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ヘルたん ヘルパー探偵誕生 [読書・ミステリ]


ヘルたん - ヘルパー探偵誕生 (中公文庫)

ヘルたん - ヘルパー探偵誕生 (中公文庫)

  • 作者: 愛川 晶
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/10/23
  • メディア: 文庫

評価:★★★

主人公の神原淳(かんばら・じゅん)は仙台の高校を卒業した後、
IT系の専門学校に入ったが2か月で挫折、引きこもりになってしまった。
しかし両親が借金取りに追われて夜逃げしてしまい、音信不通に。
ひとり残された淳は、東京在住の遠縁の親類・田代の仲介で
浅草に住む成瀬秀二郎の家に居候することになる。

成瀬はかつて名探偵と謳われた男だったが、81歳の現在は認知症が進み
いわゆる ”まだらボケ”(正式には「まだら認知症」というらしい)状態。

そこで淳は、高校の先輩にして初恋の女性でもある中本葉月と再会する。
美人で長身でスタイル抜群、バレー部のアタッカーだったが
1年の終わりに退部、その後は髪を赤くそめてヤンキーに(笑)。
高校卒業と同時に上京した葉月は、浅草で介護ヘルパーとして働いていた。


「パルティアン・ショット 甘い抱擁の謎」
葉月に誘われるままに、淳もまた介護の道へ踏み込んでいく。
しかし淳の脳裏には、どうしても解けない謎があった。
高校1年生のとき、夜の学校のプール横で、
葉月と淳、2人の間に起こった、”あのこと”。
なぜ彼女は、あんな行動を取ったのか・・・

「ミラー・ツイン 双子を襲った惨劇」
淳はヘルパー2級の通信教育を受けることになり、
そのスクーリングで志賀未来(しが・みらい)という女子大生と知り合う。
16年前、彼女の家では祖父・剛三(ごうぞう)が孫(未来の兄)・研二の目を
ナイフで突き刺し失明させてしまうという悲惨な事件が起きていた。
その後、祖父も研二も亡くなり事件の真相を知るものは
祖母と成瀬の二人だけ。その祖母も6年前に亡くなってしまった。
淳が成瀬の家に住んでいることを聞いた未来は
成瀬に会わせてくれるように頼むのだが・・・

「シュガー・スポット 愛染明王の涙」
仙台から淳のかつての担任教師・岩淵が上京してくる。
彼の口から、淳は葉月の複雑な家庭環境を知る。
どうやら、葉月が浅草でヘルパーをしているのは
何か理由があるらしい・・・


探偵として登場する成瀬は、認知症の状態にある。
おそらくこのタイプの人が探偵役を務めるのは
ミステリ史上初じゃないのかな。
なんでそんな人に探偵が務まるのかは読んでのお楽しみだ。

ミステリであると同時に、ヘルパーという職業の
一端を垣間見ることのできる ”お仕事小説” でもある。

 私の父も、晩年は自力で歩くことが困難になって
 週2日ほどヘルパーさんのお世話になっていたが、
 そのへんの対応はほとんど母任せだったから、
 介護という仕事の大変さはよく分かっていなかったよ。

もちろん、この本でヘルパーの仕事のすべて分かるわけではないが
物語の中の描写だけでもなかなか容易ではないことが理解できる。

力の要る仕事だろう、というのは予想の範囲内だが、
意外だったのは、けっこう制約というか決まりごとが多いこと。
介護先では、「アレ」はしてはいけない、「コレ」はしてはいけない。
もちろんきちんと理由のあることで、言われてみればなるほどと思う。


そして本書は、二人の女性の間で揺れ動く淳くんの青春物語でもある。
もちろん彼の思慕の情は葉月さんに向かっているのだけれども
未来さんもまた、いろいろ事情を抱えたちょっと ”難しい” お嬢さん。

淳くんは、未来さんの母親にもなぜか気に入られてしまって
着々と外堀を埋められ始めてるような気も(笑)。

本書の最後で、葉月さんは仙台へ帰ってしまうんだが
そのまま消えてしまうとは思えない。
淳くんのヘルパー生活も始まったばかりだし、
どこかで再会の物語も描かれるのだろう。

このシリーズは続巻が刊行されてるんだけど、
なぜかまだ文庫化されてないんだよねぇ。
私は基本的に文庫しか買わない人間なので、
淳くん・葉月さん・未来さんの話が読めるのはかなり先になりそう。

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