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名探偵の証明 [読書・ミステリ]


名探偵の証明 (創元推理文庫)

名探偵の証明 (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 哲也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/12/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

第23回(2013年度) 鮎川哲也賞受賞作。

屋敷啓次郎(やしき・けいじろう)は1980年代に活躍した名探偵。

本書の冒頭は、まさに彼の絶頂期に当たる36歳の屋敷が登場する。
東京湾に浮かぶ島で、本土とは連絡がとれず、交通の手段もない。
そんな場所で起こった連続殺人事件を見事に解決する様が描かれる。

そしておよそ30年近い時が流れ、屋敷も還暦を超えた。
秘書だった女性・美紀と結婚し、一人娘の七瀬はアメリカに留学中。

屋敷自身はある事件で瀕死の重傷を負い、回復はしたものの、
そのせいで美紀は夫に探偵業からの引退を求めていた。
屋敷はそれを拒みながらも、心身、特に頭脳の衰えを
日々実感するようになり、探偵事務所は開店休業の状態にあった。

そんなところへ、かつての相棒で元刑事の
武富竜人(たけとみ・たつひこ)がやってくる。
資産家・桝蔵(ますくら)敏夫のもとへ
脅迫状が届いた事件を持ち込んできたのだ。

脅迫状の内容は
『蜜柑花子を呼べ。呼ばなければ災難が降りかかる』
というもの。
蜜柑花子は女子大生にして名探偵、さらには
タレント活動もしているという当代一の人気者だ。

武富には、この事件に割って入って蜜柑花子よりも先に事件を解決し、
屋敷の名探偵としての復活を後押ししようという魂胆があった。

二人が人里離れた山中にある桝蔵の別荘へ到着したのもつかの間、
彼の長男・草太(そうた)が密室状態の中で殺害される。

蜜柑花子と共に事件の捜査にあたる屋敷は、
見事に真相究明に成功したかと思われたが・・・

普通ならここでエンドマークが出てもおかしくないのだけど
本書はここから先が長い。文庫で300ページほどの本なのだけど
この時点で、残りが100ページ以上ある。
これまでが長大な前振りで、ここから本編が始まるともいえる。

桝蔵家の事件を追えた屋敷は今度こそ引退を決め、
平穏な生活に入るが、ふたたび密室殺人事件に遭遇してしまう・・・


「麒麟も老いては駑馬に劣る」
誰でも還暦くらいの年齢を迎えれば、
多かれ少なかれ身に覚えのあることだろう。

 私の場合、若い頃にどれだけ ”使える人間” だったかはともかく(笑)、
 少なくとも今よりは体力も根性もあったし、
 トラブルに遭遇しても踏ん張れる気力があった。

まして屋敷は、”名探偵” として一世を風靡した男なのだから、
自らの能力の衰えを実感した哀しみはひとしおだろう。

でも、そこで枯れてしまわないのが屋敷だ。
一度は決めた引退を撤回し、現役へと復帰する。
彼にとって探偵とは仕事ではなく、生き方そのもの。
痩せても枯れても、頭がボケようが足腰が弱ろうが(笑)
妻や娘に反対されようが、探偵は辞められない。
本書の終盤は、そんな屋敷の生き様が描かれていく。

 年金が出るようになれば、すっぱり仕事を辞めてしまいたいと
 思ってる私とはえらい違いだが・・・(笑)


本書では2つの密室殺人が登場する。トリックについてはどちらも
古典的というかベタなものなので、それ自体への驚きはない。
それよりも「なぜ密室をつくったのか」に重きが置かれている。
その ”動機” が、本書のキモだろう。

見事に2つの密室殺人事件の背景を解き明かしてみせる屋敷なのだけど、
この結末はちょっと切ないねぇ。
昭和の頃のマンガやドラマみたいなラストだよ・・・


蜜柑花子女史については、一足先に短編集『屋上の名探偵』で
高校生時代の彼女のエピソードを読んでたけど
女子大生になっても基本変わってませんね。

本書の続巻『名探偵の証明 密室巻殺人事件』では
彼女が主役を務めるそうなので期待してます。

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