SSブログ

レジまでの推理 本屋さんの名探偵 [読書・ミステリ]


レジまでの推理: 本屋さんの名探偵 (光文社文庫)

レジまでの推理: 本屋さんの名探偵 (光文社文庫)

  • 作者: 鶏, 似鳥
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

私の弟は高校を卒業して某書店チェーンに就職した。
学生時代から小説もマンガも大好きな奴だったので、
「本屋で働く」というのは自然な選択だったのかも知れない。

しかし、4年間勤めたら退職してしまい、家業を継ぐことになった。

力仕事が多くてキツい(本は重いからねぇ)とよくこぼしていたが
直接の退職理由は、仕事の中身以外のところにあったみたい。
本屋の店員さんにもいろいろ苦労があるのだなあ・・・
「本が好き」だけではやっていけないこともあるんだなあ・・・
なんて思ったものだ。

 もっとも、家業(親の仕事)だって楽なものではなかったし、
 収入も不安定だったから、親は私にも弟にも「家業を継げ」とは
 ひと言も言わなかったんだけどね・・・

閑話休題。

本書は、その書店員さんたちの物語だ。

語り手の青井くんは書店で働く学生アルバイト。
彼が職場で遭遇した事件を描いた ”日常の謎” 系ミステリの連作。

「7冊で海を越えられる」
閉店後も残っていた若い男性客は、青井くんに相談を持ちかけてきた。
彼は来月からアメリカに留学することになり、
つきあっていた彼女にそのことを打ち明けた。
しかし彼女は激怒してしまい、彼の家に7冊の本を送りつけてきて
それ以来電話もメールも受け付けず、会ってもくれないという。
7冊の本に込められた意味を、店長さんが鮮やかに解き明かす。
その7冊の中に「君がいなくても平気」(石持浅海)が入ってるのが
個人的にツボだった(笑)。

「全てはエアコンのために」
青井くんのいる書店でアルバイトをしている池辺くんを尋ねて、
島尻という青年がやってくる。
4日前、島尻の引っ越しを池辺くんが手伝ってくれたのだが
そのあと、島尻が大切にしていた本がなくなっていた。
人気ライトノベル作家・蓮見喬(はすみ・きょう)のサイン本である。
しかし、池辺くんがそれを持って帰れたはずはなかったのだ・・・
無くなった本の行方が最後に明かされるけど、
実際にこれやろうと思ったらけっこう大変だと思うなあ・・・

「通常業務探偵団」
青井くんの働く書店で、蓮見喬のサイン会が開かれることになるが、
貼られていた蓮見喬の新作販促ポスターに落書きされる事件が起こる。
しかし防犯カメラと機械警備の記録から、
ポスターに近づけた人間はいないことがわかったのだ・・・
本屋さんで起こる ”不可能犯罪” というのは初めてかな(笑)。

「本屋さんよ永遠に」
店頭に並べられている本に、書店に対する脅迫文が
挟み込まれるという事件が頻発するようになる。
文面は次第に過激になり、ついには「今晩23時」に
何らかの行動を起こす、という脅迫めいたものになる。
青井くんたちは、指定された時間に書店の前で張り込むのだが・・・

連作短編の場合、最終話まで読むと全体が一つにつながる、
という展開がよく見られるが、本作も最終話まで読むと
全体の仕掛けが分かるようになっている。
ネタバレになるので詳しく書けないが、
本作の場合はかなり ”ひねり” が効いているとだけは言えるだろう。


ミステリとしての趣向も十分あるけど、それと同じくらい、あるいは
それ以上の比重を以て書店員さんたちの ”日常業務” が描かれる。
基本的にはみなさん楽しく働いているのだけど、
「万引き問題」や「出版不況」など、
書店そのものの存亡に関わる問題も描かれていく。

私もミステリの文庫本を初めて買ったのは実家近くの個人経営の書店。
中学生から大学生までの間にいろんな本を買ったものだ。
創元推理文庫でヴァン・ダインやクイーンを知ったのも、
角川文庫で横溝正史と高木彬光を知ったのもこの店だった。

残念ながら、ここ20年ほどの間、街の書店はどんどん減ってる。
私の実家近くのこの書店も、10年くらい前に閉店してしまった。

店頭でいろんな本を眺めながら探すのは
通販サイトにはない楽しみなんだけど
これからはショッピングモール内の書店か
三省堂とか紀伊國屋みたいな大手チェーンくらいしか
生き残れないのかなぁ・・・

nice!(5)  コメント(5) 
共通テーマ: