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ツインスター・サイクロン・ランナウェイ [読書・SF]

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ (ハヤカワ文庫JA)

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: 文庫
評価:★★★

人類が超光速航法を手に入れ、宇宙に飛び出してから6000年後の未来。
舞台となるのは銀河辺境の星系のひとつ。

そこには巨大ガス惑星が1つだけしかなく、到着した植民者たちは
その衛星軌道上に、24の氏族ごとに
巨大な都市型宇宙船を建造して生活を始めた。

以来300年。人類は「昏魚」(ベッシュ)と呼ばれる
ガス惑星の大気中を遊泳する生物を捕獲する
”漁業” によって生活物資を得ていた。

主人公の女性・テラは漁師を目指していたが、
「昏魚」を捕獲するための専用宇宙船 ”礎柱船(ピラーボート)” に
乗り込んで ”漁業” に従事できるのは
男女の夫婦に限る、という定めがあった。

テラは結婚するために、氏族間で行われる ”お見合い” に
参加したものの、ことごとく失敗してしまう。

そんなとき、他氏族から家出してきた謎の少女ダイオードと
出会ったテラは、彼女と共に女性のみのペアで漁師を始めることにする。

しかし、慣例を破る二人の行為に長老会が横槍を入れてくる。

それに反発したテラとダイオードは女性のみのペアを認めさせるため、
氏族長を相手に大型昏魚 ”バチゴンドウ” の漁獲量を競う
一発勝負をすることになるが・・・

LGBTが広く知られるようになり、エンターテインメントの世界でも
メインキャラとして同性愛者が登場するのが珍しくなくなったが
本書もその流れの中にあるようで、発売時のキャッチコピーには
”百合SF” なんぞという文言があったように記憶している。

もっとも、実際の描写は主役2人の女の子の親愛さが通常より2~3割増し、
くらいの案配に抑えられていて、私のようなアタマの古いオッサンでも
最後までついていけましたよ(笑)。

ジェンダー云々よりも、古い(といってもたかだか300年だが)慣習に
縛られる旧世代への、若者たちの反抗といった趣き。

植民星での過酷な生活環境、という原因はあるにしても
”漁師” となるための伴侶選びの制約とか、職業選択の不自由さとか、
人類が宇宙へ進出するような未来になっても
そこで社会を築いていけば、また新たな ”習わし” というのは
いやでも生じていくのだろう。

「昏魚」捕獲専用宇宙船 ”礎柱船” は、乗り手のイメージ通りに
自由自在に変形する能力を持つなど、面白いガジェットもあって
ガス大気中の ”漁” の描写も、地球上の海洋における漁と
同じようなところもあり、全く異なるところもあり、
そのあたりもなかなか楽しい。

また、「昏魚」を巡る架空の生態系を描くSFとしても面白い。
舞台となる巨大ガス惑星の内部には、「昏魚」発生の原因となる
岩石質の天体が沈んでいるという仮説が序盤で語られるのだが、
終盤で再びそれが顔を出してきて物語を締める。

テラとダイオードの物語は始まったばかり。
もう一冊分くらいは続きを読んでみたいかな。


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