、演芸ホールの楽屋で
首を絞められて意識不明になっているところを発見される。
すぐさまホールは封鎖されたので犯人はまだ中にいると思われた。
たまたまホールに出演していた「くるぷよ」。
ケンは、仲間に悟られないように事件の解決に協力するが・・・
登場人物紹介と、ケンの名探偵ぶりが描かれる。
そして難波署員の中でただ一人、交通課の婦警・城崎ゆう子だけが
ケンの "正体" に気づいてしまう。

「第二話 着ぐるみを着た死体」
今日の「くるぷよ」の仕事は、着ぐるみを着て
演芸ホールの前の路上で宣伝すること。
特別ゲストはスリムドッカンブラザーズ。
スリム健四郎とドッカン大作の二人による大人気漫才コンビだ。
この二人も着ぐるみ姿で宣伝に参加したのだが
スリム健四郎が、彼が入っているはずの着ぐるみの中から姿を消し、
ドッカン大作が入っていたはずの着ぐるみの中から
死体となって発見される・・・
「中身がない着ぐるみが歩く」&「人間消失」トリックはなかなか。
ユーモアミステリなんだけど、そういうところは手を抜いてない。

「第三話 おでんと老人ホーム」
老人ホームでの営業にやってきた「くるぷよ」。
一緒に出演するのは上方演芸界最年長の
亀潟喜寿とその娘・喜美子の漫才コンビ。
しかし、漫才中に喜寿が心筋梗塞を起こし、死亡してしまう。
その様子にケンは不審なものを感じるが・・・
本筋には全く関係ないけど、
ロックバンドを組んでシャウトしまくるご老人たちがいい。
こんな高齢者は本当にいそうだし、私もこんな老後を迎えたいなあ。

「第四話 人形に殺された男」
TV局の楽屋で、腹話術師の縦縞ボストンが刺殺死体で発見される。
現場は密室状態で、死体の傍らには
ナイフを持った腹話術用の人形が座っていた。
ボストンは常々、この人形について語っていた。
「この人形には魂が宿っとるんや。
 最近俺に対して反抗的で、時々『殺してやる』って叫ぶんや」
いささか無理がありそうな気もするが、
この状況ならあり得るかもな~って思わせる密室トリック。

「第五話 漫才師大量消失事件」
お笑い新人グランプリ「N-マン」に出場した「くるぷよ」。
順調に一回戦・二回戦を突破し、三回戦を迎える。
何とか勤務を抜けて会場に到着したケンだが
10組参加するはずが、会場に現れたのは「くるぷよ」ともう一組だけ。
8組の漫才師がどこかに消えてしまったのか・・・
今回、「くるぷよ」のライバルとして現れる漫才コンビ「格差社会」。
 ネタ担当が京大理学部卒という超高学歴とか、
 どこぞにそんな漫才師がいたような。
今回、いよいよ署内の同僚刑事にバレそうな展開に。

「第六話 漫才刑事最後の事件」
腰元興行の擁する最大の劇場・なんばキング座への
出演が決まった「くるぷよ」。
しかし、出演中の一週間は昼夜ともに拘束されてしまう。
ケンは苦肉の策として城崎ゆう子と "偽装結婚" し、
一週間の新婚旅行休暇をとる。
順調に舞台をこなす「くるぷよ」だが、公演の終盤で大事件が起こる。
芸人の青海ドノバンが、観客の中にいたゆう子に
拳銃を突きつけて人質に取り、
刑務所に服役中の相方・三田村ギャラリーの釈放を要求したのだ。
ガンで余命三ヶ月となったドノバンは、
最後にギャラリー相手に漫才がしたいのだという。
 真面目なドノバンと破滅型芸人でトラブルメーカーのギャラリー。
 そんなコンビが昔いたような気がするが。
なんば署の署員が舞台を取り囲む中、
ゆう子を救うためにケンがとった行動は・・・
漫才刑事・完結編である。
芸人と刑事、ケンはどちらを選ぶのか。それとも・・・


舞台が上方演芸界とあっては、いやがおうでも
ユーモアミステリにならざるを得ないよねえ。
登場するのも、みな芸人らしく濃いキャラばかり。
私は生まれも育ちも関東なので、上方の芸人さんはさっぱりなんだけど
関西の人ならモデルになった芸人さんを予想できるのかな?

個人的には "大食い女王" なみの食欲と胃袋をもち
ヘタなお笑い芸人よりウケをとる城崎ゆう子さんがお気に入り。

動機もトリックも "芸" がらみのものばかり。
とは言っても、「実際の芸人世界は本書の通りではありません」と
作者があとがきで断っている(笑)。
でもまあ、そんなことを気にせずに楽しめばいいと思う。

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