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機龍警察 自爆条項 [完全版] 上下 [読書・SF]


機龍警察 自爆条項〔完全版〕 上 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 自爆条項〔完全版〕 上 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: Kindle版
機龍警察 自爆条項〔完全版〕 下 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 自爆条項〔完全版〕 下 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: Kindle版
評価:★★★★

作者の出世作となった「機龍警察」シリーズ。
本書はその第2作に加筆・修正を施した[完全版]だ。

とは言っても、ストーリーの根幹は変更されていない。
個々のシーンの描写が厚くなったりしているらしいのだけど
実際、読んでいてどこがどう変わったのかは分からなかった(^^;)。
まあ、私の記憶力自体が当てならないからなあ・・・

ストーリー的には独立しているので、前作を読んでいなくても
楽しむことはできるけれども、前作の流れや一部の伏線を
引き継いでいる部分もあるので、
できたら第1作を読んでからの方が、より楽しめるだろう。

そしてもし、本書から読み始める(読み終わった)人がいるなら、
その後でいいからぜひ前作を読んでほしい。
前作におけるライザと緑の台詞や行動の意味が
より深く理解できるだろう。

以下の文章は、2年前に文庫で刊行された
旧版を読んだときに書いた記事に
若干の加筆・修正を施したものだ。


大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴って開発された人型近接戦闘兵器・機甲兵装が
市街地戦闘の主流となっていた。

 機甲兵装とは、アニメ『装甲騎兵ボトムズ』におけるATみたいな、
 簡単に言えば "ロボット型一人乗り戦車" のような兵器である。

警視庁特捜部も、テロリスト対策のために最新鋭の機甲兵装「龍機兵」を
3機導入し、その搭乗要員(パイロット)として3人の傭兵と契約した。

日本国籍を持つ姿俊之、
アイルランド人で元テロリストのライザ、
元ロシア警察のユーリ・オズノフ。
この3人は "警部待遇" で捜査にも加わることになる。

英語名は Special Investigation Police Dragoon。
犯罪者たちは彼らを「機龍警察」と呼んだ。

閉鎖的・保守的な警察組織の中で、彼ら3人と「龍機兵」は
"異物" であり、特捜部自体も他の部署との軋轢は避けられない。
しかしながら、機甲兵装を用いたテロ案件は次々に発生していく。

「機龍警察」は、テロリストという外敵はもちろん、
"警察組織" という内なる敵とも戦っていかなくてはならない。
そういう宿命を背負った部署なのである。

機甲兵装が大量に日本国内へ密輸された事件が発覚する。
それと時を同じくして、北アイルランドのテロ組織・IRFのメンバーが
大挙して入国したことも判明する。その中には、
最高幹部の一人である<詩人>と、凄腕のテロリストである
<猟師>・<墓守>・<踊子>の3人も含まれていた。

彼らの目的は2つ。

一つは、近く来日するイギリス政府高官サザートンの暗殺。

そしてもう一つは、「龍騎兵」の搭乗者・ライザの処刑。
彼女はかつてIRFに所属し、"ある事情" から組織を抜けていた。
IRFは彼女を "裏切者" として追っていたのだ。

しかし、IRFの潜伏先は容易につかめず、
サザートンの来日は目前に迫ってくる。

そしてなぜか、日本政府上層部から特捜部に対し、
不可解な捜査中止命令が下される。

そんなとき、日本国内に巣くう中国黒社会のメンバー・馮(フォン)が
特捜部に接触してくる・・・


本作では、ライザが実質的な主人公をつとめる。
物語は、IRFの足取りを追う特捜部と、
ライザの過去が章ごとに交互に描かれていく。

テロの嵐が吹き荒れる北アイルランドに育ち、
父親の死をきっかけとして<詩人>に導かれてIRFへ加入、
過酷な訓練を経て "殺人機械" へと成長していくライザ。

しかし、自ら手を下したテロによって、ある "報い" を受け、
組織からの脱走を決意する。

このあたりはけっこうな書き込みで、
初読の時は「ちょっと長いんじゃないか」って思ったんだが
今回は全然そんなことを感じさせなかった。
作者の語りのテクニックが上達したせいかもしれない。

この描写があることによって、ライザへの感情移入がより高まり、
クライマックスにおける<詩人>との対決が
いやが上にも盛り上がる伏線にもなっている。

IRFを抜けた彼女は生きる意味を見失い、
死に場所を求めるかのように戦いに中に身を投じる。
「龍騎兵」のパイロットとなったのもその流れに身を任せた果てだ。

他の二人のパイロットである姿とユーリをはじめ
登場人物がみな個性的で、キャラ立ちもバッチリなのだけど
特筆すべきは特捜部長の沖津だ。

沈着冷静にして頭脳明晰、つまはじきと圧力の総攻撃にさらされる
特捜部において、根回し・腹芸・駆け引きと、あらゆる手を用いて
外部や上層部と渡り合ううちに、いつのまにか
事態を自分の望む方向に導いていってしまう。

本作においては、IRFの<詩人>に対して、
さながらチェスの達人同士のように
相手の手の内を読みあう頭脳戦を繰り広げる。

そして、本作のもう一人のヒロインとも言うべきなのが
「龍騎兵」の技術主任(メカニック)担当の鈴石緑警部補。
彼女もIRFの引き起こしたテロ事件によって家族を失い、
天涯孤独の身となっていたことが本作で明かされる。

しかしそれはライザが直接手を下した事件ではなかった。
緑もそれは重々承知してはいるのだが
ライザに対して生じる憎しみを消すことはできない。

そして、「龍騎兵」の性能を究極まで引き出してくれるのも
またライザなのであった。

 本作を読んでから前作を読みかえすと、
 緑の示す言動にいちいち納得してしまう。

ライザと緑をつなぐのは「龍騎兵」という存在ただ一点。
決して相容れることのないはずの二人なのだが、
事件を通じてお互いの過去を知ったことにより
関係に変化が生じていく。

終盤における<詩人>との対決で、絶体絶命の危機に陥ったライザが、
無線を通じて緑と言葉を交わすシーンがある。
二人の心が一瞬ではあるが "重なる"、
ここまできたら、涙で文字が追えなくなってしまったよ・・・


前作と本作で、警察上層部や日本政府内には
犯罪組織とつながる巨大なネットワークが
存在することが示唆されている。

最終的に特捜部はこの<巨大な敵>と戦うことになるのだろう。
"ラスボス" との決戦がいつになるのかは分からないが
それまではこのシリーズを楽しませてもらおう。

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