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京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ [読書・ミステリ]


京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ (角川文庫)

京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ (角川文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

京都大学の構内には、「三号館」と呼ばれる謎の店があるという。
毎回違う場所で営業している神出鬼没の不思議なバーだ。
そこには「謎」を抱えた者しかたどり着けず、そこでは
美しい女性マスターが、その「謎」をすっきり解決してくれるらしい。

主人公・遠近倫人(とおちか・りんと)は一浪して京都大学法学部へ合格、
”加茂川乱歩” というサークルに入った。
その活動内容は、京都市内を散策すること(優雅だねぇ)。

そこで理学部一回生の青河幸(あおか・さち)に一目惚れした倫人は
中学高校時代の同級生で工学部二回生の東横進(とうよこ・すすむ)の
いささか強引な ”サポート”(余計なお世話?)のもと、
彼女との距離を縮めようと奮闘する。

この3人に加えて ”加茂川乱歩” の副会長で和服が似合う京美人、
文学部二回生の千宮寺麗子(せんぐうじ・れいこ)、
ハーフかと見紛う美貌にナイスバディの
経済学部一回生・灰原花連(はいばら・かれん)など、
個性豊かなメンバーが登場する。

そんな彼ら彼女らの周囲で起こる不思議な出来事を巡る
”日常の謎” 系ミステリの連作短編集。


「クローバー・リーフをもう一杯」
4月。新歓イベントで京都市内の散策を終えた
”加茂川乱歩” のメンバーは、6時開始のコンパまで一旦解散となる。
その間に、倫人は青河と一緒にコンパ用グッズの調達に出かけた。
買い物を終えた二人は、四つ葉のタクシーに
灰原が乗り込むところを目撃する。時刻は4時45分。
しかし、コンパ会場に着いた二人の前に現れた
同じナンバーの四つ葉のタクシーからは
千宮寺と一緒にサークルの会長・大溝が降りてくる。
二人がタクシーに乗ったのも、4時45分だったのだという・・・
古典的というかあまりにもベタなので、かえって
誰も使わないようなアリバイ・トリックなのが逆に新鮮かも。

「ジュリエットには早すぎる」
5月。倫人・青河・東横・千宮寺の4人は、
先斗町(ぽんとちょう)歌舞練場まで、”鴨川をどり”
(舞妓さんが歌と踊りを披露するイベント)を観にいく。
倫人がもらったチケットの席は、青河の斜め後ろだった。
しかしイベントが終了したとき、なぜか倫人の隣には青河が。
しかも彼女は、席の移動はしなかったという・・・
これもある意味ベタなトリックだけど、
実現させるのはけっこう手間だろうなぁ。

「ブルー・ラグーンに溺れそう」
6月。京都水族館へやってきた ”加茂川乱歩” のメンバー。
青河と二人で回っていた倫人は、藤ミーナという女性と知り合う。
しかし彼女は、衆人環視の中で姿を消してしまう。
消失の謎自体は見当がつくけど、なぜ姿を消したかの方がメインの謎。

「ペイルライダーに魅入られて」
7月。祇園祭に出かけた ”加茂川乱歩” のメンバー。
青河との仲が進展しない倫人は焦りを覚えていたが
その青河が、祭りの最中に突然意識を失い、倒れてしまう・・・
今回は、倫人以外に過去に「三号館」を訪れた人物が登場する。

「名無しのガフにうってつけの夜」
倫人が今回見つけた「三号館」は、サークルが使用している
プレハブボックス棟にあった。そして倫人が「三号館」を出た1時間後、
そのプレハブ棟は火事に遭い、「三号館」があった部屋が燃えてしまう。
しかし燃えた部屋に入った倫人は驚く。
そこには酒場の痕跡を残すものは全くなかったのだ。
わずか1時間で、すべての備品を運び出すことなどは不可能だ・・・


「三号館」の美しき女性マスター・蒼馬美希(そうま・みき)は、
訪れた倫人から「謎」の話を聞きながら、毎回異なるカクテルをつくる。
これがまた上手そうに描写されてる。
私は滅多にカクテルなんて飲まないんだが
(というより、そんなバーに行くこと自体が希少だ)
各話の扉ページにカクテルのレシピが載ってるので
自分でも飲んでみたくなる。

美希さん自身が真相を語ることはなく、ヒントらしき事を仄めかすだけ。
倫人は彼女との会話を通じて解決への筋道を見つけ出すわけで
最終的に事態を収めるのも彼の役回りになる。

「三号館」の存在自体がファンタジーで、
最後までその正体は知れないままなんじゃないかと思ったのだが
最終話では意外な形で美希さんの秘密が明かされる。
野暮を承知で書くと、彼女の身分でこれやってるってマズくない?


ミステリとしてよりも、京都を舞台にした
学生たちのキャンパスライフのほうに興味を覚えた。
私も大学に行ったけれど、地味~で不毛な(笑)4年間だったからねぇ。
つまらないわけではなかったし、それなりに充実した部分もあったけれど
もっとはっちゃけて過ごしても良かったんじゃないかなぁ・・・なんて
このトシになって思ったりする。


ちなみに、最終話でミステリ研の上級生として
瓶賀(みかが)という女子学生が登場するが、
これはあの「ルヴォワール」シリーズの瓶賀さんだよねぇ。
この2つのシリーズに限らず、この作者さんの作品は、
だいたい同じ時空を共有してるみたい。


さて、美希さんの正体が明かされて、これで終わりなのかなぁ・・・
と思ったのだけど、本書には続巻があった。
これも手元にあるので近々読む予定。

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