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君の嘘と、やさしい死神 [読書・恋愛小説]


君の嘘と、やさしい死神 (ポプラ文庫ピュアフル)

君の嘘と、やさしい死神 (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 真未, 青谷
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2017/10/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

語り手兼主人公は、高校2年生の百瀬太郎(ももせ・たろう)。
他人から頼み事をされると「嫌だ」と言えない性分のせいで
あちこちから ”仕事” を仰せつかって(押しつけられて)
9月開催の文化祭へ向けて忙しい日々を送っている。

夏休みを控えたある日、百瀬はクラスメイトで
文化祭実行委員長の高遠から、新たな ”仕事” を押しつけられる。

それは、文化祭において実行委員会主催で行われる
「参加型推理ゲーム」のテストプレイヤー。
カップルの男女が校内の離れた場所からスタートし、
携帯電話を使わずに相手を探し出す、というもの。

実行委員のクラスメイトに、今時珍しく
携帯電話を持っていない女生徒がいるとのことで、
百瀬はその子を探し出すことになる。

その女生徒が本書のヒロイン・美園玲(みその・れい)。
人目を引く美少女だが、口は悪く性格は強引(笑)。
自分を探し当てた百瀬に対し、さっそく ”ある計画” への協力を求める。
嫌と言えない百瀬は、ずるずると彼女の計画へ引っ張り込まれてしまう。

玲の ”計画” とは、文化祭の最中に
体育館のステージを乗っ取って「落語」をすること。
個人参加の企画が通らなかったことから、出し物の合間に
強引にステージに上がってしまおう、というわけだ。

「美少女と落語」という取り合わせに驚くが、
その理由は終盤に明かされる。ちなみに、タイトルにある「死神」とは
作中に登場する古典落語の演目のひとつなのだが・・・

百瀬は内心「ステージを乗っ取るなんて無理だ」と思うものの、
彼女の熱意に負けてしぶしぶ協力を始める。
しかし、玲と共に計画実行の準備に奔走しているうちに、
百瀬は次第に彼女に惹かれていく。

そしてついに文化祭を迎えるのだが・・・


読んでいてまず感じるのは、百瀬の行動が歯がゆくて仕方がないこと。
優柔不断と言うか意気地がないというか。

彼が頼み事を断らない(断れない)のは、幼児期の
ある ”トラウマ” が原因だと後半になって明かされるのだが、
それにしても「人がいいにもほどがある」。

玲さんのほうも我が儘一杯、百瀬の鼻面をつかんで
引っ張り回すような強引なお嬢さんとして描かれる。
しかしこれも、後半になるとその理由が明らかに。

彼女の抱えた ”事情” だが、文庫裏表紙の惹句を読むと
なんとなく予想がたつ。
そして読んでみると、その予想通りの展開を迎える。
まあ、”そういうもの” を期待して読む人からすれば
「期待を裏切らない」作品とは言える。

 ”このパターン” の物語は、いまでも2~3年に1回は
 映画やドラマになっているところをみると、
 ”恋愛ものの定番のひとつ” として、一定の需要があるのだろう。


惹句の最後にはこうある。
「温かい涙が溢れる、究極の恋愛小説」
これはたぶん、ラストの25ページほどを指していると思われる。

しかし、私は泣かなかった。
泣けなかったといった方がいいかな。


私自身はもともと涙もろい人間だ。
TVや映画を見ていてもすぐ泣いてしまうし、小説でもよく泣く。
「そんな作品で」とか「そんなシーンで」と思われるようなところでも
簡単に目が潤んでしまう人間だ。

しかも、年を取るにつれてどんどん涙腺が緩んできたので
そのうち、朝陽を拝んだだけで
号泣してしまうんじゃないかと心配している(笑)。
(半分は冗談だが半分くらいは本気で心配してる)

だけど、泣けなかったんだよねぇ。
別に無理して泣かないようにしてたわけじゃないよ。


主役カップルのキャラは魅力的だ。
百瀬はダメ人間だったが、最後は立派になったし、
玲ちゃんのツンデレぶりも愛おしい。
感動的な描写も台詞もシーンも多々ある。
終盤には、そんな感動ポイントがてんこ盛りだ。
本書を読んで感涙にむせぶ人は多かろうと思うし、理解はできる。


私は10代のころ、山口百恵主演のドラマや映画を観て
号泣していたんだよねぇ。
だからたぶん、この頃の私が本書を読んだら
もっと違う反応が出てきたんだろうと思う。

やっぱトシ取ったのかなぁ。
トシとって、”涙腺を刺激するポイント” が
変わってきた(ズレてきた?)のかなぁとも思う。

「感性がすり減ってきた」とは思いたくないんだけどね・・・

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宇宙軍士官学校 -攻勢偵察部隊- 2 [読書・SF]


宇宙軍士官学校―攻勢偵察部隊―2 (ハヤカワ文庫JA)

宇宙軍士官学校―攻勢偵察部隊―2 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 鷹見 一幸
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 文庫
大河ミリタリーSF「宇宙軍士官学校」シリーズ、第二部第2巻。

太陽系防衛戦を経験した ”銀河文明評議会” は
〈粛正者〉との戦いの方針を防御から攻勢へと転換し、
3つの長距離偵察戦闘艦隊を編成する。

その一つ、第2艦隊司令官に任命された恵一は、
〈粛正者〉の戦闘艦に偽装した新型艦に搭乗し、
他の2つの艦隊と共に、敵地であるアンドロメダ銀河へ向かう。

彼らがまず到着したのは、天の川銀河とアンドロメダ銀河の
ほぼ中間にある、矮小不規則銀河。
そこには、惑星の公転軌道サイズの球面で恒星を覆ってしまった
(いわゆる ”ダイソン球” ってやつ)超巨大サイズの戦闘要塞。

”銀河文明評議会” は、両銀河の中間点にこの規模の要塞を多数配置し、
ここで〈粛正者〉の艦隊を呼び込んで殲滅する計画らしい。

恵一たち長距離偵察戦闘艦隊は、この要塞群を越えて
アンドロメダ銀河内のある恒星系へ向かう。
その星系には複数の転移用プラットフォームが存在し、
〈粛正者〉にとっての物流のハブとなっていると思われた。

しかし、長距離偵察戦闘艦隊全体の指揮を任されたザーラ少将は
自らの栄達を優先した作戦を立案する。

 彼が戦功を挙げれば、彼の出身星系民の扱いも良くなるので
 一概に責めることはできないのだけどね・・・

ところが、アンドロメダ銀河内への超長距離転移の影響で
艦隊は戦力の4割を失ってしまう。
悪条件の中、恵一たち偵察艦隊の戦いが始まる・・・


後半は、戦場から脱出した恵一たちが漂着した星系でのエピソード。
ここで〈粛正者〉たちの生態の一端が明らかになる。


本筋には関係ないけど、本書の中で
個人的にいちばん響いた台詞を挙げておこう。

恵一にとって親友であり、有能な副官を務めていたバーツが
太陽系防衛戦で、太陽に対する恒星反応弾の飽和攻撃を
防ぎきれなかったことで自分を責める恵一に向けた言葉だ。

「誰にもできないことを ”やって当たり前だ” と
 無責任に他人を責める奴の言葉なんて聞く必要はない。」

とかく世の中は「結果が全て」という面があるのは否めないのだけど
フィクションの中でも、こういう言葉に接するとなんだか安心する。

ホントは、この台詞の後に続く言葉のほうを紹介したいんだけど
それをやっちゃうといささか長くなるのでここまで。
なかなか聞かせる(読ませる?)熱い名台詞になってる。

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日本SF傑作選3 眉村卓 [読書・SF]


日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空 (ハヤカワ文庫 JA ク)

日本SF傑作選3 眉村卓 下級アイデアマン/還らざる空 (ハヤカワ文庫 JA ク)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

「筒井康隆」「小松左京」と続いてきた日本第一世代SF作家のシリーズ、
第3弾は「眉村卓」の登場だ。

私と同世代の方は、NHKの少年ドラマシリーズが
おそらく眉村卓との最初の出会いだろう。
ここでドラマ化された「なぞの転校生」を含めて
初期の眉村卓はジュヴナイルSF作家として認知されたと思う。

