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1984年のUWF [読書・ノンフィクション]


1984年のUWF (文春文庫)

1984年のUWF (文春文庫)

  • 作者: 健, 柳澤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: 文庫
1981年4月、一人の覆面レスラーが現れた。
その名は「タイガーマスク」。

 後に、他の団体などにも同様の虎のマスクのレスラーが現れたため、
 しばしば ”初代” と呼ばれることになる。

当時はアントニオ猪木率いる新日本プロレスのTVにおける全盛期で、
毎週金曜日午後8時というゴールデンタイムに
レギュラー放送の枠を持っていた。

それを中継するアナウンサーたちの筆頭には古舘伊知郎。
独特のハイテンションで熱く叫ぶそのアナウンスは、
視聴者を否が応でも沸き立たせたものだ。

そこに現れたタイガーマスクは、その華麗な空中殺法で
観客を熱狂させ、その人気は猪木をも超えるものだったという。

 私も、TVの前にかじりついて見ていたクチだ。
 もちろん、猪木よりもタイガーマスクの方が目当てだった。
 彼の正体が「佐山聡(さとる)」という若手レスラーであったことは
 かなり後で知ることになった。


しかし人気絶頂だった83年8月、タイガーマスクは
突如新日本プロレスとの契約を自ら解除し、引退してしまう。

84年4月、新団体UWFに現役復帰して参加するが、
UWFが85年9月に活動休止してからは、
プロレスの世界に戻ることはなかった

その後、旧UWFのレスラーたちは新日本プロレスのリングに上がるが、
その中の一人、前田日明は88年2月に契約解除される。

88年5月、前田はUWF(第2次)を再結成する。
しかし90年12月、第2次UWFは解散し、3団体に分裂した・・・


UWFという団体はTV中継を持たなかった。
今ならネットや衛星放送など多様な媒体が存在するが
当時、TVがないというのは致命的で、ほとんど情報が入ってこない。

実際にUWFの試合に足を運んでいるコアなファンならともかく
私のようなTVでしかプロレスの情報が入ってこない人間にとっては
何が起こっているのか知る術はなかった。

「週刊プロレス」のような活字媒体はあったが、
毎週買うほどのこだわりを持たなかったし。

私的な事情を書くと、このあたりは私が就職して最初の数年間にあたり
仕事に集中しなければいけない時期でもあった。
そういう慌ただしい時間を過ごす中で、
自然と「タイガーマスク(佐山聡)」「UWF」という存在から
だんだんと離れていってしまったのも仕方がなかったのだろう。
でも、多くの疑問が心の中に残っていたのも事実だ。


一番大きな疑問は、

・なぜタイガーマスク(佐山聡)は、人気絶頂のさなかに
 新日本プロレスを離れたのか?

そして、それに続いて浮かぶ疑問は

・なぜ佐山聡はUWFに参加したのか?
・そもそもUWFとはどういう目的の団体だったのか?


私が本書を読んだのは、上の疑問の答えが知りたかったからだ。
そしてそれは十分かなえられるのだが、それに加えて、
UWFという ”ムーヴメント” が
日本のプロレス界にもたらしたものをも教えてくれる。

・第1次/第2次UWFの旗揚げに関わった前田日明とは、
 どんなレスラーだったのか?
・なぜ佐山聡は第2次UWFに参加しなかったのか?
・佐山聡が目指していたことは何だったのか?


全ての始まりは、プロレスラーとプロレスファンが
「同床異夢」の関係にあったことだろう。

 何がどう異なっていたかはここには書かない。

プロレスファンが求める ”理想” に、
レスラーの側から近づこうとしたのがUWFだった。


本書の前半は、天才的なセンスと並外れた運動能力を持つ佐山聡が、
新しい格闘技(後の「シューティング」)の姿を求めて
次第にプロレス界から逸脱していく様が描かれる。

全編を通して名前が出てくる前田日明は、
前半では理想に燃える好青年として、
後半ではUWF人気に沸くマスコミに祭り上げられて
やや ”増長” した ”ヒール” 風に描かれる。

 当然ながらノンフィクションと言っても
 著者のフィルターを通して描かれる訳なので、
 当事者からしたら「これは違う」という意見もあるだろう。

他にも、人気レスラーが多く登場する。
藤原喜明とその奥さんのエピソードには感激するし、
高田延彦が後にPRIDEで「出てこいやー!」って叫んだり
ハッスルで ”高田総統” に扮したりする行動が
なんとなく理解できるようになった気もする(笑)。
(UWF時代と同じ人間がやってると思えなかったんだけど)


今でも、プロレスもエンターテインメントの一角として
根強く人気を保ち、総合格闘技もすっかりメジャーな存在となったが
UWFが存在したことが日本の総合格闘技の普及に
大きく関わったことも本書は記している。


いちおう老婆心ながら付け加えておくと、ひょっとして
本書の内容にショックを受ける人もいるかも知れない。

まあ、本書を読む人で ”プロレスとはどういうものか” を知らない人は
いないと思うのだが、念のタメ。

プロレスラーとプロレスファンの「同床異夢」の内容を
すべて白日の下にさらしてしまった
『流血の魔術 最強の演技』(ミスター高橋)
を読んでる人なら大丈夫ですが(笑)。

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