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透明カメレオン [読書・ミステリ]


透明カメレオン (角川文庫)

透明カメレオン (角川文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/01/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公・桐畑恭太郎(きりはた・きょうたろう)はラジオ局に
事務方として入社したが、そのイケメン過ぎる声を見込まれて
パーソナリティとしてデビューする。
恭太郎の声は人気を呼び、自分の番組を持つまでになるが
自らの美声と冴えない容姿との落差にコンプレックスを抱いていた。

一日の仕事を終えた後、場末のバー「if」に立ち寄るのが日課だったが
ある大雨の夜、その「if」にひとりの女性が現れたときから
恭太郎の生活は大きく変わり始める。

彼女は三梶恵(みかじ・けい)と名乗り、
恭太郎を含めた「if」の常連たちは、行きがかり上(笑)、
彼女の ”企み” に否応なく協力しなければならない羽目に陥る。

意味不明な恵の指示に戸惑う恭太郎たちだったが
どうやら彼女は、ある男の命を狙っているらしい・・・


文庫で約440ページと結構長いのだけど、サクサク読める。
登場するキャラがみな個性的で分かりやすいのもあるだろう。

まず、主人公の恭太郎は優柔不断で意気地が無い。
ラジオの自作が趣味で、それもコイルをせっせと巻いて作る
ゲルマニウムラジオだったりする。(私も中学生の頃に作ったものだ)
34歳にして女性との交際経験も無いなど、奥手にもほどがあるのだが
そんな彼は三梶恵に一目惚れしてしまう。
途中からは、恵が恭太郎のマンションに転がり込んで同居を始める。
もちろん部屋は別だが(笑)。このあたりは王道のラブコメでもある。
彼女を相手に様々なシチュエーションで煩悶する姿も笑いを誘う。

ヒロインの恵は20代なかばで、かなり向こうっ気が強いお嬢さん。
「if」常連メンバーの鼻面をつかんで振り回すようなところもあれば
恭太郎に対して(たまに)食事を作ってくれたりと優しげなところもあり、
したたかに見えるときもあれば、しおらしく見える時もあって
その硬軟の併せ技に、純情な恭太郎くんは翻弄されてしまう(笑)。

「if」のママの輝美(てるみ)、人気キャバ嬢の百花(ももか)、
害獣害虫駆除会社を経営する石之崎(いしのざき)、
ゲイバーでホステスをしているレイカ、
仏壇店の7代目店主・重徳寺重松(じゅうとくじ・しげまつ)など
多士済々の常連さんたちもそれぞれキャラが立っていて、
恵が引き起こすドタバタ劇に巻き込まれていく。


基本的には物語はコメディ調で進んでいくのだが
終盤はかなりサスペンスが高まり、恭太郎たちも生命の危険にさらされる。
ラスト近くで恭太郎が打って出る、一世一代の勝負がクライマックス。
さすがに主人公だけあって華々しい見せ場が用意されている。


ミステリ的な一番のヤマ場は、恵の抱えた ”事情” が解決した後、
ラスト30ページに訪れる。
殺人事件が起こるようないわゆる普通のミステリではないのだけど
何気ない描写の積み重ねが伏線として回収されて、
このラストへつながる。これには驚かされたし、お見事です。


星4つつけてもいい作品だと思うんだけど、
最後まで自分の正体というか本音を明かさない恵さんが
どうにも好きになれなくてねぇ。星半分減点しちゃいました。
いや、最後まで読めば彼女の事情はよく分かるのだけどね。
彼女に振り回される恭太郎君があまりに可哀想に思えたので(笑)。

まあ、この物語が終わった後は
もっと素直になって恭太郎君に接してくれるんでしょうけど。

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