この後も、映画化やアニメ化された作品を多く生み出していく。
「とらえられたスクールバス」(アニメ化名『時空の旅人』)は
竹内まりやの主題歌も好きだったなぁ。

21世紀になって知った人もいるだろう。
眉村卓は病床にある夫人のために、彼女が亡くなるまでの5年間、
1日1編のショート・ショートを書き続けた。
このエピソードをまとめたノンフィクション「妻に捧げた1778話」は
草彅剛と竹内結子の主演で『僕と妻の1778の物語』というタイトルで
映画化され、2011年に公開された。

でも、SF作家としての眉村卓は、この2つの時代に挟まれた期間、
1970年代後半から90年代前半にかけてが最盛期だったのだろうと思う。
代表作である『司政官』シリーズの長編「消滅の光輪」「引き潮のとき」や、
これも大長編だった「不定期エスパー」などが書かれてる。

このように長期に、そして多岐にわたって活躍した作家さんの
「傑作選」はどうあるべきか。
編者の日下三蔵は、作家としての初期に書かれた、ジュヴナイル以外の、
主に「SFマガジン」に掲載された短編を中心に編んでいる。
いわば眉村SFの「原点」を示すような作品群を集めているのだろう。

全体は二部構成になっている。


第1部は<異種生命SF>13編。
「下級アイデアマン」「悪夢と移民」「正接曲線」「使節」「重力地獄」
「エピソード」「わがパキーネ」「フニフマム」「時間と泥」
「養成所教官」「かれらと私」「ギガテア」「サバントとボク」

主人公がさまざまな異星生物と出会い、
その異様な生態や人類と懸け離れたメンタリティに
驚いたり困ったり破滅させられたり(笑)する話。

 藤子・F・不二雄の短篇SFマンガに通じる雰囲気もあるけど、
 こちらには ”すこし・不思議” な風味はほとんど無い。
 まあこれが眉村卓の持ち味なんでしょう。

そして、こんな初期の作品からでも
ときおり ”司政官” シリーズの萌芽が感じられたりするのは意外。
でもまあこれは、この作家さんがこの後に進む方向を
知ってるからこそわかることだよねぇ。


第2部は<インサイダーSF>9編。
「還らざる空」「準B級市民」「表と裏」「惑星総長」「契約締結命令」
「工事中止命令」「虹は消えた」「最後の手段」「産業士官候補生」

”インサイダー” なんて現代ではあまり良い意味に使われないんだけど
(「インサイダー取引」とかね)、
これは ”組織の中にいる人” という意味で
身も蓋もない言い方をすれば、未来の世界を舞台に
「会社の中でサラリーマンがどう生きるか」を描いたもの。

組織に潰されていく人、組織に対して叛旗を翻す人、
組織の力をフル活用してのし上がっていく人、
いろんな生き方が描かれる。そこにSF的なアイデアを加味したものだ。

ここまでくると ”司政官” シリーズの原型がかなりはっきり感じられる。
所属が決められておらず、ミッションごとに現地へ飛び、
計画達成あるいはトラブルシューティングを行う
”無任所要員” シリーズなどはかなりそれが色濃く出てるように思う。
現地での実地作業を担うロボットたちが、命令系統に沿って
上下に階層化されてるところなんか ”ロボット官僚” を彷彿とさせる。

もっとも、このロボットたちの人間に対する受け答えが
意外と感情的で、とても ”人間っぽく” 感じられるのは、
やっぱり昭和の作品だからか(笑)。

最後に置かれた「産業士官候補生」は、
大企業が自社の幹部養成のために ”産業士官学校” なるものを設立し、
優秀な生徒を集めて教育する。主人公は破格の待遇に惹かれて
そこに入学するものの、超ハードな教育内容に四苦八苦する話(笑)。

