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恋牡丹 / 雪旅籠 (その1) [読書・ミステリ]

 

恋牡丹 (創元推理文庫)

恋牡丹 (創元推理文庫)

  • 作者: 戸田 義長
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/10/21
  • メディア: 文庫
雪旅籠 同心親子の事件帳 (創元推理文庫)

雪旅籠 同心親子の事件帳 (創元推理文庫)

  • 作者: 戸田 義長
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・戸田惣左衛門(そうざえもん)は北町奉行所に勤める同心。
『八丁堀の鷹』と呼ばれるほどのやり手として知られる。

時は幕末。黒船が来航し、幕府は開国を求める異国の圧力に屈する。
明治維新が迫り、武士の世が終わりを迎えようという激動の時代。

そんな時代の激変に押し流されていく惣左衛門と
その嫡男・清之介(せいのすけ)の、およそ24年ほどにわたる
親子二代の同心人生を、『恋牡丹』『雪旅籠』の短編集2冊、
合計12編の連作短篇ミステリの形で描いていく。

 ちなみに連作短編集『恋牡丹』は、
 第27回鮎川哲也賞の最終候補に残った作品だ。

悪人相手では容赦をしない惣左衛門だが、彼の趣味は意外にも園芸。
現代で言うところのガーデニングで、庭に咲く花を
丹精込めて世話をすることに無上の喜びと癒やしを感じる。

事件の全貌を瞬く間に見通すような推理力は持ち合わせていないが
真摯に事件に取り組み、地道な思考を積み上げて解決していく。
途中からは、彼を上回る探偵能力を持ったキャラが登場し、
惣左衛門も清之介もその人物に助けられていくようになる。

『恋牡丹』には文庫で70ページ強ほどの短篇4作が収録され、
『雪旅籠』には文庫で40ページ弱ほどの短篇8作が収録されている。

『雪旅籠』の「あとがき」には、各短篇の時系列順のリストが
掲げられているので、ここではそれに従って書いていくことにしよう。
合計で12篇もあるので、2回に分けて記事にする。

(恋)は『恋牡丹』収録作、(雪)は『雪旅籠』収録作。

(恋)「花狂い」
北町奉行所同心・惣左衛門は3年前に妻を亡くしていた。
嫡男の清之介は11歳になるが、その器量にはやや不安を覚えている。
そんなとき、神田八軒町の長屋で殺人が起こる。
被害者はお貞(さだ)という女で、11歳の息子・平吉と二人暮らし。
死因は絞殺、遺体にはいくつか不審な点があるが
容疑者として浮上してくる者にはことごとく決め手がない。
混迷する中、清之介と碁を打った惣左衛門は事件解決のヒントを得る。

(雪)「埋み火」
惣左衛門のもとに大工の豊吉の娘、おさとが訪れる。
父親の様子が最近おかしいのだという。
惣左衛門の調べで、豊吉の奇行は20日ほど前に
おしげという夜鷹に襲われて以来だということが判明するが・・・
ちなみに ”夜鷹” とは、夜間に道ばたで客を引き、
安価で売春をしている女性のこと。

(雪)「逃げ水」
安政7年(1860年)3月、桜田門外の変が起こる。
大老・井伊直弼が水戸藩の脱藩者らによって暗殺された事件だ。
ところが直弼の遺体から銃創が見つかり、駕籠の中にも返り血が。
どうやら水戸藩士に首を落とされて死んだのではないようだ。
衆人環視の中の不可能犯罪と思われたが、駕籠の護衛をしていた
彦根藩士・今村右馬助(うますけ)に直弼殺害の容疑が降りかかる。
右馬助の姉・美輪に頼まれた惣左衛門は必死に頭をひねるが・・・
謎の設定は魅力的だけど、明かされる真相はちょっとなぁ。
まあこれしか解釈のしようがないといえばそうなのだけど
これを説明しても彦根藩の上層部は納得するかなぁ・・・

(雪)「神隠し」
呉服問屋・越前屋の先代主人、勝兵衛(かつべえ)は無類の芝居好き。
それが高じて帳場の横に芝居の舞台を作ってしまった。それ以来、
越前屋の一同はそこで素人歌舞伎をするのが習わしになっていた。
勝兵衛が亡くなって婿養子の新右衛門(しんえもん)の代になっても
それは続いていたが、ある日、妻のおたきが目を離した隙に
舞台を掃除していた新右衛門の姿が消えてしまう。
唯一の出入り口にはおたきがいて、誰の目にもとまらずに
出て行くことは不可能だった・・・

(恋)「願い笹」
吉原で大籬(おおまがき:格式の高い遊女屋)を経営するお千(せん)は、
婿養子である夫・富蔵を殺すことを決意する。
怪しげな信仰にかぶれ、大金をつぎ込むようになっていたのだ。
一方、惣左衛門は吉原に逃げ込んだお尋ね者の芳三(よしぞう)を捕らえ、
それがきっかけで人気花魁・牡丹(ぼたん)と知り合う。
才色兼備で聡明な牡丹にすっかり魅せられた惣左衛門は、
しばしば彼女と語り合い、碁を打ち合う仲となる。
そんなとき、惣左衛門はお千から富蔵の護衛を頼まれる。
彼の殺害予告ともとれる文を受け取ったのだという。
夜を徹して祈祷をするという富蔵と同じ部屋で過ごすことになるが、
惣左衛門の眼前で富蔵は何者かに刺し殺されてしまう。
誰もその部屋に出入りすることはできなかったという密室状況に、
惣左衛門自身が殺人の容疑者とされてしまう。
だが、進退窮まった惣左衛門の危機を救ったのは牡丹だった・・・
トリック自体は先行例があるけれども、
吉原という特殊な場所にふさわしいアレンジが秀逸。
ミステリとしても、本シリーズ中の白眉と言っていいだろう。

シリーズの影の主役であり、メインの探偵役ともなる牡丹の初登場作。

(雪)「島抜け」
5年前に三宅島への遠島(島流し)に処せられた女・おもん。
しかし仲間と共に密かに島を抜け出し、江戸へ戻ってきた。
上野不忍池近くでおもんを見つけた惣左衛門は、
一緒に脱獄した仲間と共に一網打尽にしようと彼女の尾行を始める。
やがて市中から遠く離れた一軒家に入ったところで踏み込むが
そこにおもんの姿はなく、彼女のかつての仲間・巳之助(みのすけ)が
腹を刺されて瀕死の状態で倒れていた。家の周囲には雪が積もっていて
人の足跡はなく、凶器と見られる包丁は隣の寺の境内で発見される。
人間消失の謎に悩む惣左衛門は、牡丹に事件の概要を文で伝えるが・・・
ミステリを読みなれた人ならトリック自体は見当がつくだろうけれども
それ以上に、牡丹の安楽椅子探偵ぶりが鮮やか。

(「その2」に続く)


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