いかにも高度成長社会をバックにした作品だ。
掲載誌が「高一コース」(これも廃刊になって久しい)というのも
時代を感じさせる。

でも、大企業が自分の会社に必要な人材を
自分で養成し始めるってのは現実になってる。

TVでトヨタ工業学園のCMが流れてるのを見ると
ちょっとこの作品を思い出す。
まあ、あちらはこの作品ほど無茶苦茶な教育はしてないだろうけどね。


本書に収められた作品群を読んでたのは大学時代のはず。
タイトルはけっこう覚えてたんだけど、内容はほとんど忘れてたよ。


書いていて思い出したけど、私は若い頃にSFマガジンを
定期購読してた時期があって、「消滅の光輪」は連載第1回から
リアルタイムで読んでたんだよねぇ。

でも、連載が終わる前にSFマガジンを読むのを止めてしまったので
「消滅-」をきちんと最後まで読んだのは文庫化されたとき。
連載開始から考えたら10年くらい後じゃなかったかな。

そういえば「消滅ー」をさらに上回る長さの
大長編「引き潮のとき」は未読なんだよねえ・・・
巻末の著作リストを見たら、15年くらい前に
再刊が始まったみたいなんだけど
全5巻のうち2巻目が刊行されたところで止まってるようだ。

文庫で全巻再刊されたら喜んで読むんだけどなぁ。

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九人と死で十人だ [読書・ミステリ]


九人と死で十人だ (創元推理文庫)

九人と死で十人だ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/30
  • メディア: 文庫
評価:★★★

第二次世界大戦初期、ニューヨークの埠頭から
豪華客船エドワーディック号が出港した。
軍需物資をイギリスに輸送するため、一般客は乗せないはずだったが
なぜかそこには9人の乗客の姿があった。

レジナルド・アーチャー医師、フランス軍人ピエール・ブノワ、
謎めいた若い女性ヴァレリー・チャトフォード、
実業家のジョージ・フーパー、貴族の息子ジェローム・ケンワージー、
ジョン・ラスロップ地方検事補、元新聞記者マックス・マシューズ、
トルコ外交官の元夫人エステル・ジア・ベイ、そして・・・

出港して2日目の夜、エステルが客室で他殺体となって発見される。
喉を掻き切られた死体には、血まみれの指紋が残っていた。
全乗客・全乗組員の指紋を採取して調べたものの、該当者はいない。

さらに、ピエール・ブノワが海に落ちて行方不明となる。
目撃者によると、ブノワは落下する直前に
後頭部を何者かに撃たれたのだという・・・


だいたいこの手の作品では、乗組員たちはその他大勢の扱いなんだけど
エドワーディック号の船長フランシスがマックスの兄だったり、
上級スタッフの中に指紋認証を扱える者がいたりと
けっこう本筋に絡んでくる。
ちょっとご都合主義な感じもしなくもないが
そこは拘るところじゃないよね。


典型的なクローズト・サークルに加え、
積んでいる軍需物資の中には爆薬もあり、
さらにドイツ軍潜水艦が出没する海域を通過するために
夜間は灯火管制をしつつ進むという、なかなかのサスペンス状態。

いちばんの謎はやっぱり指紋なんだろうと思うが、
ラスト近くで明かされるトリックは「え? それでいいの?」
いやあ、これで誤魔化されてしまうんですかねえ?
いくら80年前とはいっても、これはないんじゃないかなぁ・・・

・・・と思っていたら、もう一つ ”大技” が隠れていました。
うーん、こっちも苦しいような気もするんだけど
こういう極限状態ならアリなのかなぁ・・・?

まぁ、こういうところを気にしなければ(笑)、
ディクスン・カー(本書はカーター・ディクスン名義だけど)特有の
いつもの雰囲気が味わえる。

彼の作品では半ばお約束でもある、
ロマンス要素もいい味付けになってるんだけど
最後の一行まで読んで思ったことは
「あんたら、いつのまにそんなに仲良くなってたの?」(爆)

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ビギナーズ・ラボ [読書・恋愛小説]


ビギナーズ・ラボ (講談社文庫)

ビギナーズ・ラボ (講談社文庫)

  • 作者: 喜多喜久
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公・水田恵輔は、業界でも中堅どころの
製薬会社・旭日製薬の総務部で働いている。

ある日、認知症の祖父が入所している老人ホームを訪れた恵輔は
そこで滝宮千夏という車椅子の女性に出会う。

彼女はラルフ病という難病に冒されていた。
全身の筋力が衰えていき、やがて死に至る。
治療法はなく、患者の絶対数が少ないために
治療薬を開発している製薬会社もない。

千夏に一目惚れしてしまった恵輔は、
なんとかラルフ病の治療薬を彼女に届けたいと願うようになる。

そこで、会社が年に1回実施している
「テーマ提案」に応募することを決める。
全社員を対象に、新規事業の提案を受け付けるもので、
毎年30テーマほど応募があり、そのうち2~3テーマが採用される。

提案はみな研究職からで、事務職からの提案は過去に前例がない。
しかし同期入社の研究員・綾川理沙の助けを得て見事採用を勝ち取る。

 会社の上層部を相手にプレゼンをする場面は、緊張感にあふれていて、
 丁々発止と交わされる質疑応答のシーンも迫力十分。
 ここは大手製薬会社の研究員という作者の経歴が生きているのだろう。

提案は通ったものの、条件は厳しかった。
メンバーは恵輔と理沙の他に2人だけ。
その一人、春日は顕微鏡で細胞を見るのが生きがいだが、その反面
他者とのコミュニケーションがとれない、超がつくほど内気な性格。
もう一人の元山は、無駄なことは一切しないという合理主義者で
およそ協調性というものがかけらもない。

このメンバーを従えて、半年以内に何らかの成果を出さないと
プロジェクトはそこで打ち切りになってしまう。

前途多難かと思われたが、信念を持った人間は強い(笑)。
恵輔は意外なリーダーシップを発揮して、チームをまとめていく。

本書は、大きく「Phase 1」「Phase 2」の2章に分かれているのだが
ここまでが「Phase 1」。主に恵輔視点からの物語が綴られる。

そして物語は後半の「Phase 2」へ入るのだが、
ここからクローズアップされてくるのが理沙さんだ。

仕事の上では言いたいことを言い、周囲からは
”爆弾娘” の異名を取るほど威勢がいいお嬢さんなんだが、
内面は意外と繊細(失礼!)。

同期入社の恵輔に対して好意を抱いているであろうことは
「Phase 1」での行動の端々から感じ取れるのだが
千夏さんしか眼中にない恵輔は、全くそれに気づかない。

 まあ朴念仁にもほどがあるのだが、そのまっすぐな気持ちが
 様々な困難を突破させてきたわけで。

恵輔が千夏に抱く感情を知ってしまってからは、
理沙さんはあえて自らの感情を封印し、
恵輔のミッション達成に献身的に協力する。
ああ、なんてよくできたお嬢さんなんだろう・・・
こういう人こそ、幸せにならなきゃいけないよねぇ・・・


「Phase 1」では、製薬会社の中の様々な仕事や意思決定の過程、
会社の社会的役割など ”お仕事小説” としての面も大きかったのだけど
「Phase 2」では、理沙さんを巡るラブ・ストーリーとしての要素が
俄然大きくなってくる。

ラルフ病治療薬の研究の進捗とともに、
理沙 → 恵輔 → 千夏 という ”片思いの連鎖” が
どう決着するのかが、物語のテーマとして浮上してくる。

 読んでると、恵輔君を正座させて小1時間くらい説教したくなる(笑)。
 (これ実際にやったらパワハラだろうなぁ)


それ以外にも、希少な症例故に治療法/治療薬の開発から
取り残されている人々の存在なども描かれる。

希少疾病の治療薬開発という理想を掲げる恵輔に対して
「製薬会社はボランティアではない」
「利益を上げなければ会社の存続だってできない」
という正論をぶつけてくる者もいる。
実際、新薬の開発には膨大な資金と時間がかかる。

 マイナーな病気の薬を100種開発するより
 メジャーな病気(高血圧とか糖尿病とか)の薬を1種開発する方が
 製薬会社ははるかに儲かるのだろうし。

「企業としての利潤追求」と「患者の生命を救うという社会的責任」。

ストーリーの面白さですいすい読めるんだけど、
読みながらけっこういろんなことを考えさせられる小説でもある。

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NOVA 2019年 春号 [読書・SF]


NOVA 2019年春号 (河出文庫 お 20-13)

NOVA 2019年春号 (河出文庫 お 20-13)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/12/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

書き下ろし短篇SFアンソロジーとして2009年に始まった「NOVA」。
全10巻を以てひとまず完結したのだけど、
ここからまた再開するとのこと。当面は年2回くらいの刊行らしい。

本書には10編が収録されている。


■理解できたし面白かったもの

「やおよろず神様承ります」新井素子
日々の家事に疲弊する主婦の前に現れた謎の女性が、
宗教の勧誘を始めるのだが、その神様が一風変わっていて・・・
うーん、面白いのだけど、これSFかなあ?
うちは共働きなので、私も家事の何割かを分担してる。
だから主婦の仕事がたいへんで、助けがほしくなるのも分かるけどね。
新井素子さんは高校2年生でデビューしたんだったよねぇ。
ちなみにそのとき、私は大学1年だったよ。
著者近影のメガネ姿が意外と可愛かったのを覚えてる。
その彼女ももう還暦なんですねえ・・・時の逃れは早い。

「ジェリーウォーカー」佐藤究
異形の怪物を次々に産み出す映画界のモンスター・デザイナー。
彼の創作の秘密が明かされるが・・・
私は基本的にホラーは苦手なんだけど、これは面白かったよ。
ハリウッドが「ウルトラQ」を作ったらこんな感じ?

「お前のこったからどうせそんなこったろうと思ったよ」赤野工作
少年時代、ゲームの世界でライバルだった相手と
50年ぶりにネット対戦をすることになった男の話。
月にいる相手に向かって、1.3秒のタイムラグを挟んで
延々と罵倒を続けるだけの話なんだが、
読み続けるうちに、哀愁とともに
不思議な感動を覚えるようになっていく。

「母の法律」宮部みゆき
虐待児童問題を根本的に解決するべく制定された「マザー法」。
ヒロイン・二葉(ふたば)は、4歳の時にこの法律によって
実母から強制的に引き離され、憲一・咲子の里親夫婦に預けられた。
しかし13年後、咲子が病死したことによって幸福な時間は終わる。
里親夫婦が離婚または片方が死亡した場合、
未成年の子は養護施設に戻されるのだ。
そして施設に戻った二葉に、実母に会う機会が巡ってくる・・・
マザー法の内容、それを実現するための技術(架空の技術だが)、
そしてマザー法で保護された子どもたちに対する世間の偏見など、
様々な設定がよくできてて、この1作で終わらせるのはもったいない。
この設定で何作か書いてもらって、連作長編にならないかなぁ。


■理解できたが、面白さがいまひとつなもの

「まず牛を球とします」柞刈湯葉
牛肉は食べたいが、牛は殺したくない。
それを可能になった未来世界の物語。
主人公を取り巻く世界のカオスぶりが・・・

「クラリッサ殺し」小林泰三
VRを用いて『レンズマン』の世界へ入った女子高生の前で
同級生が殺される・・・というSFミステリ。
うーん、読んだ直後は、このオチで「ああそうか」って思ったけど
よくよく考えるとおかしいんじゃない?
ラスト1行のインパクトも、私にはいまひとつ。

「お行儀ねこちゃん」片瀬二郎
同棲していた彼女が飼っていた猫を、誤って死なせてしまった男。
なんとかこれを誤魔化そうと、通販で怪しげな装置を買い込むが・・・
終盤に行くに従って、どんどんシュールな雰囲気になっていく。
でもこういうのは苦手です。


■私には理解できません・・・

「七十人の翻訳家たち」小川哲
”七十人訳聖書” って、てっきり本作のための
架空の存在かと思ってたら、実在してるんですねぇ。これはびっくり。

「キャット・ポイント」高島雄哉
広告代理店で働く ”ぼく” は、猫を使った新しいCMを考案するが。
SFで猫と言ったら、もうこのパターンはお約束なんですかね。

「流下の日」飛浩隆
40年の間、偉大な首相が統治し続けるパラレルワールドの日本。
崩壊しつつあった ”家族” という制度を
自ら率先して、広くかつゆるやかに定義し直して、
再び国民を ”家族” の中に置くことに成功した。
そんな中、主人公の ”私” は故郷へ向かう。
そこは偉大な首相の出身地でもあった・・・
登場人物たちの日常レベルの会話を読む限りでは
ごく普通の田舎の話なんだけどね・・・

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月輪先生の犯罪捜査学教室 [読書・ミステリ]


月輪先生の犯罪捜査学教室 (光文社文庫)

月輪先生の犯罪捜査学教室 (光文社文庫)

  • 作者: 秀文, 岡田
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★

名探偵・月輪龍太郎(がちりん・りゅうたろう)シリーズ、初の短編集。

東京帝國大学に、一風変わった講座が開設された。
その名も「犯罪捜査学」。実際に起きた未解決事件を題材に
フィールドワーク(現地での見聞)も加えて真相を推理しようというもの。

講師はもちろん月輪龍太郎だが、参加した学生は
原口孝介、肥崎(こいざき)春彦、松坂栄次郎のわずか3名。
個性豊かなこの3人が、事件をめぐって
あれこれ推理を戦わせていく・・・

「月輪先生と高楼閣の失踪」
高楼閣は半年前に落成したばかりの6階建ての(当時としては)高層建築。
1~5階には売店が2~3軒ずつ入り、6階は展望台になっている。
ある日、高楼閣建設に当たって共同出資者となった実業家、
高梨義佐(たかなし・ぎすけ)と村雨利文(むらさめ・としふみ)が
そろって高楼閣を訪れた。5階の売店で高梨が買い物をしている間に
村雨が6階の展望台に上がっていったが、そこで姿を消してしまう。
4階と5階を結ぶ階段では、窓を修理する職人が働いており、
上から降りてきた者はいないと証言した。
そして二日後、町外れの酒蔵から村雨の死体が発見される・・・
この人間消失トリックはなかなかよくできてる。

「月輪先生と『湖畔の女』事件」
原口は最近、洋画家・梶川豊水(ほうすい)の元へ絵を習いに通いだした。
ある夜、豊水の元から帰る途中、不審な男に遭遇する。
男は豊水に会うと称して屋敷に入るが、そのまま姿を消してしまう。
その数日後、豊水の息子・鹿之助が誘拐され、身代金の要求が・・・

「月輪先生と異人館の怪談」
3人の学生は、伊藤博文に紹介するという言葉にのせられて
そろって大磯の海岸へやってきた。
そこで見つけた洋館には、15年前まで英国人の一家が住んでいたが
一人娘が海で亡くなり、夫婦が帰国してからは空き家となった。
しかしそこでは、夜になると子どもの泣き声が聞こえるのだという。
その話を聞きこんだ3人組が洋館の地下室を探ると、
そこには数日前に死んだと思われる男の死体が・・・

「月輪先生と舞踏会の密室」
政府高官・海田源五郎主催の舞踏会へやってきた月輪と3人組。
舞踏会場となった大広間の柱時計が8時の鐘を鳴らした直後、
銃声のような大音響が発生する。その数十秒後、海田が倒れる。
直ちに医師が診察し、胸の傷から弾丸が摘出されるのだが・・・
”密室” といっても出入り不能な密室なのではなく、会場にいた誰も
海田を撃つことができなかったという不可能犯罪。
このトリックはちょっと苦しいかなあ。
真相も反則技ギリギリっぽいし。


講座の学生3人はみな天下の帝大生なので、それぞれ自信たっぷりに
自分の推理を開陳するという多重解決もの。
しかしまあ、いずれも欠陥を指摘されて最後は月輪が真相を指摘する、
というのはお約束の展開ではある。

3人の学生はみな性格も体型(笑)も異なっていて個性的。
事件に可愛い女性が絡んでくると、
先を争って解決しようと奔走するのも可愛い。

巻末ではまだ続きがありそうにもとれるので、
またいつか続きが読めるのかも知れない。

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